東京武蔵野病院を母体とした訪問看護ステーションが始動——専門職が地域の利用者さんの自分らしい生活をサポート
新しく訪問看護ステーションを立ち上げました。長年、地域に根付いた精神科医療を担い、多職種スタッフと共に、一貫した支援を続けています。
今回は、訪問看護ステーションに務める井上看護師と三上作業療法士にお話を伺いました。
多職種による訪問看護の意義は、その人らしい生活のサポート
【三上作業療法士】東京武蔵野病院の訪問看護チームの強みは、開設当初より多職種スタッフによる支援体制があることです。地域で「その人らしい暮らし」が出来るように職域の壁を越えて連携し、それぞれの職種の視点で包括的に見ていきます。作業療法士は、実際の生活の場でその方の生活をイメージし、その方が人らしく生活できる環境を整えることを大切にしています。
【井上看護師】訪問看護には、地域でその人らしく生活する利用者さんを見守る意義があります。入院せずに地域で生活できる方がいらっしゃいます。自分のしたいことをして、ささやかな楽しみがある暮らしは誰にとってもかけがえのないものです。お風呂に入れない方や身の回りを整えられない方にも、その方の望む日常があります。私たちは一人ひとりの利用者さんに向き合って生活をサポートし、質の高い医療サービスの提供に努めています。
医学的な必要性がある方が訪問看護の対象
【井上看護師】訪問看護ステーションは、医師から必要性があると判断された方が対象です。服薬管理が難しい場合のほか、日常生活に支援が必要な方まで幅広く対応しています。利用者さんには統合失調症の方や気分障害の方、発達障害の方、認知症の方などさまざまな方がいらっしゃいます。
【井上看護師】専門的には、GAF(ギャフ/機能の全体尺度:Global Assessment of Functioning)という精神疾患の重症度と社会的な機能レベルを評価する尺度で、30から20の方が多いです。GAFは0から100点で評価し、数値が高いほど健康を示します。30〜21は「行動は妄想や幻覚に相当影響されている、または意思伝達か判断に粗大な欠陥がある、またはほとんどすべての面で機能することができない」状態です。具体例として「ひどく不適切に振る舞う、自殺の考えにとらわれている」あるいは「1日中床についている、仕事も家庭も友達もない」が挙げられます。
【井上看護師】当院では、通院や服薬が安定してできるようになった方や、回復して働き始めた方には、ご本人の希望を伺い主治医と相談の上リハビリの一環である訪問看護を終了しています。その後に必要があれば再開できます。退院後、クリニックに通院している場合でも訪問看護でつながり、入院での治療が必要な場合には、入院医療の利用も可能です。
多職種の専門性を活かした訪問看護の実践
【三上作業療法士】利用者さんにケアを行うためのアセスメントでは、まずその方の背景に器質的・機能的な問題があるかを確認します。気分・感情・意欲に起因する場合もあります。さらに、細かい動作ができるか、生活環境の動線に問題がないかも見ています。
作業療法士は、実際の行動につなげるプロセスの提案が得意です。動作をスモールステップで細分化すると、できるようになる場合があります。例えば水分が摂れない方でも、目の前に飲み物を置けば飲めるかもしれません。お風呂に入れない場合は、まずご本人の入浴への意欲が出発点です。給湯器でお湯を沸かす、服を用意するといった手順のどこで詰まっているかを現場で一緒に考えています。利用者さんがしたい生活にむけた支援には、推論を重ねたアセスメントと必要なステップの細かい検討が欠かせません。知識と臨床経験をもとに多職種で話し合い、アセスメントを深めています。
【井上看護師】私は訪問の際、看護師として利用者さん自身のセルフケア能力を確認しています。空調を適切に使っているか、食事や水分を摂っているか、排泄できるか、眠れているか、生活動作が可能かという視点で会話をしたり、観察したりしながら確認し、支援が必要な部分を話し合っていきます。
利用者さんの背景はそれぞれです。自炊する方もいれば、買ってきて食する方もいます。一律に自炊を勧めることはせず、買い物をする方には「こういうものを選ぶのはどうか」と提案します。経済的な事情も異なるため、その方のできる範囲でどうすればよいかを一緒に考える姿勢を大切にしています。
服薬の難しさにも、背景をくみ取りながらアプローチ
