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信頼を積み重ね、地域から選ばれ続ける病院へ ―― 紹介数120%増加への道のり

2026年06月01日

信頼を積み重ね、地域から選ばれ続ける病院へ ―― 紹介数120%増加への道のり

聖隷横浜病院では、紹介患者数の増加目標を起点に、院内の動きや意識を変え、病院全体の立て直しへとつなげてきました。同院事務長・山本氏が、課題のある場所にどう向き合い、現場の力を成果へと導いてきたのか。地域連携室・栁田氏の現場視点も交えながら、その考え方と実践を紐解きます。

課題のある場所にこそ、役割がある

山本事務長:私は聖隷福祉事業団への入職前は一般のサービス業に約6年間携わっており、2001年に当法人へ入職し、医療の世界に足を踏み入れました。最初の配属は医事課、いわゆる外来受付や会計業務を担う部署でした。ここで3年間、患者さんと直接向き合う病院の最前線を経験しました。

2004年には聖隷浜松病院の地域医療連携室へ異動し、室長を務めることになります。地域医療連絡室、通称JUNC(ジャンク)と呼ばれる部署で、地域の医療機関とどのように関係性を築き、どう継続していくかが大きなテーマでした。その後、2005年からは資材課に異動し、購買管理やコスト管理といった、いわば病院経営の足元を支える業務に携わりました。課長、次長を経験したのち、2009年に初めて聖隷横浜病院の事務長として着任しています。

こうして振り返ってみると、私がこれまで関わってきたのは、いずれも「課題を抱えている」「うまく回っていない」と評価されがちな部署や病院だったように思います。地域医療連携も、資材管理も、そして当時の横浜病院も、経営的に厳しい局面にありました。

一貫して意識してきたのは、現場の業務だけを見るのではなく、病院全体の中で、今どこが詰まっているのか、経営の上流で何が起きているのかを捉える視点です。課題がある場所だからこそ、そこに手を入れる意味がある。そうした考え方で、これまでの仕事に向き合ってきました。

現場の前向きさを成果につなぐ

山本事務長:2019年、外来棟の新築という節目に、私は再び聖隷横浜病院に赴任しました。建物は新しくなったものの、もともとの赤字体質に加えて、赤字がさらに膨らんだと言わざるを得ない局面でした。

そうした中で地域医療連携の状況を見たとき、私が最初に感じたのは、「部署全体としても前向きで良好な雰囲気である」ということです。職場長をはじめ、スタッフの考え方や姿勢は前向きで、決して停滞している印象はありませんでした。だからこそ、小手先の施策を積み重ねるよりも、目指すべき方向と、その到達点を明確に示すことが必要だと考えました。

当時の月間紹介件数は、おおよそ700〜750件。そこで私が掲げたのが、「月1,000件」という目標です。「まずは一度でいいから、1,000件を超える月をつくろう」と伝えました。

この数字は、思いつきで置いたものではありません。聖隷浜松病院で地域医療連携を担当していた際、外来患者数と紹介件数の関係を継続的に見てきました。当時、外来患者数が1日約1,500人、紹介件数は月2,000〜2,500件に達していました。一方、横浜病院の外来患者数は1日約500人です。単純に比率で考えても、月1,000件という数字は、決して非現実的な目標ではないと判断しました。

指示よりも、「止まらない」環境をつくる

山本事務長: 目標は示しましたが、方法の具体的な指示はほとんどしていません。やり方は、現場が一番よく分かっているからです。
開業医の先生方への訪問において、事務長の同席が必要だと現場が判断すれば、私も迷わず一緒に足を運びます。また、地域医療連携の運営会議や院内の管理会議などで、現場から発信したい内容があれば、その調整役や後押し役を引き受けます。
現場の動きを止めないために、前に出るべきところでは前に出るというスタンスです。


栁田氏:訪問活動については、件数ありきで目標を設定しているわけではありませんが、実際にはお中元とお歳暮の時期を中心に、年間で300件弱の医療機関を回っています。以前は事務部門のみでの訪問が中心でしたが、現在は医師が同行するケースも増え、70〜80件程度は医師と一緒に訪問しています。
また、新規に開業された医療機関については、必ず一度は訪問するようにしています。顔を合わせて話をすることで、紹介のしやすさや相談のしやすさが大きく変わると実感しています。

