2023年11月15日
聖隷浜松病院では、地域医療連絡室(JUNC)が院内外の地域医療連携を支えている。紹介患者の受け入れに対して「断らない医療の提供3原則」を掲げ、医療DX(デジタル・トランスフォーメーション)の実践を通してペーパーレス化や業務改善に取り組み、全国的にも注目されてきた。JUNCの根底にある理念や思い、地域での医療連携の文化醸成について、地域医療連絡室(JUNC)室長の滋野智也氏(写真中央)、地域医療連絡室JUNC 西田 貴博氏(写真右)、法人本部総合企画室課長の望月卓馬氏(写真左)にお話を伺った。
地域医療連絡室(JUNC)の開設は1994年で来年30周年を迎えます。「JUNC(ジャンク)」の名称は「ジャンクション」の頭文字をとっており、イレギュラーなご用命でもさまざまな背景の人と人とを、適切なルートにつなぐ役割を果たす、という思いからつけられました。医療機関や患者さんからの多種多様なご依頼に対し、円滑に対応することが役割であると考え、なかでも開業医の先生方との連携には使命感をもって取り組んでいます。
当院は、民間病院として全国で2番目に地域医療支援病院に指定されました。開業医からの当日紹介の患者さんの受け入れに対して病院方針として「断らない医療の提供3原則」を掲げています。「断らない・待たせない」「開業医から依頼の依頼科が責任を持って対応する」「お断りするときは原則、依頼科の医師が断る」という3原則を前院長が提唱し、現在も引き継がれています。地域の先生方からいただいたご意見を大切に、病院組織として改善していくために、この3原則を大切にしています。
週1回の経営会議では、前週の紹介患者の応需状況を報告しています。現在の返答までの平均時間は6から7分ですが、5分を目標にしています。返答時間を短くするために、JUNCスタッフが診療部長医師に直接連絡し、受け入れの判断を仰いでいます。看護師が仲介する病院もありますが、当院では早く受け入れるためにバイタルや症状、どのくらいの時間で来られるか等を確認し、ダイレクトに医師に伝えます。断らないことが前提なのですが、仮にお断りする場合でも少しでも早く回答することを心がけています。紹介してくださる開業医の先生の負担を減らすために、多くの情報を聞きすぎず受け入れることを意識しています。最近では、呼吸器内科や消化器内科、循環器、小児科、膠原病リウマチ内科などJUNCの判断で受け入れ、詳細は事後報告でいいという診療科も増えてきました。(滋野氏)
9月のお断り一覧
断る割合が多い場合、組織での対応が必要となります。たとえば外来枠が少ない、手術枠と外来枠の連携がスムーズでないといった状況を、該当する科だけで対応するのは難しいでしょう。組織として介入し、どうしたら受けられるかを一緒に考え、改善策を検討しています。目標値のパーセンテージを把握することも大事ですが、その背景やお断りの件数やその理由に注目しています。1件でも断らないためには自分たちJUNCに何ができるのかを考えつつ病院全体で支えられるよう、担当の副院長と一緒にお断りした事例・理由を1つ1つ解決するよう努めています。
医療DXの実践として、ペーパーレス化に取り組んでいます。当院は保険証の確認や患者への検査などの説明を動画にて配信する仕組みを生かしたオンライン化を進めています。今回は連携の事務的な業務をデジタル化することで医療連携業務も改善された事例を報告します。
FAXによる連絡方法を何とかペーパーレス化できないか検討していたところ、現場の医師からも「紙はやめよう」という声が上がりました。従来はFAX受信して排出されたシートを活用してスキャナーセンターで取り込んでいました。そうなるとFAXを受信してからスキャナーに入るまでに約3~5時間かかる場合もあり、医師の不満や診療の遅れにつながっていたのです。JUNC内のFAXに受信した診療情報提供書を100%PDF化して受信し、①IDと施設コード、予約オーダーで患者を特定、②紹介登録を自動化、③電子カルテへのスキャナー、④報告書は電子媒体で医師に送付する機能を備えた、しなりシステム(ピコシステム)を導入しました。JUNCではIDを扱う保険情報システムと地域連携システム、予約オーダーの大きく3つのシステムを使用します。このシステムを統合したしなりシステムを導入したことにより、電子カルテへのスキャナー保管までの時間の削減や報告書等の診療情報をタイムリーに届けられるようになりました。2023年6月はJUNCで約4000件をスキャナー保管しています。またスキャナーセンターで取り込む作業が無くなったことで、経費や人件費の削減にも寄与することができました。