【井上看護師】「薬が飲めない」という理由でのご紹介はよくあります。理由はさまざまで、単に忘れてしまう方もいれば、副作用がつらくて飲みたくない方、薬を飲むなという幻聴が聞こえる方もいます。「飲んでください」とお伝えするのではなく、なぜそう思うのかをご本人からよく伺うようにしています。理由が分かれば主治医とも相談しながら、薬の量を調整する、味を変える、錠剤から液剤にするといった提案が可能です。医師には話しにくいという方もいるため、訪問看護スタッフは利用者さんと医師をつなぐ橋渡し役も担っています。
【三上作業療法士】飲み忘れ防止には、冷蔵庫の近くにお薬カレンダーを置くといった動線の工夫が役立った方がいました。朝は忙しくて飲み忘れるという報告をもとに夜の服薬に変更したケースや、経口薬から注射薬に変更した事例もあります。
利用者さんの意思を尊重し、切れ目なく適切な医療につなぐ
【三上作業療法士】病院を母体にしているため、支援が必要になった場合の受け皿として、必要があれば入院できる体制は、利用者さんやご家族にとって大きな安心です。できるだけ地域で生活しながら訪問看護を受け、状態が悪化した際は切れ目なく入院医療を利用できます。病院のカンファレンスにも参加し、入院中から病棟看護師と連携しているため、医師との情報共有もスムーズです。
【井上看護師】訪問看護の利用者さんが入院医療を利用される場合は、主治医との連携や外来調整までの流れが整っています。当院では入院中に「クライシスプラン」としてご本人の意思決定を事前に話し合っています。訪問看護でも内容を引き継ぎ、退院後も一貫した支援が可能です。
【井上看護師】状態によっては急な入院が必要になる場合があります。ご自身や周囲に危険が及ぶ可能性がある場合や、食事・水分が摂れない生命に影響がある場合では入院を検討します。外来診療だけでは把握しにくい病状を訪問で察知して医師に伝える役割も、訪問看護が担っています。病棟経験が豊富で、専門性に裏付けされた精度の高いアセスメントが強みです。
利用者さんに加え、ご家族と地域もサポートする
【井上看護師】精神科には長期入院されてきた方も多く、退院後は病院での生活から地域の暮らしに少しずつ慣れていく過程があります。入院中にできなかった「その人らしい生活」を取り戻していく歩みに、訪問看護が伴走できます。
ご自宅に伺うと「来てくれると安心」とご家族からよく言っていただきます。生命維持のために入院が必要でもご本人が拒む場合、訪問看護が入っているとご家族の不安が和らぐようです。定期的な訪問により入院せずに地域で生活できることもあり、ご家族に休息を取っていただくためにレスパイト入院をご提案するケースもあります。
【三上作業療法士】長期入院から退院された方のご家族も不安を抱えています。退院後も病院とつながっているという安心感を持っていただけるよう、架け橋の役割を心がけています。「疲れているから話を聞いてほしい」というご家族もいらっしゃいました。
【三上作業療法士】入院に対して忌避感があるご家族には、お気持ちを伺った上で丁寧に説明します。訪問看護を利用していると地域での生活の様子が可視化され、「この状態なら続けられる」という共通認識が生まれます。悪化する前に早めに対処できることで必要以上に入院しなくてすむという利点もあります。ご家族から適切なケアを受けにくい状況では、地域の障害福祉サービスへの橋渡しも行っています。
生活保護を受けている単身の利用者さんも多く、福祉関係者の方からも期待の声をいただいています。東京武蔵野病院への信頼に応え続けたいと思います。
利用者さんに寄り添う支援にやりがいを感じて
【井上看護師】外来を担当していた私が訪問看護チームに配属されました。病棟での管理と異なり、伴走支援の形です。その方のご自宅でできる範囲の生活を一緒に考えるところにやりがいを感じています。
【三上作業療法士】地域医療に関心をもって作業療法士になったので、自然に訪問看護という選択肢にたどり着きました。長くデイケアで勤めていましたが、通所施設での関りより訪問の方が利用者さんの実際に目を向けられ、可能性を広げられると実感しています。
地域の先生方とつながり、訪問看護の専門性で貢献したい
【三上作業療法士】地域の先生がご紹介される際は、当院の訪問看護ステーションにご依頼ください。地域の先生方との連携を深めていければ幸いです。
【井上看護師】私たちは地域のケアマネージャーの方とも連携しており、定期的な計画相談で立てられたケアプランを共有いただき、退院後の面談にも同席しています。訪問看護での様子をこちらからお伝えし、双方向の情報共有を心がけています。地域の先生方とともに、地域で暮らす利用者さんをしっかりと支援していきたいと思います。どうぞよろしくお願いいたします。