サービスサイトはこちら

新棟移転とICT導入から1年、病院本来の力を発揮するチーム力と信念

2024年06月27日

新棟移転とICT導入から1年、病院本来の力を発揮するチーム力と信念

神奈川県央の急性期医療を支える、海老名総合病院。2023年5月に新棟が建設され、同時にICT導入などハード面を整備し、診療・救急体制がさらに強化されました。新棟建設から1年を振り返り、病院の変化やスタッフの思い、今後の展望を伺いました。

「救急は医療の原点である」をスローガンに地域貢献

滝原医師:海老名総合病院は479床の病床を持ち、救命救急センターを備えています。当院は設立当初から「救急こそが医療の原点である」とスローガンを掲げ、地域密着型の高度急性期病院としての役割を意識してきました。2023年度の救急車による搬送数は10549件でした。神奈川県は人口に対して医師数が少ないエリアです¹⁾。当院は県の西側エリアと、横浜のような都市部との中間である神奈川県央エリアにあります。全国の過疎化が進んでいる地域では医療ニーズが減ってきていますが、神奈川県央は今後10年も医療や介護の必要性が伸びると考えられています²⁾。

須田氏:私たち患者サポートセンターはベッドコントロールを主に行う入退院支援看護師と退院支援や医療福祉相談を行う医療ソーシャルワーカー、患者さんの紹介予約調整や外部医療機関の予約調整を行う地域連携事務の3部門で構成されています。地域の先生方が、MRI・CT・消化管内視鏡検査・超音波検査・骨塩定量検査・マンモグラフィ検査などの検査機器を共同利用される際の予約も業務の一環です。

松原氏:海老名総合病院を運営するジャパンメディカルアライアンス(JMA)は、当院以外にも病院やクリニックなどの医療機関をはじめ、介護老人保健施設や特別養護老人ホーム等の介護施設、また、訪問看護ステーションや訪問リハビリステーション居宅支援事業所など在宅系サービスなど幅広く運営し、地域包括ケアシステムの一翼を担っております。

1)神奈川県(2024)「かながわの医師の状況について」
https://www.pref.kanagawa.jp/docs/t3u/kanagawanoishinojyoukyou.html(2024年5月8日参照)
2)日本医師会 地域医療情報システム「医療介護需要予測指数(2020年実績=100)」https://jmap.jp/cities/detail/medical_area/1409 (2024年5月8日参照)

新棟増築とICT導入で本来の実力が発揮できるように

滝原医師:新棟(西館)の増設でハード面が刷新され、医療体制のステージが上がった感覚があります。
ICTの面では、コマンドセンターと呼ばれるベッドコントロールシステムを導入しています。電子カルテのデータから必要な情報を一元化して可視化できるツールです。病床稼働状況や空床の男女比、看護師の忙しさなどが、空港の管制塔のパネルのようにリアルタイムで見られるほか、退院阻害要因や重症度を項目別に割り出して把握できます。そのため30分ほどかけていたベッド状況についての情報共有の時間が、具体的な業務をどう動いていくかといった、一歩進んだミーティングに使われるようになりました。

25c7d35d560687eb6a5c0c4cbbedb357-1718006320.png

コマンドセンター(JMAグループ様資料より)

滝原医師:西館は地上5階建てで、1階に救命センターや高度検査センター、EHCU(救命救急ハイケアユニット:Emergency High Care Unit)の病床が集約されたため、搬送されてきた重症度の高い患者さんへシームレスに対応できるようになりました。
面積が増えて広くなりましたが、動線は良くなり効率的に回れる設計です。2階にはICUと11室の手術室があり、HCU、SCUも備えています。そして3階以上は入院病棟ですが、院内の感染対策には部屋の大きさも重要なポイントです。個室が増えたほか、以前の大部屋が8人から4人の収容になりベッド間も広くなりました。
私の専門は呼吸器ですが、新型コロナの患者さんが発生した際、院内のクラスターが抑えられている実感があります。有料床は差額がかかる大部屋も含めて40床から180床まで増えています。また個室が増えたことで、大部屋が空いていても男女別で入院を受けられないケースも減らすことができました。

97b4ac0f768ddb372e893ce85e468d84-1718004958.jpg

海老名総合病院 新棟

松原氏:西館がOPENし、救命病棟が20床から30床に増え、夜間や救急の入院の対応が改善されたと思います。
7年前に救命救急センターとして始動し、徐々に救急搬送件数は増加しましたが、コロナ禍の影響もあってか近年は約8~9000件で停滞していました。昨年1万件を超えたのは救命病床の増床と、ICTを導入してリアルタイムに空床状況を把握できるようになり、ベッドコントロールの運用が大幅に改善された事の2点が組合わさり相乗効果が出た結果と考えています。もちろん救命救急センターに係るスタッフを中心とした職員の頑張りがあって実現できたのは言うまでもありません。

須田氏:地域医療連携の業務に関しても、改善が見られました。西館に救命救急センター・検査センター等が移動したため、空きが出たスペースに地域医療連携に関わる部門が集約されました。患者サポートセンターで入退院支援を行う看護師、医療福祉相談をするソーシャルワーカー、地域連携を担う事務の3部門がワンフロアで業務できるようになり、さらに連携が取りやすくなったと実感しています。
以前は別階で業務をしておりPHSでその都度確認を取っていましたが、ベッドの空き状況の確認や患者さんの支援をすぐに直接相談でき、業務効率の改善につながっています。