ペーパーレス化は医師や受付業務の業務改善にもつながります。たとえば、開業医からの報告書はタイムリーにオンラインで確認でき、医師が電子媒体を使用してPDFを確認した割合は約8割と把握しています。医師がタイムリーに医療情報を確認できるようにすることで診療の質も高まることを期待できるので、PDFの開封率を上げる働きかけも継続的に行なっています。(滋野氏)
ペーパーレス化にはJUNC内スタッフに対しても関係部署に対しても事前の準備期間が必要でした。JUNCではITに不慣れな世代のスタッフに配慮して2023年1月末から操作訓練、2月に仮運用を始め、3月本運用のスケジュールで進めてきました。現在はだいぶ操作にも慣れ、スピーディーな運用ができています。
また総合受付(夜間)は委託職員が担っているため、委託職員へのレクチャーも同時に行い、ペーパーレスに関わる外来部署との調整、時間外対応を計画的に進めていきました。(西田氏)
ペーパーレス化の運用開始にあたっては多くの部署に関係する取り組みでありさまざまなハードルがあります。特に自分たちの手が離れる部分は調整が必要です。休日夜間の対応はどうしても難しくなりますが、当院の救急科の医師がペーパーレス化を希望されたため、委託職員とも調整を重ね実現に至りました。完全にFAXをなくすのは難しいという声もありましたが、ペーパーレス化によって紙の紛失がなくなるといった効果が出ています。このような現場で受け入れられる運用を重視しています。(滋野氏)
デジタル化によって、医療の質が変わっていくことと思います。複数部署が電子カルテ上で診療申込み書や診療情報提供書の内容を見られるようになり、診療当日に向けた事前準備が進むようになりました。予約の前日にIDや保険証の確認ができれば受診当日、患者さんが窓口に並ぶ時間は短くなります。今後、オンライン問診をはじめ電子化が進めば、患者さんの受診当日の印象はより改善すると考え、改善に向けた準備を外来医事課と進めています。
さらに、紹介患者さんのプライオリティ高く応することで、それぞれの病院の役割がより活かせる可能性があります。たとえば、鉄道や空港の自動改札のように受付がデジタル化され、紹介患者さんには優先的な受付を行い、受診から検査、会計までをアクセスよく進められ、滞在時間が短くなるメリットがあれば、病院の機能分化にもつながるでしょう。(滋野氏)
当院の予約管理はこれまで紙台帳でしたが、アクセスで予約台帳をシステム化して運用しています。患者IDを入力すると予約オーダーや地域連携システムから情報を取込みします。予約管理や地域医療連携の文書(催促文書やお礼状など)もこのシステムで管理し、業務の効率化に成功しました。健診センターからの紹介数は月に約400件ですが、患者さんから予約を取る場合もあり、紹介状の取寄せ業務も自動化され事務手続きがスムーズになりました。
当予約台帳システムでは、情報提供依頼後のお返事を開業医からいただくとそれに対するお礼状を発行しています。また、紹介患者さんが2週間以上入院している場合は、紹介元の先生に事務的な経過報告書を発行するようにしました。ファイル名にFAX番号を埋め込み、所定のフォルダーに保管することでFAXを自動化して文書を送信しています。(滋野氏)
電子台帳の最も効果的な機能は、翌日の紹介患者の予約管理業務です。1日に100から120件の紹介があり、スタッフが1件ずつ予約の進捗状況を確認する業務はこれまで1時間以上かかっていましたが、予約台帳システムによる自動化で5分から10分で終わるようになりました。院内の問い合わせの対応にも、誰もが確認でき経過も追えるようになり業務の可視化をすることで効率化した改善事例です。
もちろん紹介登録や返書管理に地域連携システムを使用して運用も行っていますが、実際には返書管理についても連携システム内のみにて完結できず、独自開発のアクセスにて対応しています。アラートなどのメッセージ等が出て管理できる機能があるとよいのですが、現行では対応範囲外で電子カルテが開発された約20年前には医療連携が今ほど考えられていなかったのでしょう。そのようなことからも昨今は地域医療連携が進み、見落としなく迅速に対応する管理方法や業務工程を減らして可能な限り自動化させるという視点が重視されるようになったと感じます。(滋野氏)
