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地域に愛される病院へ 小倉記念病院ブランド立て直し成功の裏側 病院広報は社会貢献につながる活動

2022年02月01日

地域に愛される病院へ 小倉記念病院ブランド立て直し成功の裏側 病院広報は社会貢献につながる活動

松本 卓

小倉記念病院 医療連携課

写真

1984年、長崎県五島列島生まれ。
2006年より小倉記念病院に在籍。
医事・人事・管理・企画広報課を経て、現在は医療連携課にてマーケティング業務に従事。web、SNS、メディアリレーション、イベント、動画マーケティング、クリエイティブなどコミュニケーションデザインを統括。
2018年、病院マーケティン グサミットJAPAN 理事

マーケティングの知識も経験もゼロ。小倉ブランドを“一から立て直す”という重要なミッション

1956年創立の小倉記念病院は、北九州医療圏の基幹病院として古くから地域医療に貢献するとともに高度医療にも積極的に取り組んできた。1982年に延吉正清名誉院長が日本初の経皮的冠動脈形成術(PCI)に成功後もインタベーションによる心臓血管外科、血管外科、脳神経外科、腎臓内科と連携した“全身の血管治療”を実現し、血管・循環器疾患の全ての治療において国内トップレベルの実績を重ねている。2014年に新設された企画広報課で病院広報全般を担当し、斬新な病院ブランディングを打ち出している松本卓氏に、地域から愛される病院の広報戦略について聞いた。

学生時代のバイト経験を生かし病院業界へ

私は小倉記念病院には新卒で入職しました。学生のときは病院業界に進むつもりはなく、一般企業を志望していたのですが、当時は就職難で受けた企業は全て不採用でした。大学3、4年生のときに病院の夜間救命救急の受付事務のアルバイトをしていて、外来レベルでは医療費の計算や診療報酬の請求もできたので、医療事務の経験のある病院業界なら即戦力として認めてもらえるかもしれないと思い、小倉記念病院に直接電話で問い合わせたところ、たまたま新卒の求人があり、応募したら運よく内定がもらえたのです。

最初の配属は医事課で受付業務を担当し、その後、一年も経たないうちに人事課に異動となりました。人事の仕事に6、7年携わった後、管理課に異動となり、当時混乱状態の課内の立て直しを任されました。そこで業務の改善を行い、1年10ヶ月後に企画広報課に異動となりました。当時、院長退官に伴うお家騒動があり、45人中の20人の循環器内科医が一気に辞職、医師が不在となったことで患者さんの数が激減しました。地域では「小倉記念病院は終わった」と言う噂が広がり、新しく企画広報課を作るので小倉記念病院ブランドを一から立て直して欲しいというのが与えられたミッションでした。まずはホームページを刷新し、病院のイメージを変えることを命じられました。ここから病院広報の仕事がスタートします。

事例がなければ他業界から学ぶ

私自身デザインもWebの経験もない中、ホームページの制作の仕事に追われていました。
医師にインタビューし、原稿を書き、チェックしてもらい、現場の撮影、デザイン会社やウェブ会社に依頼して記事を上げてもらう何百ページ分の作業を全部一人で行いました。かつてないほど働き、完成時には頭の中が真っ白でした。
その時にそもそも自分の仕事は何だったのかを改めて考えました。企画広報課の仕事は小倉記念病院により多くの新入院患者を呼び込むことであり、広報誌やホームページは単なるツールに過ぎない、そのために病院においてもマーケティングという視点が必要だと感じ、マーケティングの勉強を開始しました。

しかし、病院業界におけるマーケティングの実例がほとんどなかったので、マーケティング関連の本を何十冊も読み、PRプランナーという資格を取得するなど、一般企業からスキルを吸収するようにしました。一番衝撃を受けたのは、宣伝会議サミットというマーケティングをテーマにしたフォーラムに参加して、様々な業界のマーケターや広告代理店の方の講演を聞いた時ですね。テレビで見ている有名なCMのコンセプトやスマホ広告の仕組みを知って鳥肌が立ちました。頭の中に病院に応用できそうなアイデアがどんどん湧いてきたことを記憶しています。事例がなければ、他業界から学べばよい。そう考えられるようになった良いきっかけとなりました。

