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「病院が病院である前に」京都大原記念病院グループが目指す地域に溶け込む病院像とは

2023年06月01日

「病院が病院である前に」京都大原記念病院グループが目指す地域に溶け込む病院像とは

京都大原記念病院グループの紹介

1981年、京都大原地域初の医療機関として「京都大原記念病院」を開設。以来、京都近衛リハビリテーション病院(2018年)、御所南リハビリテーションクリニック(2013年)を加え、リハビリテーションを中心とした医療・介護の総合ネットワークを展開している。

京都大原記念病院グループは、リハビリテーションを中心とした医療・介護サービスを提供しています。高齢者の生きがいとなる場として「京都シニア大学 ウェルネス部※」や地域住民のつながりを支える「大原健康プロジェクト」の取り組みを行っています。 人口約2000人、高齢化率が約50%の町で始まったユニークな活動が一体どのような発想や経緯で生まれたのか、京都大原記念病院グループ広報担当責任者の髙祖悠さんにお話を伺いました。

先入観なく、地域や人と触れ合うことはチャンス

京都シニア大学 ウェルネス部は偶然のご縁から生まれました。2018年、ある高齢夫婦がおだやかに、ていねいに暮らす姿を追うドキュメンタリー映画『人生フルーツ』(監督:伏原健之)を題材に、映画館で医療職と一般の来場客が語り合う企画を開催しました。この時にタイアップしたフリーペーパーで「生涯学習を通じた生きがいづくり」と掲げた大学の広告を見かけ、飛び込んでみることにしたのが最初のきっかけです。

大学が「ウェルネス」をテーマに新たな活動を検討していることを知り、病院とのタイアップを提案したところ、後日「手伝ってもらえないか」と協力の打診を受けました。きっかけはどこにあるかわかりません。広報というどこにでも行く用事が作れる立場も活かして、病院外の人や価値観と接することを大切にしています。先入観なく触れ合うことが、自分(自院)にはない視点や新たな発想が得られるチャンスを生むと考えています。

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場を共創する。

学生さんの期待はウェルネス部を、備えとして学ぶ(情報が欲しい)だけでなく、心と身体の健康をテーマに「今日を楽しむ」機会となることを期待されていました。病院の立場ではなく、学生さんと向き合い、来週も来よう!と思える「場」をつくることに意識をシフトしました。まずは学生さんに役割を担っていただくようにしました。講義の内容を充実させるだけでなく、この場で学生さんが役割を持つことも重要な意味があると思います。

カリキュラムは定期的に学生さんと相談しながら決めるようにし、会場設営、受付、資料配布などは学生さんにお願いしました。内容は、グループの医療・介護スタッフによる正しい医療・介護情報をわかりやすく解説する講義を基本軸とすることは変えず、当院農園での農業体験、大原の四季を楽しむ屋外ウォーキング、活動趣旨に賛同いただいた企業の講義などでアクティビティ要素を拡充しました。祝日などを除き、毎週1回、年間36回開講しています。

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本音が飛び交う臨場感あるユーザーヒアリング

1回以上の世話役とのミーティングなどを通して対話を重ねています。直近のアンケート(n=13)では、ウェルネス部の活動内容に学生全体が満足され、8割の学生さんが生活習慣を見直し実践されていることを確認できました。「学びがあり、そこで感じたことを誰かと共有できる。私はそこに、よし!がんばろう!と心に張り合いが出ます」という声に「心と身体の健康」のテーマが軌道に乗ってきたことを感じています。ウェルネス部創設当初に根強かった「病院との関係は病気になってから始まるもの。縁がないに越したことがない」との認識が今や、健康に過ごすために継続的な関係を期待される「身近な存在」へと確実に変わって来ています。そこに活動の成果を感じています。講義には臨場感があり、学生さんの忌憚のない話を聞くことができます。その意味で、毎回の講義では一般企業でいうユーザーヒアリングに近い対話を重ねられているように思います。病院内では得がたい内容に、私たちにとっても病院のあり方を考える学びの機会になっていることを感じます。

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生涯の学習の場「京都シニア大学」について

「京都シニア大学」は55歳以上の方を対象とした週に一度開講されるシニアのための大学。午前の一般教養講座では、毎回様々な分野の講義が行われ、午後の選択科目では、入学時に選んだ、より専門的な分野を学ぶことができ、生き生きと学び、友と語らう場を提供されています。

