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進化する血液疾患治療の中で、変わらぬ“人に寄り添う医療”を

Doctor's interview

Hematology

東京医科大学病院
血液内科 診療科長

進化する血液疾患治療の中で、

変わらぬ“人に寄り添う医療”を

東京医科大学血液内科学分野 赤羽大悟主任教授は、2025年4月に就任しました。
血液疾患はかつて「助からない病気」と言われていましたが、移植療法に加えて分子標的薬や抗体療法などの進歩により、今では「治る病気」へと変わりつつあります。赤羽主任教授は、こうした治療の進歩を踏まえ、患者さん一人ひとりの価値観に寄り添う医療を重視しています。適する治療法を集学的に組み合わせることで、より多くの患者さんに希望を届けることを目指しています。

血液疾患治療の選択肢が広がった今こそ、患者さんの想いを大切に

この20年ほどで血液疾患の治療は大きく進歩し、かつて難治とされた多くの病気が「治る病気」へと変わってきました。例えば、慢性骨髄性白血病は以前は助かることが難しい病気でしたが、現在では分子標的薬の登場により長期の寛解が期待できるようになっています。 造血幹細胞移植に加え、分子標的薬や抗体療法などを組み合わせた集学的治療を実践し、患者さん一人ひとりに適した治療方針を検討しています。

治療法の選択肢が増えたからこそ、医師は「一番良い方法を選ぶ」だけでなく、「その方にとって納得できる選択を一緒に考える」姿勢が求められます。
患者さんの価値観やライフステージによって、治療に求めるものはそれぞれ異なります。「少しでも長く生きたい」「生活の質を保ちながら過ごしたい」といった想いを尊重し、治療後の生活や将来設計までを見据えた支援を心がけています。通院負担や費用面などのご希望にも配慮しながら、患者さんが納得して選べる医療を目指しています。
私たちは、医師だけでなくコメディカルと情報を共有し、患者さんの声に耳を傾けながら、一緒に治療を歩むパートナーでありたいと考えています。

集学的治療とチーム医療で、患者さんをサポート

当科では、貧血や血小板関連の疾患、血液の悪性腫瘍を主に治療しています。入院治療に対応し、造血幹細胞移植をはじめ、分子標的薬や抗体療法による先進的な治療に取り組んでいます。外科的な切除を伴わない悪性腫瘍の診療に関して診断から治療、ときには終末期まで一貫して取り組めるのが強みです。

当科では、多職種の専門性を活かしながら連携する「チーム医療」を重要視しています。例えば、白血病や難治性の悪性腫瘍に対する造血細胞移植では、ドナーの方の検査や選択から根治を目指すための移植医療までチーム全体で丁寧にサポートしています。血液内科の治療は、患者さんにとって辛い治療が長く続くため、チーム医療のスタッフがそれぞれの得意分野で対応して心理的に支援できるのもメリットです。


進化する血液疾患治療の中で、変わらぬ“人に寄り添う医療”を

また、血液疾患は希少疾患も多く、早期診断や治療のスムーズな移行には地域とのネットワークが欠かせません。血液疾患が疑われてから専門機関を受診するまでの時間を短くできるよう、さらに連携の質を高める必要性を感じています。

悪性リンパ腫の拠点病院として専門的な治療で貢献する

当科を受診される方の約半数が悪性リンパ腫の患者さんです。耳鼻科や呼吸器科といった他の診療科が専門とする部位から発生した悪性リンパ腫の方が紹介され、地域における拠点病院として機能できるよう力を入れています。

悪性リンパ腫はリンパ球が腫瘍化する疾患で、リンパ節が体内で腫脹しているのを契機に発見されるケースが多く見られます。非炎症性にリンパ節の腫脹が続く場合には、リンパ節生検を行って病理診断を確定します。幅広い年齢層に認められ、発熱や体重減少があり、押しても痛くないのが特徴です。治療面では、新規薬剤の登場により治療成績が大きく向上し、多くの患者さんが寛解、一定数の方は治癒に至るようになりました。

