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発達障害から認知症まで―「弱者性」を抱える患者さんのメンタルヘルスに寄与する

Doctor's interview

Psychiatry

東京医科大学病院
メンタルヘルス科/主任教授

発達障害から認知症まで―
―「弱者性」を抱える患者さんのメンタルヘルスに寄与する

2025年4月に主任教授に就任した桝屋二郎教授は、児童精神医学を専門とし、小児期の逆境体験が中長期に及ぼす影響の研究を通じて、いわゆる「弱者性(vulnerability)」を抱える患者さんの支援に尽力してきました。東京医科大学病院 メンタルヘルス科では、児童期の発達障害から成人のうつ病、さらには高齢者の認知症まで、ライフサイクル全般を網羅する広範な精神疾患に対応しています。桝屋教授は、地域の医療機関の先生方にとって、高度な専門性を備えつつも「利便性と機動性に優れた大学病院メンタルヘルス科」であることを目指すと、その展望を語ります。

小児期逆境体験(ACEs)に起因する精神疾患の重症化予防と早期介入

私の専門分野は児童精神医学であり、これまで子どもの心の診療を軸に据えつつ、成人期の治療や支援にも一貫して携わってまいりました。昨今、うつ病患者が増加傾向にありますが、その発症機序は複数の因子が複雑に組み合わさった結果であると考えられています。その中でも特に大きな要因の一つとして注目されているのが、小児期の逆境体験です。健全な発育を阻害する過酷な成育環境や辛い経験は、他の発症原因と相互に作用し、成人後のうつ病発症リスクを著しく高めることとなります。さらに、虐待やいじめ、犯罪被害、あるいは災害、経済的困窮、地域コミュニティの欠如といった深刻な体験が重なると、その複合的な影響は精神面のみならず、生活習慣病をはじめとする身体的な慢性疾患への罹患率にも波及します。米国の研究報告によれば、6つ以上の逆境体験を持つ方は、そうでない方と比較して平均余命が約20年短いという衝撃的なデータも示されています。これまで、虐待が及ぼす個別の影響については各方面で研究されてきましたが、近年では複数の逆境体験が連鎖的に及ぼす悪影響のメカニズムが、精神医学の重要な焦点となっています。

また、近年のトピックである発達障害(神経発達症)は、脳の特定領域における成長発達のアンバランスに起因し、特定の分野で機能不全が生じる状態を指します。具体的には、対人関係の構築や特定の学習分野の習得、あるいは注意・集中力の維持に困難を抱えるケースが散見されます。昨今、発達障害と診断される方は増加の一途を辿っていますが、これは単に過去に見逃されていた症例が同定されるようになっただけでは説明がつかないペースであり、その原因解明が急がれています。現段階では単一の原因を特定するには至っていませんが、様々な要因が複雑に絡み合った結果であると推察されます。

言い換えれば、逆境に置かれている子どもたちに対し、早期に適切な支援の手を差し伸べることができれば、成人後のうつ病や自殺、アルコール依存といった深刻な問題の未然防止に繋がる可能性があります。私は、児童期における包括的な支援こそが、将来の国民のメンタルヘルスを守るための最重要課題であると考え、日々の診療に邁進しております。

ライフサイクルを網羅する包括的診療体制

東京医科大学病院メンタルヘルス科は、小児から高齢者に至るまで、極めて幅広い年齢層の患者さんに対応しております。発達障害からうつ病、認知症といった多岐にわたる精神疾患に対し、各領域の専門家が緊密に連携し、患者さんのメンタルヘルス向上に取り組んでいます。当科の最大の特徴は、都市型の大学病院として、多様な疾患群に対して柔軟かつ迅速に対応できる「機動的な体制」にあります。例えば「こどものこころ診療部門」では小児科と密に連携を図り、認知症診療においては高齢診療科が中心となり運営する「認知症疾患医療センター」へ参画し、診療に当たっています。

発達障害から認知症まで―「弱者性」を抱える患者さんのメンタルヘルスに寄与する

入院機能については、計19床の精神科病床を備えております。大規模な施設ではありませんが、地域の先生方からご紹介いただいた患者さんに対し、大学病院の強みを活かして各診療科との併診体制を構築し、身体的な既往症や合併症の並行治療が可能です。対象疾患も発達障害を抱えるお子さんから摂食障害、さらには周辺症状を伴う認知症の高齢者まで、幅広く受け入れています。この小規模な体制を逆手に取り、個々の病状に即して「短期間の入院」と「外来診療」を戦略的に組み合わせ、早期の社会復帰を目指す治療プログラムを展開しています。病棟は3人部屋、4人部屋、および個室で構成されており、静謐な環境の中で落ち着いて療養いただけるように配慮しています。

