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生き残れる病院のキーワードは「選択と集中」 「データ」を活かし「強み」を知る

2021年01月01日

生き残れる病院のキーワードは「選択と集中」 「データ」を活かし「強み」を知る

佐藤 敏信

久留米大学特命教授、医療政策担当教授

1983年山口大学医学部卒業後、厚生省(現在の厚生労働省)入省、2014年の7月までの30年間、地方行政も含め、医療政策に携わる。2017年久留米大学特命教授就任、医療政策担当教授として教鞭を執る。

新型コロナウイルス感染拡大で医療機関への影響が長期化している。国内の医療機関の経営状況の悪化も深刻さが増し、生き残りをかけた病院淘汰の時代が始まろうとしている。長年、厚生労働省の医系技官として、日本の医療政策に携わってきた、久留米大学教授佐藤敏信氏に勝つための病院経営と地域医療の今後について聞いた。

収益性の高い疾病は わずか上位100 

通常はもっぱら稼働額に着目し、その多寡や増減を、診療科間で時系列的に比較というところがせいぜいだろう。
久留米大学病院で、平成30年度の診療実績をx軸に稼働率、y軸に粗利を取って分析したところ、DPCの2000項目中、病院全体の収益に大きな影響を及ぼしているのは上位100程度。

たとえば弁膜症の弁置換術、肺の悪性腫瘍、頻脈性不整脈のアブレーション、脊柱管狭窄症、白内障の手術等だった。とりわけ、アブレーションに関しては診療行為の数だけで考えると2000分の1であるにもかかわらず、年間で億単位の収益を産み出しているという。
病院を製造業に例えると、多くの病院は多品種少量生産。医 療スタッフはその中で黙々と頑張っている。同じ努力をするのなら、持っているデータを分析し、先ほどのアブレーションや肺がん手術などを1.2倍ぐらいにした方が経営への影響は大きい。個々の病院の中でも、診療科間、医師間、あるいは職種間のバランスや協調だけを重視する「護送船団方式」の日本ではそういう発想が今までなかったと佐藤氏は言う。

病院内で収益が上がる診療科行為を見つけ、それらを高く評価することも、その逆も憚られる傾向にあったからだ。では、収益をどうやって伸ばせばよいのだろうか。「もう一度アブレーションを例にとると、担当している医師は何人で、週何回実施しているのかを聞き取りました。さらに実施回数を増やすために何が必要かも。
すると、処置室が不足しているということがわかりました。予備としている処置室の改装によって1部屋増やして対応できるのではないかと考えたのです」と佐藤氏は話す。このようにまずは診療行為を細分化した上で、収益に影響の大きそうな分野を選び出し、次に、より詳細なデータ分析と現場のヒアリングとで伸ばせばいいということだ。このような手法で実行することを「選択と集中」というのだろう。

予定手術と緊急手術を見極める

佐藤氏によると、次に重要なのは「目利き」。上述のような作業を機械的にやればいいということでもないという。
人口動態統計などを見ながら、今後どんな領域のどんな疾病で患者さんが増えてくるのか、減るのか。その検査、処置、手術が予定できるものなのか、緊急・突発的なものなのか、さらには労働集約的なのか、そうでないかを常に見極めなければいけないという。
例えば、加齢による心臓弁膜症は70歳を超えると急増する。ひと昔前なら、そのために突然死するケースが多かったのかも知れないが、今はそうではない。早期に発見して開胸による手術もできるし、近年はカテーテルによって比較的少ない侵襲で治療することもできる。

そうした患者さんを、地域の医療機関から紹介してもらえる体制を作れば、対象となる患者さんは多い。しかも疾病の特性上、緊急・突発的でなく予定的に検査や手術を行うことが可能となる。このことは患者のためだけではなく、医師を含む医療従事者の働き方の改善にも寄与する。一方、同じく循環器疾患である「解離性大動脈瘤」はどうだろう。
疾病の特性上、突発的なので通常は緊急手術となる。いつ来るともわからない患者のために、医療従事者は常に心身ともに緊張した状態で待機しなければならない。そのご労苦は察して余りある。
「『予定』の検査、処置、手術となる疾患は、他にも白内障、脊柱管狭窄症、頻脈性不整脈などがあります。このような視点をもつことで、何を選択し強化するのかを見定めることができます。」いずれにしても単に上記のような分析の「数字」だけに頼らず、選択と集中の方向を見極めなければならない。

高齢者の肺がんと白血病は収益率が高い

公衆衛生学の専門である佐藤氏によれば、一定以上の年齢になると「がん」を原因とする死亡の占める割合は減少するという。
胃がんや子宮がんによる死亡はおおむね70代ぐらいまで。そうした中で、肺がんと白血病は高齢になってもなお死亡の原因として重要な疾患である。こういった「がん」は、高齢であることもあってしばしば進行がゆっくりである。またDPC12桁で分析すると実は収益性も高いということが分かっている。

たとえば、抗がん剤の点滴治療は医師が処方すれば、実際の点滴は病棟薬剤師が対応するので、医師は、手術など医師にしかできない検査、処置、手術に集中することができる。「肺の悪性腫瘍1つなどとも関連付けながら徹底的に分析することで、どんな年齢層のどんなタイプのものに、どういう治療を行えば収益率が高いかまで把握できます。
ここまでやって本当の「選択と集中」の判断ができるんですよ。」と佐藤氏はいう。
「選択と集中」を進める中では、自院で抱え込むことが必ずしも得策でないという診療科も当然出てくる。古い先生方は記憶にあるかも知れないが、かつては「総合病院」を名乗るというのが病院としてのステータスであった。総合病院を名乗るためには、医療法に規定する特定の診療科とその数を満たさなければならなかった。