滝原医師:スタッフの教育も同時に行っています。データを読み、お互いに同じ言語で語り合えると綿密な計画が立てられます。その甲斐もあってか、以前と比較して病床利用率 、救急車搬送数 、平均入院患者数、病院収益も増加しました。
しかし、これらはハード面の整備だけがもたらした効果ではありません 。建物の構造改善やICTの活用により 、スタッフの業務負担軽減・効率化が叶えられ、制限されていた医療提供のポテンシャル、これまで培ってきた本来の実力が発揮できるようになったのです。

「医療を止めるな」新棟への引っ越しの裏側

滝原医師:新棟への移転では責任者を務めました。朝8時半に開始して17時半に終了予定でしたが、結果14時45分に患者さんの搬送を完了することができました。「救急医療を止めない」を合言葉に、引っ越しの途中でも12件の救急車を応需しました。そして循環器内科で緊急カテーテル、泌尿器科で緊急入院手術、消化器内科で内視鏡治療を行いました。グループ病院の座間総合病院で入院を受けてもらうなど、周囲に もバックアップしていただきました。
移転の準備は1年前から始めました。実際の移転シミュレーションを行い、問題が予測される点は検討し改善することを繰り返しました。引っ越しの間も手術を継続するため、何時までは移転前の手術室で受け、必要な機器が移動した時点で新棟に移るといった計画を細かく決めていきました。

移転当日、スタッフ間での情報共有に役立ったのが、それまでにも使用していたLINEWORKSです。移動する患者さんの人数の確定、エレベーターのトラブル発生といった情報をLINEWORKSでリアルタイムに共有し、対応することができました。スマートフォンでチャットのやりとりが可能になり、また、多人数での一斉の情報共有がスムーズになったと感じます。

病院のポテンシャルを活かすのは、ICTだけでなくスタッフの信頼関係

滝原医師:海老名総合病院に来て4年になりますが、新棟への移転時の動きなど、何かを決定すると一緒にがんばってくれる人がすぐに集まるのは病院の強みだと感じています。

松原氏:組織風土もあると思いますが、滝原先生をはじめ数名いらっしゃる副院長が、病院長や病院の方針を咀嚼してスタッフに伝えてくれるのは大きいと感じています。副院長が自分の責任で周りの人を巻き込んで導いてくれると、心理的安全性を感じて働きやすくなります。

須田氏:同感です。地域連携業務では紹介患者さんの受入れで困ったときも副院長先生方が「よろず相談」の連絡先を設けられていて、相談しやすく、頼りにしています。また、業務では電子カルテと業務用端末がひとり1台用意されていて、患者さんを受入れるための環境を整えていただいています。今回はコマンドセンターの導入もあり、スタッフへの勉強会も企画されて、導入の趣旨や活用方法などシステムを理解して活用できる土台を築いていただけたのは大きいと感じています。

滝原医師:私自身、先代のセンター長や周囲の方々のおかげで成長させていただいています。院長がトップとして明快なメッセージを出してくれるので、翻訳して現場に落とし込むのが自分自身の役割だと考えています。現場が何か困っているときには、いつも駆け込み寺みたいな存在でありたいと思います。

医療DXは、医療人としてすべき仕事のため

須田氏:海老名総合病院内でも、医療DXが進んでいます。地域医療連携に関わる部分でいうと、例えば、医療機関訪問に関する情報をエクセルで管理していましたが、系列の座間総合病院とデータが共有できないエラーがありました。現在はCRMを活用して、お互いにどの医療機関を訪問し、どんな内容の話をしたか把握できるようにしました。後方連携では、退院調整システムを利用しています。急の場合は電話ですが、急がない場合は患者さんの情報をシステム内で共有して、受け入れ調整を行っています。
医師や看護師など資格職の方が専門的な業務に集中できるように、タスクシフトで院内の業務が変わってきました。皆さんの負担を軽減するため、ICTや医療DXを活用していきたいと思います。

松原氏:私たち事務方は、どうしたら医療職をサポートできるか考えています。病院長が「病院は存在し続けることが地域や社会に対する貢献である」とよくいっています。診療報酬の改定内容も厳しくなっていますが、限られた医療リソースを活かせる方法を、今後も検討していきたいです。

滝原医師:医療DXがよく話題になりますが、デジタル技術を使うのは、人にしかできない役割を果たすためです。
私たちは患者さんと話し、体に触れて診察するといった仕事のために技術を利活用したいと思います。ICTや医療DXの使用が目的ではありません。今こそ医療人として、本来、何をするべきかに立ち返る必要があります。患者さんと同時に病院の職員も幸せになり、地域の病気ではない皆さんともつながりを持ち、誰もが幸せになる中心に病院があれば良いと考えています。

5e63faa2d797d1fecbab0ba24768e620-1718004984.jpg

海老名総合病院

こんな記事も読まれています

  • 鹿児島の医療と暮らしを支え、未来をつくる。2病院が連携し中心となるまちづくり

    鹿児島の医療と暮らしを支え、未来をつくる。2病院が連携し中心となるまちづくり

  • 名戸ヶ谷スタイルのブランディングの舞台裏 「アメリカ×日本」の医療の未来を切り開く

    名戸ヶ谷スタイルのブランディングの舞台裏 「アメリカ×日本」の医療の未来を切り開く

  • 「断らない医療の提供3原則」を医療DXで支える、聖隷浜松病院・地域医療連絡室JUNC

    「断らない医療の提供3原則」を医療DXで支える、聖隷浜松病院・地域医療連絡室JUNC

一覧を見る