医療機関の訪問活動はコロナ禍でも地域の状況をみながら継続していました。医師の同行訪問だけではなくJUNCスタッフによる訪問活動(夏・冬)も行なっています。事務的な挨拶にとどまらず、必ず医師に面会して当院の特徴となる医療内容やお届けしたいトピックを分かりやすく3つ程度に絞って伝える方針です。新規開業の先生には開業前訪問で地域連携の手順について説明を行い、開業後3ヶ月後訪問では開業後の困りごとや改善点を確認しています。今後はそのほか紹介が3年空いた開業医などに、紹介数の推移をみて伺う活動を検討しています。
JUNCで月に1回発行しているニュースレターは、開業医に特化した内容で作成するようにしています。地域連携WEB勉強会や専門科の広報チラシの作成と同様に、開業医視点で当院が提供できる医療情報を地域の開業医の先生に届ける役割は、JUNCの重要な職務だと考えています。(西田氏)
聖隷浜松病院が力を入れている医療をお伝えし、開業医の先生がこういう症例は任せようと患者さんをご紹介してくださることで、よりよい医療連携が可能になります。自分たちの強みをリアルタイムにお知らせし、開業医の先生と共に地域医療を支えていきたいと考えています。(望月氏)
院内の医師が活躍する舞台を用意することもJUNCの使命です。たとえば先日、ヘルニアの日帰り手術ができるようになったという話題がありました。このような院内のトピックを拾い、現場に確認した上で活躍できるようマネジメントすることが必要です。JUNCは学術広報室や経営企画室と月に1回、ミーティングして外部へ広報するためのコンテンツを情報共有しています。(滋野氏)
当地域では大腿骨、脳卒中、肺炎、がんをはじめ地域連携パスの充実に取り組んでいます。病院の機能分化、医療連携においては、お互いの医療ニーズや役割を理解し、対応できること・できないことを理解することがより良い医療の実現に繋がります。
内科疾患では先駆けて実行している肺炎パスにおいては、現在12カ所の連携施設と20カ所の連携診療所でつながっています。それぞれの連携施設ごとに転院・退院基準を設け、丁寧に情報交換を行いつなげることを大切にして実践しています。最初は医師・医療者同士のつながりから始まり、お互いの医療機関の役割や課題を解決するための情報交換会を何度も重ね、医師会への理解も得ながら地域全体で活用ができるパスを運用するべくJUNCが介入し、地域連携パスを整備に尽力してきました。
肺炎パスの流れを活かし、現在パンデミック状態で社会問題となっている心不全においても、地域連携パスにて運用できるよう整備を進めています。循環器の医師が在籍している医療機関へ訪問し、当院のニーズをお伝えした上で、医師・看護師同士で受け入れられる患者さんについてディスカッションを重ね運用し、年間30症例ほどの転院実績が生まれるまでになりました。社会的ニーズの高い疾患を、地域全体で支える医療連携をしていくことが、地域住民の命と健康を守る当院の役割だと考えています。(滋野氏)
当院では公式アプリ「SEIREI」をリリースしました。外来医師の担当表や駐車場の使用状況が確認でき、病院からのお知らせやイベント情報が見られます。今後、開業医の先生専用のホームページを立ち上げて診療科情報の掲載、Web勉強会の動画配信、資料の取り寄せができるよう検討中です。JUNCとして、聖隷浜松病院が地域医療に貢献するためにできることを模索し、力を尽くすつもりです。(滋野氏)
聖隷浜松病院
1962年に開院し、2022年で60周年を迎えた。民間病院として全国で2番目に地域医療支援病院に指定され、“私たちは利用してくださる方ひとりひとりのために最善を尽くすことに誇りを持つ”を理念に、高度医療や地域医療連携に積極的に取り組んでいる。
所在地
静岡県浜松市中区住吉2-12-12
病床数
750床(一般病棟 629床 特定入院料病床 121床 救命救急センター(ICU 12床/救命救急病棟 18床) 総合周産期母子医療センター(MFICU 15床/NICU 21床/GCU 20床) 小児病棟 35床)
URL
https://www.seirei.or.jp/hamamatsu/こんな記事も読まれています