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「みんなで支える地域医療」の 実現にむけて 医療連携における 倉敷中央病院の取り組み

2021年04月01日

「みんなで支える地域医療」の 実現にむけて 医療連携における 倉敷中央病院の取り組み

手術数、紹介患者数とも全国トップレベルを誇る、急性期病院として知られる倉敷中央病院。日本を代表する急性期基幹病院を支えるために、どのような視点で地域医療連携のスタッフが日々の業務に当たっているのか。地域医療連携部 部長 山下伸治氏、地域医療連携部 地域医療連携グループ 係長 山岡良子氏、医事診療サービス部 医事企画課 係長 犬飼貴壮氏にそれぞれの視点における取り組みについて聞いた。

地域のニーズを肌で汲み取る訪問活動

まずは患者紹介数国内1位の病院が地域の医療機関にどのようにアプローチし、関係性を構築しているのかを聞いた。

「この地域の超急性期の病院は当院を含め2病院のみのため、都市部のような苛烈な市場環境ではありません。ですので、これまでの周辺医療機関への訪問活動は、とにかく多数の患者を獲得したいというより、当院が集患したい疾患ベースに訪問先を選定し訪問するという、一点集中型の取り組みでした。そのような中、私はグループ病院である倉敷中央病院リバーサイドの事務長から昨年秋に現職に異動してきました。元々当院で勤めていたのですが、10年以上前のことでしたので、この地域に対する情報をアップデートする必要がありました。一方で、一度外から当院をみたときに、やはり地域に開かれた病院として、より発展させていくことが肝要であるとも考えていました。ですので、地域にどのような医療が必要とされていて、どのような体制を整えれば患者紹介が円滑になるのかといった地域のニーズを改めて理解したいと考えました。このことから、特定の疾患を扱う医療機関に限らず、紹介数が多い医療機関を中心に幅広く訪問する方針へと変更しました。」(山下氏)


実際に山下氏着任以降は訪問する医療機関の種類、件数ともに増加している。

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まだ開始して数か月のため、紹介件数の増加はまだ見られていないが、訪問から得た地域医療機関のニーズに対して誠実に応えようとする現場感覚が、地域連携室のみならず、臨床を支える医師や看護師らにも伝播しているという。

「訪問する医療機関の選定においては、当院に対して厳しい意見を言ってくださる医師の元へ、あえて積極的に足を運ぶようにしています。厳しい意見を仰っていただけるということは、我々に対して期待して頂いているから。この言葉一つ一つを真摯に受け止め、どのように私たちが努力すればいいかを考え、実践することで、心理的な距離を一気に縮めることができます。何よりも、地域から当院がどのように見られているのか?を感じる良い機会になります。

当院は、これまでも地域の医療機関の方、患者さんにたくさん支えてきてもらっているので、このような活動を続けることが地域に根付く病院に求められていることだと思います。もちろん、当院もリソースが限られていることもあり、すべての要望にお応えできているわけではありません。医療政策的にドライにならざるを得ないこともあります。何をすべきか、という判断は慎重に行っています。また、できない場合であっても無下に断るのではなく、ご意見いただいた医師の熱量と同じ熱量でお返事するように心がけています。

この半年間、いろんな医師とお会いしてきましたが、中には当院への熱い思いだけでなく、地域医療や日本の医療政策に話が及び、当初予定していた時間を大幅に超過してでもお話して頂ける方もいます。私としては大変勉強になるので有難いのですが、先方にご迷惑をかけてないかな、と心配になりますね。最近では相手方のご迷惑にならずに済む時間帯が分かってきましたので、その時間を狙ってアポイントを取るようにしています。」

圧倒的な開催回数を誇る勉強会

驚くべきは、同院が主体となって開催している地域医療連携勉強会の回数の多さだ。2005年に年9回だった勉強会を2019年には年121回開催しており、市民を含め年間で5600人を超える参加者を動員している。そしてそのうちの約半数である57回において、地域医療連携室が主体となってテーマ決めから会場設営、コーディネイト全般を担っているという。勉強会の開催には講師となる医師の協力が欠かせない。多忙な診療業務に追われる医師に対してどのように協力要請しているのか気になるところである。

「もともと当院は地域医療連携の立ち上げが早く、地域の医療機関とのネットワーク活動は、循環器内科の「西部循環器プライマリーケアの会」を中心に1981(昭和56)年から取り組んでいました。循環器内科が成功事例となり、地域医療勉強会が重要だという理解が、概ね各診療科に浸透しており、各診療科のドクターが積極的にリーダーシップをとるという下地が文化として根付いています。ただ2020年はコロナ禍でやむを得なくリアルなイベントが自粛となってしまったので、今後はオンライン上で定期的に勉強会を開催し、医療者のネットワーク化を模索しています。」(山下氏)