また、複雑な背景を持つ患者さんの支援は、医療の枠組みだけでは完結いたしません。福祉、行政、教育機関との多職種連携が不可欠です。本院は医療福祉相談センターの体制が充実しており、経験豊富な医療ソーシャルワーカー(MSW)が、病院外の諸組織との連携を円滑にコーディネートしています。

共同意思決定による最適な治療と「快復」への伴走


当科では、次の3つの柱を診療方針として掲げています。

第一に、患者さんと医療スタッフが真のパートナーとして協力し合う体制の構築です。私たちは患者さんとの信頼関係を最優先し、真摯な姿勢で傾聴することを旨としています。多職種によるカンファレンスで治療内容を多角的に検討した上で、患者さんやご家族に丁寧な説明を行い、共に治療方針を選択していくプロセスを重視しています。医療の役割は、患者さんがより良い人生を再構築するための支えとなることにあると考えています。

発達障害から認知症まで―「弱者性」を抱える患者さんのメンタルヘルスに寄与する

第二に、日々の生活上の「悩み」と、医療的介入を要する「疾患」を厳密に鑑別することです。精神科の診断基準は社会情勢の変化や改定に伴い変遷するため、専門的な見地から医療の対象とすべきか、あるいは他分野の支援を優先すべきかを慎重に判断する必要があります。早期段階でのアセスメントは非常に有効ですので、地域の先生方が診断や対応に迷われる症例がございましたら、遠慮なくご紹介ください。専門的な評価を行い、その結果を速やかにフィードバックさせていただきます。

第三に、患者さんの快復にプラスとなる生活を実現するために、積極的な環境調整と助言です。身体的な疾患では「病前の状態」に戻すことが治療目標となりますが、精神医学の分野では、治療前の悩みを抱えていた状態に戻るのではなく、そこからさらに一歩進んだ「より良い状態」を目指します。適切なストレス対処法を習得し、精神的な耐性を高めることで、将来的に同様の問題が生じても以前のような過度な反応を起こさないよう、自己成長を促すイメージです。患者さんやご家族が病識を深め、前向きに治療に取り組めるよう、きめ細やかな配慮を欠かしません。

高度専門治療:NIRS・m-ECT・ペアレントトレーニング

当科では、標準的な薬物療法や心理療法に加え、高度な専門的治療を提供しております。

光トポグラフィー検査(NIRS) 近赤外光を頭部に照射し、脳活動に伴うヘモグロビン量の変化を測定することで、脳の機能状態を数値・グラフとして可視化する検査です。症状が類似している「うつ病」「双極性障害」「統合失調症」の鑑別診断の補助として極めて有用です。非侵襲的で身体への負担が少なく、保険適用も認められています。客観的なデータ提示は、患者さんが自らの病状を正しく理解し、治療への動機付けを高める契機となります。
修正型電気けいれん療法(m-ECT) 全身麻酔と筋弛緩薬を用いることで、従来の治療法にあった苦痛やけいれんを防止しながら、脳に短時間の電気刺激を与える治療法です。うつ病や統合失調症をはじめとする重篤な精神症状の改善に寄与します。特に薬物療法の効果が不十分な難治症例において選択されることが多く、安全性と有効性は世界的に実証されています。国内でも豊富な実績があり、保険適用の治療法として確立されています。
行動療法的ペアレントトレーニング ADHD(注意欠如多動症)を抱えるお子さんの養育者を対象とした専門的なプログラムです。子どもの行動に焦点を当て、肯定的な注目の仕方(ほめ方)、不適切な行動への対処法、効果的な指示の出し方を具体的に学びます。環境調整や養育スキルの向上を通じて、保護者の心理的ストレスを軽減し、お子さんの適切な行動を促進することを目的としています。ADHDの非薬物療法として世界的に推奨されており、高い治療効果が実証されています。

臨床の軌跡:社会的弱者性に寄り添う精神医療の探求

私は1998年に東京医科大学を卒業し、精神科医としての道を歩み始めました。もともと子どもが好きで、子どもたちが抱える困難に対して力になりたいと願っていたことが、児童精神医学を志した原点です。

これまでの臨床経験は、多様な巡り合わせと研鑽の連続でした。かつて支援していた非行少年が少年院に送致された際、私は彼らが置かれた過酷な背景を目の当たりにし、少年院の先生方と勉強会を立ち上げました。その思いが深まり、2007年には矯正医官として少年院に赴任し、矯正医療の現場に身を投じました。また、2011年の東日本大震災直後からは福島県での支援活動に従事し、2014年には福島大学にて「子どものメンタルヘルス支援事業」を創設いたしました。その後、2016年に東京医科大学茨城医療センターへ帰任し、2019年に本院で「こどものこころ診療部門」を立ち上げ、2025年に主任教授に就任し、現在に至ります。

