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小児から成人まで、連携の力で血液疾患に挑む

Doctor's interview

Hematology

浜松医療センター

血液内科 部長 小児科 医長

小児から成人まで、
連携の力で血液疾患に挑む

浜松医療センターでは、小児科と血液内科が連携し、小児から成人まで切れ目のない血液疾患診療を行っています。白血病をはじめとする血液疾患は近年治癒を目指せる時代となりました。当院では抗がん剤治療から造血幹細胞移植まで一貫した診療体制を整えています。2025年には造血器腫瘍に対するがん遺伝子パネル検査「ヘムサイト」を導入し、より個別化された治療を実施できる機会が増えました。血友病診療では、非因子製剤(ノンファクター製剤)であるエミシズマブなどが登場したことで、治療の選択肢が広がっています。

小児から成人まで、幅広く専門的な血液疾患治療

内藤医師:浜松医療センター血液内科では、造血器悪性腫瘍から良性の血液疾患まで、幅広く診療を行っています。急性白血病や悪性リンパ腫、多発性骨髄腫といった悪性疾患に加え、再生不良性貧血、自己免疫性溶血性貧血、血小板減少性疾患、血友病などの良性疾患にも力を入れています。

川上医師:小児科では、白血病やランゲルハンス細胞組織球症などの悪性疾患、再生不良性貧血や血友病などの良性疾患を診療しています。血液内科と小児科が密に連携することで、小児から成人まで一貫した治療を行える体制を整えていることが、当院の大きな強みです。

白血病は”治る病気”へ。進歩する治療と連携体制

内藤医師:かつて白血病は「治らない病気」とされていました。しかし、現在、急性白血病は抗がん剤治療や造血幹細胞移植などの進歩により、治癒を期待できる患者さんが増えています。慢性白血病も内服薬でコントロール可能となり、悪性リンパ腫や多発性骨髄腫においても、分子標的薬、免疫チェックポイント阻害薬、二重特異性抗体などの新しい治療法により、長期生存が見込めるようになりました。当院では、これらの治療を最新のガイドラインに基づき実施しています。

小児から成人まで、連携の力で血液疾患に挑む

川上医師:小児科でも、急性リンパ性白血病の治療成績が大きく向上しています。既存薬の投与方法の工夫や新薬の開発により、現在では約9割の患者さんが治癒するまでに至っています。急性骨髄性白血病をはじめ、その他の小児がんも治療成績は徐々に向上してきています。
小児は成人に比べて白血病の症例数が少ないため、全国的に臨床試験への参加が可能な施設に集約して治療を行う体制が整えられています。当院もJCCG(日本小児がん研究グループ)に所属しているため、臨床試験への参加が可能です。また、静岡県内の医療機関とも連携して、稀な白血病についても対応します。

小児から成人まで、連携の力で血液疾患に挑む

血液内科では移植に積極的に取り組み、小児科は集約化に対応

内藤医師:造血幹細胞移植は、造血幹細胞移植認定施設でのみ実施が認められています。静岡県内では、現在当院を含め6施設が認定を受けています。
当院では、血縁・非血縁ドナー、さらに臍帯血による造血幹細胞移植にも対応しており、移植前後の全身管理を含めた包括的なチーム医療を提供しています。また、血液内科では、抗がん剤治療から移植までを一貫して受けられる体制を整えており、白血病治療をスムーズに進めることができます。

小児から成人まで、連携の力で血液疾患に挑む

川上医師:小児白血病の入院治療が可能な静岡県内の施設は、当院を含めて3施設です。当院では昨年に小児血液病床を新設しました。
しかし造血幹細胞移植については、全国的に集約化の流れがあること、静岡県内には移植が可能な施設が既に2施設あることなどから、当院では実施しません。必要な場合は他の施設へ依頼することもありますし、年長児の場合は当院の血液内科に移植をお願いすることも考えています。

小児から成人まで、連携の力で血液疾患に挑む

がん遺伝子パネル検査「ヘムサイト」が保険適用に

内藤医師:2025年3月に、日本で開発された造血器腫瘍向けのがん遺伝子パネル検査「ヘムサイト」が保険適用となりました。当院はがんゲノム医療連携病院として、2025年秋に1例目の検査を実施しています。ヘムサイトの導入により、個別化治療が実現し、より精密で効果的ながん治療が期待されます。

川上医師:ヘムサイトは小児でも保険収載されましたが、現在はパネル検査の結果を評価するためのエキスパートパネルの体制を整備している段階です。従って当院での小児への実施はこれからとなりますが、今後の体制が整えば、小児血液がん診療にも大きな可能性が広がると考えています。

他科と連携した包括的な血友病治療を実践

内藤医師:当院は「血友病診療連携地域中核病院」に指定されています。これまで静岡県では、血友病の患者さんが成人になっても小児専門の医療機関に通院するケースが多くありました。近年は静岡県内の小児科と血液内科がカンファレンスや研究会を通じて情報共有を進め、小児科から血液内科へ引き継ぐようにしています。ただ、小児科と血液内科では病院が変更となることも多いです。当院では小児科で血友病の診療を行うようになったため、同じ施設内で小児科から血液内科へスムーズに移行できます。

川上医師:血友病の治療薬は高額で、取り扱っている医療機関が限られています。当院では小児科と血液内科が連携し、継続的に診療・投薬できる体制を整えています。静岡県内で小児血友病診療の中心的役割を担う静岡県立こども病院とも密に連携をしています。

内藤医師:最近では、エミシズマブをはじめとする非因子製剤(ノンファクター製剤)が登場してきています。従来の血友病治療は、不足している凝固因子を定期的に補充する方法が主流でしたが、エミシズマブは第Ⅷ因子そのものではなく、その活性を代替する抗体医薬品です。活性型第Ⅸ因子および第Ⅹ因子に結合し、長時間にわたり安定した止血効果を発揮します。