勉強会の質を上げるためには、地域の医師からの希望や要望に対して耳を傾ける必要がある。同院において地域の医師の要望から開始し、高い評価を得ている取り組みがあるという。

「地域の医師からは専門領域に特化した高度な内容よりも普段の診療に役立つ内容をテーマにした勉強会を開催して欲しいという希望があり、2018年からは、日常診療で必要となる症状のポイントや紹介のタイミングを伝えるために「明日から診療に役立つ知りたいシリーズ」という勉強会を開始しました。開催した勉強会の内容は、専用ログイン画面からアーカイブも閲覧できるので、リアルな勉強会が自粛となった今でも継続的に関係性を築くことができる良い場になっています。」(山岡氏)


訪問活動や勉強会開催には多くの時間が必要となる。時間確保のために同院ではITを駆使した業務効率化に積極的に取り組んでいる。診療情報提供書の電子化、地域医療連携のWEB予約など、その取り組みも多岐に渡る。

診療情報提供書の完全電子化でタイムラグを無くす

患者の診療情報を事前に取得しタイムリーに登録・閲覧できないかという医師からの要望を受け、2019年に診療情報提供書の電子化をスタート。医師が事前に患者の情報を確認できることで、診療時間は短縮し、返書の管理や人的な入力ミスも減少し、大きな運用の効率アップにつながったという。

「1日100名程度の紹介患者さんがいますので、事前に頂いた診療情報提供書(FAX文書)を電子カルテに取り込む作業を、限られた人数で対応するには、都度ではなくある程度溜めて一気に入力するようにしていました。しかし、この方法では医師がタイムリーに情報を確認できないという課題を抱えていました。この課題を解決するために、FAX文書の電子処理を開始しました。システム内の保有する医療機関コードやFAX番号と自動的に紐づけ情報を格納するので、事務作業のヒューマンエラーも防ぐことができています。今では、診療情報提供以外に連携室に届くすべての書類を、紙出力せずに完全ペーパレスで運用しています。」(山岡氏)

WEB予約システム導入 フロント業務の電子化で業務効率アップ

昨今患者紹介のWEB予約システムを取り入れる病院も増え出している。同院では2017年からも紹介WEB予約システムを導入し2020年12月で361の医療機関が登録している。FAXの利用者を積極的にWEBに移行したことで現在の利用率は全体の30%まで増加。地域医療機関からも好評を得ており、また地域連携室の業務改善にも繋がることから、将来的には50%程度まで利用率を上げていきたいと語る。


「WEB予約を導入したことにより、予約日時の決定や確認までの時間短縮を図れただけでなく、WEBであれば連携室が休みの日であっても予約をとれる。と地域の医療機関からも高い評価を頂いています。当院の紹介WEB予約システムは、自院専用に開発したもので、電子カルテとも連携しています。そのため空き情報もリアルタイムに反映できるので、WEB上でダイレクトに予約が完了できるようにしています。また紙で行っていた予約情報以外に共有すべき情報についても、別にデータベースを構築し、WEB予約の情報と自動的に紐づける仕組みを作りました。従来の方法では電話応対に時間がかかりますし、突発的に対応しなければならないため事務作業が寸断されて、作業効率が落ちたり、職員の負担感に繋がったりしていました。WEB予約を導入して、周辺医療機関に活用いただく件数が増えるにつれて、電話の件数も減り、作業に集中しやすい環境になってきました。これにより地域連携室の職員の負担を軽減することができていると感じています。」(山岡氏)


紹介WEB予約の導入は病院ごとに多数存在するローカルルールの問題で、導入しても中々院内に浸透できていない病院も多い。同院ではほぼ全診療科にあたる25科でWEB予約を運用している。いったいどのように院内でWEB予約を定着させたのだろうか。

「当院では放射線科のMRIやCTの検査からWEB予約を取り入れました。そこである一定の評価を得た後に、診療科ごとに優先順位を決めてWEB化を推奨してきました。当院は診療科ごとのローカルルールが非常に多いため、各科の希望をすべて実現することは現実的ではありません。また医師によって得手不得手もありますので、それぞれの科ごとに運用におけるWEB予約の線引きとなるポイントをしっかり伝えていくことで、業務効率化に協力頂くように働きかけました。」(山岡氏)

情報システムによる診療情報共有の仕組みを構築、更なる連携の質向上を目指す

同院は、ITを活用した連携システムの構築にも早い段階で積極的に取り組んできた。2000年には脳卒中など遠隔で脳の画像を読影、診断、転送するシステムをリリースし、脳外科医不在の医療機関との連携を可能とした。2000年に経済産業省が電子カルテ事業に着手すると、2007年には全国の先駆けとなる地域連携ポータルサイトを立ち上げ、インターネットを介して地域の医療機関の情報を共有する仕組みを構築。また、2011年には病歴、治療歴、検査データ、処方内容等のテキスト情報について近隣医療機関に情報提供、さらに2020年には画像データを閲覧できる環境が整備された。これが「Kchart」だ。現在59の医療機関が利用し、1か月あたりの閲覧患者件数は約600名に上る。