私の活動の根底にあるのは、何らかの理由で「弱者性(vulnerability)」を抱えざるを得なかった方々への一貫した支援の精神です。発達障害やいじめ、非行、虐待といった小児期の逆境体験を現在の主要な専門分野としているのは、これまでの出会いとご縁が導いてくれた結果です。今後も、弱者性を抱える方々により良い医療を提供すべく、どのようなアセスメントが有効か、いかなる支援が必要かを追求する研究を継続してまいります。特に小児虐待が心身に及ぼす影響のメカニズム解明や、コロナ禍で顕在化した女性のメンタルヘルス課題、自殺予防についても積極的に発信し、社会に寄り添う医療を実現したいと考えています。

例えば高齢者施設では、結石が尿路に詰まって感染を起こし、発熱するケースが少なくありません。特に血圧が低下している場合は緊急性が高いため、迅速なご紹介をお願いしています。一方で、まず抗生剤治療を行い、翌日以降の受診でも対応可能なケースも多くあります。
このような判断基準のもと、緊急性がある場合は14時までにお電話、もしくはできるだけ早い時間帯にご相談いただくようお願いしています。体制を整えやすい時間帯での対応が可能となり、よりスムーズな対応につながっています。

働き方改革が進み、医療の質を維持するためには工夫が必要だと感じています。医療体制を持続させることの重要性が増す中で、今後さらに、医療連携によって地域全体の泌尿器科医療の水準が向上し、救われる患者さんが増えることを期待しています。

地域医療機関との機能分担と相補的な連携体制の確立

大学病院として私たちが果たすべき役割は、各診療科との高度な連携が必要な症例や、入院治療を要する重症症例を確実に受け止めることにあります。具体的には、病状の急激な悪化や希死念慮が顕著な症例については入院加療の対象となります。また、地域の先生方が対応に苦慮されることの多い自傷行為や過量服薬(オーバードーズ)の症例についても、可能な限り受け入れる体制を整えています。

認知症診療に関しても、当院の「認知症疾患医療センター」と密に連携しております。認知症の中核症状に加え、周辺症状(精神症状や行動障害)によって地域での管理が困難になった症例については、高齢診療科と当科で協議の上、最適な診療体制を提供いたします。

発達障害から認知症まで―「弱者性」を抱える患者さんのメンタルヘルスに寄与する

地域の先生方におかれましては、精神科受診に抵抗感を持たれている患者さんに対し、「大学病院と連携して診ていくので、まずは一度相談してみましょう」と橋渡しをいただけますと幸いです。かかりつけ医をお持ちの患者さんの場合でも、精密検査や特殊な治療、短期入院が必要な際には、ぜひお気軽にご紹介ください。ご紹介いただいた患者さんは、急性期治療や精査が終了し次第、基本的にもとの主治医の先生のもとへお戻しする方針です。詳細な診療情報提供書の作成はもちろん、MSWによるソーシャルワークの支援内容もしっかりと申し送りさせていただきます。

ご紹介いただく先生方へ:外来・入院のご案内

大学病院は地域の先生方からのご紹介があってこそ成り立つ組織です。お互いに「顔の見える関係」を築き、各々の役割を分担しながら、率直に意見交換ができる連携体制が理想です。私たちは、地域の先生方にとって、必要な時に頼れる「利便性の高い専門診療科」でありたいと考えております。
診断や治療方針に迷われる際など、どうぞお気軽に当科をお役立てください。

成人初診(一部予約制) 今年より初診受付体制が変更となり、一部予約制を導入しております。予約外の患者さんの受付時間は「午前8時〜午前10時30分」となりますが、当日の診察状況によりお待ちいただく場合がございます。
「こどものこころ診療部門」(完全予約制) 初診の待機期間を極力短縮するよう努めております。緊急性の高いケースや対応に迷われる場合は、遠慮なくお電話でお尋ねください。なお、入院の際は成人と同一の混合病棟となりますので、短期から中期の入院受け入れを基本としております。
入院のご依頼について A当科は小規模病床(19床)のため、入院が必要な場合は事前に病棟医長または副病棟医長までご連絡をいただけますと調整が円滑に進みます。即日の入院対応は困難なケースも多いため、あらかじめご了承ください。また、病室は個室および3人・4人部屋のみの構成となりますので、原則として全室差額ベッド料が発生する運用となっている旨、患者さんへの事前のご説明をお願い申し上げます。

東京医科大学病院

東京医科大学病院は新宿副都心に位置する「特定機能病院」であり、都区西部「地域がん診療連携拠点病院」に指定されています。

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