いつもの暮らしに、いつものあなたコンセプトは「地域愛」×「ホームページ」

ホームページのリニューアルには、Webデザイン会社のデザイナーさんにもディレクターとして参加していただき、正しく2人3脚で作り上げました。小倉記念病院が地域から信頼を取り戻すために、どのようにすべきか?を話し合っていた時に、地域の人たちをトップページで紹介して地元愛を前面に出したらよいのではないか?というアイデアが生まれました。
また、ただただ撮影するのではなく地元で有名な写真家(木寺一路氏)にお願いしようという話になりました。この取り組みがどんどん広がり、北九州の名産であるトマトや冬キャベツの農家さん、地元の動物園、花屋さんやパン屋さん、TOTOのような大企業にも協力してもらえるようになりました。

撮影に立ち合い、地元の人たちとの触れ合いの中で思わず涙が出そうになるような場面もあり、まさしくコンセプトに掲げた地域愛を、ホームページを通じて体現することができたと思っています。今の表情豊かな美しい写真はご協力いただいた方はもちろん、多くの方から高い評価をいただいています。
ホームページを刷新してから毎年増患していったことにより、ユニークで好ましいコミュニケーションの積み重ねが最終的にはブランディングにつながっていき、集患の成果を生み出すということを実感しました。
地域の方々にやっぱり小倉記念病院だと思ってもらうことが何より重要であり、リーチ数とエンゲージメントを最大化するために、届けるというところまでしっかり設計するという意識を持てるようになりました。

心臓治療をコアブランドとした広報を強化

広報戦略の中で何を強化するのかを明確にしておくのは非常に重要です。小倉記念病院は日本でトップクラスの心臓治療の実績を誇る病院なので、循環器、心臓血管外科、脳神経外科、腎臓内科をコアブランドとし、まずそこから新入院患者を増やすことに重点を置きました。
広報の立場としては、コアブランドの診療科の医師との関係性を構築しながら、いかに協力してもらうかがポイントとなります。私の場合は幸運なことに広報に配属される前から、事務の先輩と一緒に野球、サッカー、ゴルフコンペといった医師との交流イベントに参加させてもらえていたので、すでに関係性ができていたことは大きかったです。
病院事務員の中には医師とのコミュニケーションを面倒と感じ、医師に関わらないようにしている人が非常に多いのですが、人と人との付き合い方のマインドを変えないと上手くいかないことが多いですね。

患者アンケートと紹介実績を紐づけ 本当の“来院きっかけ”をモニタリング

当院は初診患者の9割以上が医療機関からの紹介で、数年前から初診患者さんに対して来院理由のアンケートを行っています。
「小倉記念病院に決めたのはあなたもしくはご家族ですか、それともかかりつけの先生からの推薦ですか、それともその両方ですか」という質問に、5割がかかりつけ医、3割が患者家族、残りの2割が両方という回答結果が出ています。
電カルに機能を増やしたわけではなくデータベースに打ち込んだだけですが、アンケートの患者IDと紹介元のデータを紐付けることで、医療機関別の選定率まで見れるようにしています。現時点ではかかりつけ医とのコミュニケーションが重要ですが、10年後、インターネットが使える世代が高齢者になる頃には、病院選びをかかりつけ医に任せる人が減少することも推測し、一般患者さんといかにコミュニケーションとっておくかがカギと考えています。