しかし1996年に総合病院は制度そのものがなくなった。したがって、これからは診療科の数を無理に揃える必要はない。
例えば、医師が1週間のうちに数日だけ来院して診察というような診療科もあるのではないか。このような場合、あっさりとその診療科を諦めるか、どうしても必要なら地域の開業医に応援をお願いする、言うならオープン病院のようなスタイルにした方が効率的であり患者にとっても、応援に来て下さる開業医にとっても喜ばしいことなのではないか。これからの病院経営にはこのような柔軟な考え方が重要であろう。

地域連携を可視化し収益率が高い

選択と集中を行っていくとしても、患者を獲得できなければ意味がない。その点において、佐藤氏は某医療グループの徹底した営業手法について語る。
「ここでは法人名は伏せますが、国内トップの規模である医療グループの取り組みは素晴らしいです。たとえば、全国にあるグループ病院全てについて、患者さんの住所地は当然として、紹介元の医療機関まで分析し、エリア別に地図上にメッシュで可視化しています。各病院はそのメッシュの中で来院のないところをチェックし、そのメッシュにある医療機関に対して重点的にアプローチするので極めて効率的な営業活動になります。
まさに微に入り細を穿つ、それでいて瞬時に結果の見えるようなシステムです。巨大グループがこういうことを実現しているということに驚愕しました。大学病院のようなところでは、このようなデータを分析し、解析までを行えるスタッフを抱える体力がありますが、そうでないところは相当の覚悟が必要でしょう。もちろん、データの解析まで請け負ってくれる業者もありますから、まずはそこに頼るとしても、業者も臨床の経験がある訳ではありませんから、やはり上述のような医療従事者自身による「目利き」が重要です。」

水平分業型から垂直統合型がこれから生き残る道!?

先ほど紹介したような「素晴らしい経営を行っていると言われる病院の多くは、急性期から在宅に至るまでに必要となる施設や機能を全て自法人内に抱えているケースが多いです。前日本福祉大学学長の二木立先生は、これを保健・医療・福祉複合体と呼称されています。厚生労働省は、地域医療構想などを通じて医療機関の機能分化を推進していますが、その発想の根底には、製造業における水平分業の成功体験があるようです。
旅客機の製造に例えると、エンジン、主翼、胴体、電子装置など、部品ごとに得意とするメーカーが呼び集められ分業で行っています。この場合は、個々のメーカーの製造する部品の量と質とが客観的に評価しやすいために水平分業が成り立つのです。
一方、医療や介護の場合、情報の非対称性の問題が大きく立ちはだかります。提供するサービスの個別性が大きく、しかもあらかじめその量と質とを提供者間で正確に知ることが困難なのです。」と佐藤氏は話す。

同一病院の中でさえ、ある特定の科とそれ以外の科との間の意思の疎通が良好でなかったりする。これが医療と介護の間となると、話す言葉、用語や思考過程さえ異なる場合がある。経営母体が異なれば、指揮命令系統はもちろん、文化、風土まで異なる。仕方がないので、調整会議や連絡会議と称して、情報交換や意見のすり合わせのために、多職種の、しかも多忙な関係者が一堂に、頻繁に集まって会議を開かざる得なくなると言う。

「良くも悪くも日本人はみんな真面目です。何でも議論して決めることが絶対にいいことだと思い込んでいる節があります。しかし、それには膨大な人手と時間がかかっていることを忘れがちです。繰り返しになりますが、このところ医療機関(はもちろん介護施設等)は基本的に水平分業型の考えに基づき分業が推進されてきました。しかし、急性期病院で治療を終えた患者さんを、いざ後方病院施設に送ろうと思っても、送り先の医療機関、施設のサービス、医師、看護師、介護者全ての能力やキャパシティーについて見極める必要があります。

これは患者さんごとに毎回オーダーメイドしているようなもの。医療は元々そういうものだという反論もあるかも知れませんが…。それにしても、同一法人内で必要な機能が網羅・確保されていれば、同一の思想・運営による「垂直統合型」で実現できます。
完全にうまくいくとまで断言はできないですが、川上から川下まで提供できる運営形態なら、それぞれの能力やキャパシティーがある程度わかっていますから、意思の疎通も協力もよりスムーズで、結果として患者さんにもより質の高い医療や介護を、滞りなく提供できると思います。」

もちろん、すべての病院が垂直統合型の組織を作り上げるというわけにはいかない。そうだとすると、やはり患者に、最も適切な施設や先生を紹介する、つまりマッチングさせる必要がある。けれどもこのマッチングにエネルギーを注ぎ過ぎてはいけないと佐藤氏は言う。
「今の調整会議、連絡会議のように時間とマンパワーをかけるのではなく、こういうところこそICTに頼るべきです。蓄積したデータをもとに自動化を進めて、目指すはiphoneのSiriのようなスタイルでマッチングできることが理想ですね。
今後、医療業界では、マッチングを専門に行う相談センターができるのではないか。自宅にいながらいつでもリアルタイムで相談できるWEBサービスのようなものが生まれてくるのではないでしょうか。いや、もうそういうベンチャーがいくつかありますよ。」と今後の医療の未来についても佐藤氏は語る。

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