即日返書を“当たり前”にするための仕組み化

山本事務長:紹介元医療機関への即日返書は、紹介患者数を増やすうえで、非常に効果の大きかった取り組みの一つです。ただし、これは医師の努力や気合いだけで成り立つものではありません。

そこで重視したのが、返書を忘れないための仕組みをいくつも重ねることです。複数の仕掛けを組み合わせることで、「忘れない即日返書」の仕組みを作りました。あえてアナログな運用を残しているのも、そのためです。

栁田氏以前は、地域の先生方から「紹介したのに、なかなか報告書が返ってこない」という声をいただくこともありましたが、即日返書を徹底するようになってからは、そうした声はまったく聞かれなくなりました。
多くの大病院では、どうしても返書までに時間がかかるケースも少なくありません。その中で、当院では診察したその日のうちに医師から返事が届く。この点は、地域の先生方からも「対応が早い」と評価いただいています。

医師は「返書を書かなければならない」という意識は持っていますが、外来診療に追われる中で、どうしても後回しになってしまったり、失念することがあります。そこで、医師事務作業補助者の方に協力してもらい、紹介患者であることがすぐに分かるファイルと用紙を使い、診察後に必ず目に入る仕組みを用意しました。また、地域連携室からも、返書が出ていない場合には昼と夕方に
電話でリマインドを行っています。さらに、毎朝医局に返書状況を掲示し、残っている案件が一目で分かるようにしています。

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紹介患者さんには黄色のファイル、当院に初めて来院された初診の患者さんにはブルーのファイルを使用しています。色分けすることで、職員の誰が見ても、その患者さんが紹介患者さんか新規患者さんかすぐに分かります。
この色分けは返書以外にも役立っていて、例えば、ブルーのファイルを持った患者さんが廊下や受付付近で立ち止まっていると、職種に関係なく「初めてですよね、大丈夫ですか」と自然に声をかけるようになりました。

成果は、積み重ねの先にある

山本事務長:紹介件数1,000件を達成できるようになるまでには、正直なところ約3年を要しました。2019年に月1,000件という目標を掲げてから、共通認識をつくるまでに1年弱。その後も、すぐに数字が伸びたわけではありません。

訪問活動や即日返書の取り組みに加え、電話対応や院内での動き方、医師の関わり方など、日々の行動が少しずつ変わり、ようやく2024年7月に初めて月1,000件を達成しました。その後も、2024年度は3回、2025年度は4月から12月までの間で5回達成しています。ようやく1,000件が「特別な数字」ではなく、ベースとして見えてきたという感覚です。
短期的な成果を求めず、途中で方針を変えたり諦めたりしなかったことが、成果につながったのだと思います。

栁田氏:現場目線で振り返っても、月1,000件という明確な目標が示されたことで、何を目指して動けばよいのかが分かりやすくなったと感じています。開業医の先生方へのアンケート実施や即日返書の徹底、電話がつながらないという課題に対する回線増設など、事務長からの後押しがあったことで、現場の動きも徐々に変わっていきました。

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▲実際の紹介数推移グラフ

地域連携を“病院の方針”として見せる

山本事務長:病院としての意思決定の中に、地域連携をきちんと組み込むことを意識してきました。
例えば、地域医療連携の運営会議に、事務長である私自身が入ることで、委員会名簿を見た瞬間に、「この病院は地域連携に本気で取り組んでいる」と伝わります。

また、病院全体の経営状況を共有する場では、入院単価や収益といった指標と並べて、必ず紹介患者数を示すようにしました。こうした形で数字を出し続けることで、紹介患者数は「地域連携室の数字」ではなく、「病院として向き合うべき数字」であるという認識が、徐々に院内に浸透しました。

病院として何を重視しているのかを、言葉ではなく形で示すことが、地域連携を組織に根付かせる土台になったと感じています。

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▲病診連携会にて院長自らすべてのテーブルへ挨拶に訪れる様子

