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病院事務職は、経営の主役になれる。 医療人としての使命と、経営をマネジメントする力

2026年09月15日

病院事務職は、経営の主役になれる。 医療人としての使命と、経営をマネジメントする力

全国の厚生連の中でもトップの黒字経営を誇るJA愛知厚生連。その本部で8病院の経営戦略を担う、企画管理局長 秀野氏。

データ分析を武器に現場の医師や多職種を動かし経営改善を実行してきた秀野氏に、その実践と事務職の可能性についてお話しいただきました。

就職氷河期に飛び込んだ、想像以上の世界

2000年にJA愛知厚生連に入職し、最初に配属されたのが安城更生病院の医事課でした。医事課というのは、いわば経営の基礎を学ぶ場所です。診療報酬やDPCの仕組みをゼロから身に付けたことが、今のデータ分析の土台になっています。
医療業界を選んだのは偶然でした。就職氷河期の世代で、メディア系や金融系など幅広く受けていた中、親戚から「JA愛知厚生連は面白い組織だよ」と声をかけてもらったのが始まりです。正直、医療のことはまったくわかっていませんでしたが、今となっては、入って本当によかったと心から思っています。医療は、想像していたより何倍も面白い世界でした。

「医療人」としての原点

秀野様

自分のキャリアのもう一つの核になっているのが、DMAT(災害派遣医療チーム)としての活動です。資格を取得後、2011年の東日本大震災、2016年の熊本地震にも派遣されました。
東日本大震災のときは、3月11日当日にたまたま東北に出張しており、そのままDMAT隊員として被災地に入ることになりました。支援先の施設は海から4キロの場所にあり、津波はギリギリ届いていませんでしたが、電気もない中での活動でした。災害対策本部の立ち上げから関われたことは、自分にとって大きな財産です。

経営の仕事をしていると、どうしても数字や戦略の話になりがちです。しかし被災地でのあの経験が、自分の根っこにある医療人としての意識を確かなものにしてくれました。「事務職であっても、私は医療人だ」という自覚が、その後の仕事すべてに影響していると思っています。

データで語る経営戦略

2016年に法人本部の経営企画部門に異動し、現在は8病院の経営管理を担っています。規模も機能も地域性もキャラクターも全然違う。だからこそ、面白いんです。その8病院それぞれにオーダーメイドの経営改善戦術を作っていくのが、基本的な考え方です。
私は数字が好きです。ただ、数字を並べること自体が目的になってはいけません。大事なのは数字に意味を持たせること。この数字は何を意味しているのか、なぜそうなっているのか。それを問い続けることが経営改善に繋がっていきます。

厚生連の病院はそもそも農民が作った病院です。儲け主義ではなく、地域になくてはならないという使命がある。だから経営改善の提案では、経済性と並んで「この改善は地域のため、患者のためになる」というストーリーを必ず持たせます。想いを持った医療者が多い現場では、それが一番響くからです。

地域連携の観点で追っている指標はいくつかあります。KPIとしては、初診紹介患者数・紹介率、紹介応需率、救急車応需率、紹介専用予約枠に対する予約率。これらを法人内8病院と法人外病院でベンチマークしながら評価しています。

ベンチマークのポイント

地域連携のKGIとして最終的に追っているのは「新入院患者数」です。"外来の量と質が入院の量と質を決める"というのが私の基本的な考え方です。入院への入口を、紹介・救急搬送・健診受診・かかりつけ・その他の5つに分類し、それぞれの入院率・手術率・入院単価を比較すると、紹介患者が経営的に最も優位性が高いことが数字で明確になります。

法人本部としてのモニタリングは月次が基本です。変化が見られたらすぐ介入できるよう、月単位で8病院の動きを把握する仕組みを作っています。

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黒字病院と赤字病院を分けるもの――予定入院率55%の法則

病院の経営指標を見てきた中で、見えてきたパターンがあります。急性期病院において、予定入院率と利益率には強い相関があります。予定入院は予定外入院と比べて季節変動が少なく、診療単価も高く、手術の実施率も高い。しかも、予定外入院に比べて現場スタッフの負担も少なくなります。
最近調べてわかってきたのが、予定入院55%・予定外入院45%前後が「黒字に近い黄金比率」だということです。全国の特定病院群の平均が約53%なので、それに近い水準です。一方、赤字傾向の病院は予定入院率が4割を切っているケースが多い。45%あたりから黒字に近づき始め、50%で黒字になり、55%が理想だと考えます。

では、予定入院率を上げるにはどうするか。答えは紹介と精検受診(健診異常)です。予定入院率が低い病院は、紹介が少なく健診もやっていないことが多い。そうなると手術件数も少なくなり、利益率は下がります。経営効率を上げるという意味合いで、予定入院の確保が急性期病院の鍵を握ります。