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一般生活者とつながるコミュニケーションツールはLINE

当院の中長期目標はコアブランドで診療圏を広げることです。
当院はクリニックに個別で対応している営業マンが一人と少ないため、遠方の患者さんを獲得するためには、医療機関にアプローチするより患者さん自身が「小倉記念病院に紹介状を書いて欲しい」と言ってもらえるような一般生活者とのコミュニケーションが大切と考えています。
対一般生活者であればやはりLINEが効果的ですので、現在はLINEのフォロワー数を伸ばすことに注力しています。内容は小倉記念病院の最新治療やコアブランドの診療科に関連した健康ネタを、医師の顔も一緒に売れるように、医師本人が解説する動画を配信しています。

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年間7,000人の接点講演会でフォロワーを増やす

当院では以前から400~500人が参加する市民公開講座を月1回、各地域にある市民センターで20~30人を前に行う講演が年間60本程度、合わせて年間7,000人ぐらいの方と対面でコミュニケーションがとれていました。
参加者にはLINEのフォローをお願いし、現在フォロワーが5,000人を超えました。LINEは参加者に小倉記念病院の情報を届けるメディアツールとしてメインで活用しています。現在の市民公開講座はハイブリッドでYouTubeの生配信も行っています。LINEに送られたURLにアクセスすれば自宅でも生配信が観られるという仕組みにしていて、視聴回数は200~300ぐらいになります。

小倉記念病院とは何も接点がなかった人たちが講演会に参加し、LINEのフォロワーになってもらうことで、当院の情報が届き、知ってもらうきっかけとなります。しかもLINEのフォロワーの属性を見ると、ほぼ地元の50代以上なので、まさしくターゲット層です。
マス広告やリスティングと比較しても、ピンポイントで効率的に情報が届けられます。院内の患者さんやご家族にフォローしてもらうための取り組みとしては、チラシを正面玄関の近くに置いていますが、患者さんの番号を案内するサイネージのモニターでも告知しています。

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インパクトのあるマス広告で医療圏を広げていきたい

医療圏を広げるために次にやってみたいこととしてテレビCMを打ちたいと個人的に考えています。
小倉記念病院は九州の最北部、北九州市にありますので、医療圏が山口県、大分県と県をまたいでいます。山口県や大分県は、地元のテレビ局が少なく、福岡のテレビ局の放送を流していることが多いです。つまり福岡でCMを打つと、山口、大分にも放送されるのです。
そういう立地的な狙いやテレビの放送料が高齢者が見るであろう朝の6時台は結構安いんです。

CMを見て病気でもないのに小倉記念病院に行くなんてことはありえないので、一般生活者の頭の中に小倉記念ブランドが残ればいいと思っています。ただ、狭心症の患者は一定数いますので、CMで心臓治療に強い病院だと印象づけ、次のフェーズで、かかりつけ医に「小倉記念病院を紹介して欲しい」と頼む。患者さんに言われて断る医師はいないと思いますので、その流れで当院を選んでもらうのがマス広告のフローです。

CMがいいなと思っている理由の一つに、医療広告ガイドラインにおいて手術件数のような事実を打ち出すことは可能だからです。高度医療の実績では十分差別化できているのでそれをCMでインパクトのあるマス広告で医療圏を広げていきたい公表することにより、強烈なインパクトを与えることができると思うのです。
ただ病院業界はCMを打つという文化がないので、そこに対してあまりいいイメージがないんですよね。患者が来ないのでCM打っているんじゃないかとか周辺の医師会から患者を全部さらっていく気なのかという声が上がるのではないかと心配する意見もあり、実現するにはまだハードルがあります。

病院からの情報発信は社会貢献となる

最後に病院は広報活動に積極的に取り組んだ方がいいと思う理由についてもお話したいと思います。
北九州市民は全国的にみても医療リテラシーが高い方なのではないかと思っています。病気になったらどの病院でどんな治療が受けられるのか、患者さんが多くの情報の中から、医療を選択するべきでそれが社会にとっても意義のあることだと考えます。
患者さんに選ばれるためには、情報をどんどん発信する必要があり、そういう意味では病院間の競走は絶対に必要です。病院からより多くの情報を発信することで地域住民の医療リテラシーが高まることは地域の人たちの豊かな暮らしに繋がっていると私自身が感じています。

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