病院のコンセプトを言語化したことの重要性

広報にとって、ステークホルダーとのコミュニケーションギャップ(認知)を埋め、良好な関係性を構築することが重要な役割だと思っています。私が広報担当に着任した当初、リハビリ専門病院という自己認識に対して、どうも一般の人には単に高齢者を預かる老人病院と思われているようだという趣旨の話がよくあがっていました。当時は認知というよりは、集患を目的としていましたが、リハビリというキーワードでの露出をプレスリリース、ラジオコーナー企画、ウェブサイト、Facebook、イベント等を通じて増やすことでリハビリ専門病院としての認知獲得に貢献できたと思っています。その認知もあって、京都シニア大学との関係が始まったと考えています。

ただし、着眼点がリハビリ一辺倒になっていたことは課題でもありました。京都大原記念病院グループとして事業展開していることを考えた時、リハビリが「全てではない」ことは認識しておく必要がありました。2020年頃からグループの歴史を振り返りながらまとめる作業に着手し、そこで改めて、グループは人と向き合い、社会の変化に応じて「いつでも安心して、ご満足していただける医療・介護サービス」を追求した結果、リハビリ医療をコアとするトータルヘルスケアを形にしてきたことを再認識しました。この理念、沿革、近年の取り組みなどをアイデンティティと捉えて言語化し、冊子(呼称:コンセプトブック)にまとめ、以降の広報活動の軸として明確にすることができました。

コロナ禍で途絶えた地域の交流を復活させた「大原健康プロジェクト」

グループにとって地域との関わりには、地域貢献の側面と、グループのオリジナリティを育んできた側面が共存します。しかし近年は、新型コロナウイルスの感染拡大もあって積極的な働きかけは少なくなっていました。その意味で、2022年に始まった「大原健康プロジェクト」は重要な機会と捉えています。2021年の夏頃、“健康”をテーマに何かできないかと、グループの地域包括支援センターを介して相談が入りました。お声かけいただいたのは大原地域の運動会に関わる大原自治連合会、大原社会福祉協議会、大原体育振興会の皆さんです。運動会は人口約2000人の地域から、毎年300人くらいが参加する一大行事ですが、新型コロナウイルスの感染拡大により2年連続「中止」が決定
したことを受けて、ご相談いただきました。月1回程度の打ち合わせで、本来、運動会は住民同士が顔を合わせる機会として大切にされていることを知りました。そこで単なる健康教室ではなく、特にコロナ禍で外出の機会が減った高齢者に機会を提供する地域交流イベントと位置付けて取り組むことを確認しました。最終的に「ウォーキングから考える健康づくり」をテーマに設定し、内容を理学療法士の講演と地域内ウォーキングに決定しました。2022年3月に一つの町でスモールスタートしたところ、その反響から12月にも別の町で開催されました。グループスタッフは最低限の事務局機能と講演のみを担い、それ以外の運営は告知を含めて住民の関係者で対応いただきました。結果、1回目の町では120人の住民のうち25人、2回目の町では135人の住民のうち37人と多くの人にご参加いただきました。大原体育振興会の会長は、各回で「病院が、我々が思った以上に乗ってくれた」と好意的に紹介くださいました。地域の交流を促す地域主体の活動を後押しできたと思っています。

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今後は地域の象徴的な存在である学校とつながりたい

良い意味で想定外だったのは、住民の小さなお子さん連れの世帯が参加してくださったことです。医療や健康をテーマに老若男女問わず地域の繋がりを生む一助になれたようで嬉しかったです。結果的に病院との関わりに肯定的な印象を抱いていただいたことは成果であると捉えています。このようなキッカケを通じて、次の目標が生まれました。今後は学校とうまくつながりたいと思っています。

小中一貫のコミュニティスクールとして、地域を支え、地域に支えられる象徴的な存在です。学生さんや教職員だけでなく、地元住民も行き交う多世代交流が自然に存在する環境で地域への愛着が育まれるとともに、9年間を通した先駆的な地域学習も展開され、全国的にも注目されています。病院が加わることで、新たな可能性を生み出すことができるのではないかと期待しています。

病院が病院である前に

広報チームのミッションは、グループの理念を伝えて適切な認知を得ていくことを基本に、ステークホルダーと良好な関係を築いていくことにあります。京都シニア大学ウェルネス部や大原健康プロジェクトは、地域社会との関わりのなかで理念を実践する一つのアクションです。参加者がその人らしく、いきいきと過ごす姿をたくさんの方に届けていくことがブランドイメージ向上に寄与すると期待しています。グループは、理念に掲げる「いつでも安心して、ご満足していただける 医療・介護サービス」のあり方を変化させてきました。病院のあり方も刻々と変化し、患者を待つだけの存在ではないと思います。地域課題に向けて共創する全国各地の事例にも学び、病院が病院である前に地域コミュニティの一員としてナラティブに関わるシステムづくりを目指したいと思っています。

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