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予定(≒紹介)入院率と粗付加価値(粗利)の相関

健診の経営戦略的意義とは

JA愛知厚生連では30年以上病院併設の健診センターを運営しています。健診と医療が一体になっているからこそ、健診異常から外来・入院・手術へのスムーズな流れが生まれます。安城更生病院がDPC機能評価係数の複雑性係数で全国上位に入るほど重症度の高い患者を診られているのも、紹介・健診・予定入院という経路が確立されているからこそです。
健診異常の患者さんが外来を経由して入院する確率は約6%。一般の飛び込み患者(約1%以下)と比べると約6倍。絶対数は多くないかもしれませんが、一般外来患者よりも明確に入院・手術に繋がりやすい。こうした数字を示しながら、健診異常患者の受け入れを院内に推進してきました。

とはいえ、健診の重要性が院内でここまで共通認識になったのは、コロナ禍がきっかけでした。コロナ前後の患者数を比較すると、一般的な感染症はマスク・手洗いの効果で減少した一方、健診由来の患者数が明確に落ちており、胃がん・大腸がん・前立腺がん・脳動脈瘤(脳ドック)など、本来健診で発見されるべき患者さんが減少していることに気づきました。
これを機にJA愛知厚生連では、患者数回復のための3本柱として「健診患者の増加」「前方連携の強化」「地域住民への認知向上」を掲げました。中でも核に据えたのが、健診と地域連携です。健診で異常が見つかった方を、確実に自院の外来・入院・手術へと繋げる流れを作る。データを根拠に院内を動かした、具体的な事例のひとつです。
どんなに正しい提案でも、根拠がなければ医師や経営陣は動きません。逆に言えば、データを持って話をすれば、動きます。頭ではわかっていても、数字で見えると「確かに」となる。そのプロセスを丁寧に積み重ねることが、経営改善の実行力を生みます。

事務職が収益を生み出す時代へ

「前方連携の強化」の1つとして営業活動がありますが、病院が営業するというのは、まだ当たり前のことではありません。でも私は、地域連携と健診の2部門こそ、事務職がS級人材を配置すべき場所だと思っています。

事務職は医事や人事の仕事も大事ですが、そこに優秀な事務職を厚く配置しても、直接的な収益創出には繋がりにくい。一方で、健診と地域連携は、事務職が営業活動を通じて自分たちで利益をもたらすことができる。だから、そこに力を入れるべきだというのが持論です。

現状では、地域連携担当の職員が我流で、手探りで営業をしているケースが多い。基礎から正しいやり方を学ぶ場はほとんどなく、ストレスを感じながらやっているかもしれません。私はそこを問題視していて、地域連携の専門的なノウハウを体系的に学ぶ機会が必要だと感じています。

MSWを表舞台に立たせる

最近特に注力しているのが、MSW(医療ソーシャルワーカー)との連携です。病院の入口と出口を管理するMSWの動きは、経営に直結しています。
ただ、MSWは自分たちの仕事の経営への貢献が数字として見えにくい立場にあります。そこで大事にしているのが、MSWの働きをできる限り数値化・金額化することです。「この活動がこれだけの収入や利益に繋がっている」と示すことで、MSWが自信を持って動けるようになる。
機械も設備も要らず、自分たちの身一つで収入を生み出し地域に貢献できる。それがMSWという職種の強みです。その価値を可視化してあげることこそ、大事な役割だと思っています。

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データ分析は「手段」であって「目的」ではない

最近、事務職の間でもデータ分析ブームのようなものがあって、分析すること自体がかっこいいという雰囲気を感じることがあります。でも私は、データ分析は経営改善というプロセスの中の一つのツールに過ぎないと思っています。

大事なのは分析の前後です。ビジョンや理念をもとに仮説を立て、データで検証し、結果をインパクトある資料にまとめ、プレゼンし、各部門と運用調整していく。このサイクルが回ってはじめて意味をなします。分析して「こうでした」で終わるパターンが多いですが、それでは医療スタッフは動きません。様々な職種と連携しながら改善を実際に動かしていく。それができる事務職が、真のマネジメント職だと思っています。

私が事務職に求める力を3つ挙げるとすれば、企画力(アイデアを出す)・表現力(プレゼンテーション)・調整力(良好なコミュニケーションで多職種を巻き込む)、そしてアジリティ(俊敏性)。データ分析はその前提にはなるけれど、それが第一ではありません。

病院経営が厳しい今こそ、事務職の価値は上がる

秀野様

私は病院事務職のイメージを変えたいと思っています。受付業務やレセプト業務、もちろん大切な仕事ですが、そのイメージだけでは優秀な人材は集まりません。また、その人が本来持っている力を発揮することも難しいでしょう。

病院事務職は「医療マネジメント職」として運営・経営を担う職群に刷新したいと考えています。病院経営が厳しくなった今こそ、我々のステータスと価値を上げるチャンスです。事務職が経営を動かし、地域医療を支える。そういう職種像を、自分たちの手で作っていきたいと思っています。

JA愛知厚生連

JA愛知厚生連は「ともに、守り抜く。」をスローガンに、1948年の創立以来、地域に根差した医療を提供してきました。 受ける側の立場に立ち、地域住民の安心感の確保を図るとともに、医療・保健・福祉のあるべき姿を追い求めています。 県内8病院・約3,400床で地域医療から救急・がん医療まで幅広く対応しています。

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