“受け切る力”を、病院の価値に

山本事務長:当院において最優先すべきは、まず”患者さんを受け切る”状態を当たり前にすることです。DPC期間の管理や病床回転率の向上は、満床に近い状態が維持できて初めて議論すべき第2のステップです。 医師、看護師、事務スタッフ全員が、常に高い病床稼働率の中で動くことに慣れる。その状態を維持することで、組織として自然に動ける体制を構築することが重要だと考えています。

また、実際には調整可能なベッドが残っている「意識的満床」と、本当に余地のない「機械的満床」とでは意味が異なります。367床すべてを稼働させてこそ本当の満床である、と再定義する必要があります。 
単に「増やそう」と繰り返すだけでは現場は動きません。稼働が停滞している時期には、あえて「このままでは病院経営が立ち行かなくなる」といったリスクを強く発信し、変革の必要性を説きます。 その後、わずかでも改善の兆しが見えた瞬間に、成果を具体的な数字として提示します。良かった点にフォーカスして、やればできるという成功体験を共有することで現場の士気を高め、「さらに上を目指そう」というポジティブな空気感を作ることが不可欠です。

受け入れ体制を整え、当院では1日あたりの入院患者数が過去最高水準に達しました。朝の時点で350床を超え、最大で370床台までいったこともあります。以前は330〜340床程度で推移していたことを考えると、確実に数字として表れてきたと感じています。

当院は3次救急ではないため、1次・2次の救急患者さんで、今日は自宅に帰すのは難しい方を確実に受け入れられるような体制が、地域における役割であり、病院の価値につながると考えています。

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介護施設連携による病床の戦略的運用

山本事務長:病床稼働率の目標を単純に引き上げるだけでは、現場には「業務負担が増える」というネガティブな印象が先行します。そこで鍵となるのが、介護施設との戦略的な連携です。
施設からの入院相談は、急性期救急と比べて医師の負担を抑えて対応できるケースが多くあります。救急の受け入れ基準や強度を変えるのではなく、余力のあるベッドを施設入院に充てる、という構図を明確にすることで、医師も前向きに判断しやすくなります。

まずは聖隷福祉事業団内の施設、隣接する「横浜エデンの園」が困らない体制を整えることを優先しています。施設から救急車の搬送先決定に、1時間以上要するケースも珍しくありません。遠方の病院を探すよりも、「聖隷横浜病院なら確実に受けてくれる」という安心感を提供することが、施設・患者双方にとって大きなメリットとなります。グループ内での強固なバックアップ体制を、まずは運用の基盤とします。

このモデルが確立した後、既存の連携先や地域へと枠組みを広げていきます。双方が利益を得られるWin-Winの関係性が不可欠です。例えば10床の安定稼働を目指すのであれば、信頼できる10施設と深い連携を築く。こうした着実な広がりが、安定した経営と地域貢献の両立につながります。

現在は導入段階として、医師の判断基準(パス)の策定に注力していますが、最終的な運用は現場主導を目指します。仕組みが定着すれば、看護師間の連携や地域連携室を窓口としたスムーズな入退院フローへの移行を考えています。

地域から選ばれ続ける病院であるために

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山本事務長:紹介患者の増加、ひいては地域から選ばれるために、私が一番大事だと思っているのは、「相手のニーズを本当に理解できているか」という点です。

「うちはこんなことができます」という発信だけでは、地域連携はなかなか進みません。どのような患者さんであれば安心して送れるのか、どこまで診てもらえるのか、逆にどこは難しいのか。そこまで含めて具体的に伝えていくことで、初めて紹介する側も判断しやすくなり、信頼関係が生まれるのだと考えています。

これまでの取り組みを土台に、さらに信頼される病院を目指し、地域の中で求められる役割を果たし続けていきたいと思います。

聖隷横浜病院

救急から在宅、予防、緩和ケアまでを一貫して担うケアミックス型病院。急性期治療だけでなく、その後の回復や生活まで見据えた支援を重視し、地域の医療機関と密に連携。患者一人ひとりの暮らしに寄り添いながら、切れ目のない医療サービスを提供している。

  • 所在地

    神奈川県横浜市保土ケ谷区岩井町215

  • 病床数

    367床 (一般・地域包括ケア・HCU・SCU・回復期リハビリテーション病棟・緩和ケア病棟)

  • URL

    https://www.seirei.or.jp/yokohama/

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