当科では、標準治療を軸にしながら、個々の病型や患者さんの状態に応じて抗体療法・分子標的療法などを適切に組み合わせ、再発・難治例にも対応できる体制を整えています。

移植は方法・タイミングが重要

当科では、難治性の造血器腫瘍や造血不全症に対して的確な診断のもと、必要に応じて造血細胞移植を行います。

移植には、兄弟間移植や骨髄バンク、臍帯血を利用する方法など、さまざまな選択肢があります。その中で、どのタイミングで移植を行うか、どの方法がその方に適しているかを慎重に検討することが、治療成績の向上に直結します。
早期に行うのも重要ですが、患者さんの体調や全身状態を十分に整えたうえで実施することを重視しています。治療のタイミングや方法を慎重に見極め、良いコンディションで移植に臨めるよう配慮しています。

研究と臨床をつなぎ、血液疾患治療の質を高める

私はこれまで血液腫瘍に対する新薬開発に携わり、新しい分子標的薬や抗体医薬の臨床試験にも関わってきました。

血液内科の領域では、がんゲノムを調べる「造血器腫瘍遺伝子パネル検査」が2024年に保険収載され、遺伝子情報に基づく治療選択が現実的な時代になりました。この検査では、次世代シーケンサー(NGS)を用いて多数の遺伝子を一度に解析し、疾患に関わる遺伝子変異を網羅的に調べることができます。疾患に関する遺伝子異常を網羅的に調べられ、より的確な治療薬の選択や病態理解が進み、個別化医療の精度向上に役立ちます。

当科は、白血病をはじめとする血液疾患に対する他施設共同の臨床研究グループである成人白血病治療共同研究機構(JALSG:Japan Adult Leukemia Study Group)に参加しています。エビデンスを重視する標準治療を基本に、新しい薬剤の治験も積極的に取り入れる方針です。

患者さんと共に歩む医療を原点に

医師を志した原点は、「困っている人の力になりたい」という思いでした。病気になったり、死に直面したりする場面は、多くの方にとって最も助けが必要な状況の一つです。そのような場面で、直接人を助けられる仕事に魅力を感じたのが、医師を目指すきっかけでした。 当時、血液内科は治療の難しい疾患が多く、患者さんと長い時間をかけて向き合い、一緒に病と歩んでいく医療が求められる分野でした。その姿勢に共感し、血液内科を専門として選びました。

また、血液は腫瘍細胞を直接解析できるため、研究が進みやすいという特徴もあります。この数十年で分子標的薬や抗体療法などの進歩が進み、血液疾患が「治る病気」になりつつあることに、臨床医として大きな手応えを感じています。

進化する血液疾患治療の中で、変わらぬ“人に寄り添う医療”を

医師として振り返ると、医療従事者はいろいろな人生経験をしてみるべきだと考えています。私たちが患者さんの思いを本当に知るのは難しく、自分の価値観で想像するしかありません。だからこそ、想像力を働かせ、患者さんの立場に立って考える姿勢が何より大切です。「患者さんの人生に寄り添う医療」こそが、私の目指す血液内科のあり方です。

地域を一つの医療チームとして、顔の見える連携を

私は、地域医療連携も大きな意味での「医療チーム」だと考えています。大学病院は単独で完結する存在ではなく、地域の先生方とお互いの強みを活かしながら、地域全体の医療水準を高める役割を担うべきだと思っています。

血液内科の診療に対応できる施設やスタッフは限られており、患者さんの数に対して十分とはいえません。そのため、連携によって希少疾患の治療薬の使用経験やマネジメントのノウハウを共有し、地域全体で診療の質を高めていくことが大切だと考えています。

最近では、近隣の血液内科の先生方にお声かけし、勉強会を開催して情報交換を始めています。
血液疾患を早期に見極めるためのポイントや、新しい治療法の動向を共有するセミナーなど、地域の先生方に役立つ情報発信にも積極的に取り組んでまいります。顔の見える関係づくりが、患者さんにとっても安心感のあるスムーズな医療連携につながると信じています。診療の中で気になる症例がありましたら、どうぞお気軽にご相談ください。

東京医科大学病院

東京医科大学病院は新宿副都心に位置する「特定機能病院」であり、都区西部「地域がん診療連携拠点病院」に指定されています。

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