「近年、画像撮影装置の高度化に伴い、大量の画像の保管や管理、必要な画像を瞬時に見たいという医療現場の声があり、PACS(医療画像用管理システム)のニーズは更に高まっています。当院では2018年より「画像共有サービス基盤」(地域共同利用型PACS)を導入し、現在7つの医療機関が参加しています。小規模な医療機関にとってはストレージへの巨額投資の負担は現実的ではありません。重複検査を軽減するためにも、当院では地域の医療機関が安価で共同利用できる地域共同利用型PACSの活用を呼びかけています。岡山県が病病・病診連携を視野に入れて、2013年よりスタートした医療情報ネットワーク「晴れやかネット」とも連携を深めながら、デジタルリソースを地域で有効に使える基盤を整備していき、地域医療連携を加速させたいと思っています。」(犬飼氏)

地域医療連携における今後の展望

コロナ禍でベッドの回転率を安心できる状態で回していくことが難しくなっている状況がある。そのような中、倉敷中央病院ではどのような取り組みを強化していきたいのかを聞いた。


「医療連携に関わる基本的なシステム整備が整い、これからの活動の土台はできたと考えています。今後は各診療科とタイアップして、診療科個別の課題に着目したソリューションを打ち出していくことが重要と推察しています。地域連携パスの活用拡大や新規作成も有効なソリューションの一つであると認識しています。

また、転院をよりスムーズに行うためには、地域医療機関と共有すべき情報を拡大することも重要だと考えています。患者さんを送り出す当院の医師にとって最も配慮していることは「この転院が患者さんにとって、良い結果をもたらすものであったか」ということです。特に主治医にとっては、転院することによって患者さんに不利益になるようなことがあってはならない、という意識が強く働いています。ですので、例えば転院先の医療機関で患者さんがどのような状態であるか、ということは非常に知りたい情報の一つです。この情報を知れることで、転院に対する安心感を持つことができ、転院判断の早期化も可能になってくると思います。

これに加えて、地域医療機関の稼働状況なども即時的に把握できるようになれば、連携のスピード感は益々上がるでしょう。転院が一つの病院内で転床するような感覚で行えるようになって、正に「地域にある各医療機関が一体となって、地域住民を診療している」という形になれば理想的です。

現在、新型コロナ対応に医療スタッフや病床などの院内リソースを注力しているため、以前のような病棟運営ができていません。そのため、病床稼働率を従来の水準を高めることは厳しいと言わざるを得ない状況です。しかしながら、当院の医療を必要としている患者さんに遅滞なく治療を行えるようにするためには、病床の回転率の向上が必要です。その実現のためには、やはり「スムーズな逆紹介を如何に実践できるか」が重要な鍵の一つであることは間違いないと思います。

これらを総括的に考えるには、PFM(ペイシェント・フロー・マネジメント)が有効と考えています。PFMは色んな概念が詰め込まれた言葉でありますが、当院では外来から入院、そして転院を含めた退院までの工程毎に必要な施策や管理指標を作成して、改善に取り組んでいます。


いずれにしても、現在の日本における地域医療が抱える課題は単一の病院で解決できるものではないと考えています。特に我々のような急性期病院は地域医療機関の協力がなければ成り立つことは難しいと言えます。ですので、今後も引き続き積極的に勉強会を行い、地域に足を運んで、様々なご意見ならびにご指導に耳を傾け、ニーズに対して真摯に対応し、この地域の医療に貢献していきたいと思っています。」(山下氏)

倉敷中央病院

倉敷中央病院は病床数1,172床,新入院患者数29,817人、1日の外来患者数2,684人、職員数3,687人(2020年4月現在)の国内屈指の大規模病院。 倉敷市には公的医療機関が倉敷市立市民病院のみ、大型の急性期病院は同院と川崎医科大学の2病院で岡山県の人口188万人のうち、医療圏としては70万人を抱える地域に根差した病院である。 同院は1923年当時倉敷紡績(現株式会社クラボウ)の創業者大原孫三郎氏によって企業内病院として設立、1927年に独立採算制となった。 独立後も創設者の公益性の追求が文化となって引き継がれ、100年前に掲げられた「世界水準の医療を地域住民に」という当時のミッションが現在でも職員一人ひとりの大きな原動力となっている。

  • 所在地

    岡山県倉敷市美和1-1-1

  • 病床数

    1,172床(一般1,157床、精神病床5床、第2種感染症10床)

  • URL

    https://www.kchnet.or.jp/

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