川上医師:以前は2日に1回、患者さんは受診するか自宅で凝固因子製剤を静注する必要がありましたが、患者さんにとっても医療者にとっても頻回の穿刺は大きな負担でした。エミシズマブは半減期が長く、1〜2週間に1回の皮下注射で治療が可能です。すべての患者さんに適するわけではありませんが、治療の選択肢が広がったことは大きな進歩です。血友病の治療には歯科口腔外科や整形外科、リハビリテーション技術科など他科の専門的な知識も欠かせません。当院では多職種・他科が連携し、手術時の補充計画から在宅自己注射の指導まで、包括的なサポートを行っています。

小児と成人、それぞれの特徴を踏まえた移行期医療の連携

川上医師:小児と成人では、白血病の特徴に違いがあります。成人では急性骨髄性白血病が最も多く、小児では急性リンパ性白血病が約70%、急性骨髄性白血病が約25%を占めています。また、同じ急性骨髄性白血病や急性リンパ性白血病でも、遺伝子変異の種類の頻度が異なっており、治療の効きやすさに影響している可能性があります。
また、患者さんで比較してみると、小児は成人に比べて高血圧や腎疾患などの合併症の頻度が少ないため、比較的強い抗がん剤治療が可能です。一方で、成長・発達の途上であるため発達遅滞や成長障害、不妊などの副作用を来す可能性の高い治療法に対しては、成人よりも慎重な対応が求められます。加えて、治療後も50年以上の長い人生がありますので、二次がんなどにも注意しなければなりません。とはいえ、他の疾患と比較すると血液疾患として基本的な概念や病態は共通しているため、小児と成人で連携しやすい分野だと感じています。

内藤医師:急性リンパ性白血病で成人の治療成績が小児よりも劣るのは、白血病細胞の生物学的な特徴が異なることに加え、治療法の違いも関係しています。通常、高校生の治療は内科で対応することが多いですが、当院では高校生の急性リンパ性白血病患者さんを小児科で治療するケースもあります。血液内科でも、小児科で用いられている抗がん剤の治療計画書(レジメン)を活用し、急性白血病の治療に応用しています。

川上医師:AYA世代(Adolescent and Young Adult:思春期・若年成人)は、小児や成人に比べて臨床データがまだ十分に蓄積されていません。近年の研究で、AYA世代の白血病は腫瘍細胞の性質や遺伝子変異が小児とも成人とも異なることが分かってきました。今後、臨床試験の積み重ねによって、より適した治療法の確立が期待されます。

内藤医師:当院では、小児期に診断・治療された血液疾患に対して、成人後も切れ目なく治療・フォローアップを行っています。また、AYA世代の患者さんで小さなお子さんがいる場合には、小児科医と連携し、子どもへの説明やサポートにも取り組んでいます。小児科医が同席して病状説明を行い、親としてどのように伝えるかを一緒に考える、こうした連携ができるのは、当院ならではの強みです。

専門性の高い診療体制で、地域の血液医療を支える

内藤医師:当院は浜松医科大学医学部附属病院と連携し、静岡県西部地区における血液疾患診療の中核病院として機能しています。
浜松医療センター血液内科には、私を含めて日本造血・免疫細胞療法学会認定医、日本輸血・細胞治療学会認定医、日本血液学会血液専門医など、血液分野の専門資格を有する医師が複数在籍しています。スタッフ全員が日本内科学会内科専門医・総合内科専門医でもあり、高度な知識と経験に基づいた診療を提供しています。

小児から成人まで、連携の力で血液疾患に挑む

川上医師:小児科にも日本小児科学会認定の小児科専門医が複数在籍しています。私自身は日本血液学会の血液専門医に加え、日本がん治療認定医機構認定医、日本小児血液・がん学会小児血液・がん専門医の資格を取得しています。
現在、静岡県内で小児血液がんを専門とする医師が複数在籍し、小児白血病の診断と治療が可能な施設は、当院を含め3施設です。地域の患者さんが安心して治療を受けられる体制を今後も整えていきます。

地域とともに、血液疾患の患者さんとご家族を支える

川上医師:血液疾患は、疑いの段階で専門機関にご紹介いただくのが一般的です。典型的なケースとしては、発熱を繰り返して血液検査を行った際に白血球の異常値が見つかる、あるいは貧血による顔色の悪さから紹介されることが多いです。初発症状は感染や発熱が中心で、関節の痛みを訴えて整形外科を受診し、経過観察の中で検査を行い白血病が判明する場合もあります。
小児の白血病は、成人の固形がんのように「発見の遅れ」で治りにくくなるケースはまれで、むしろ治療薬の効果などが予後に影響します。治療中は発熱時の対応を明確にしているため、地域の先生方が診る機会は少ないかもしれませんが、何かあった際には当科で対応します。

内藤医師:成人の場合は、健康診断やかかりつけ医での定期的な検査により、比較的早期に血液疾患が見つかることもあります。また、治療中あるいは治療を終えた患者さんが地域のクリニックを受診された際、血球減少などで対応が難しいときは、迅速に受け入れるようにしています。

川上医師:小児の白血病と診断されると、ご家族の受ける衝撃は非常に大きいものです。以前は「治らない病気」という印象がありましたが、今では多くの患者さんが治癒へと向かっています。
私たちは「治療は大変だけど、頑張る価値のある病気だよ」と伝え、保護者だけでなく患者さん自身にも年齢相応のことばで、病気についてしっかり説明します。ご本人とご家族の心に寄り添いながら、一人でも多くの命を救うために日々診療にあたっています。地域の先生方には、血液疾患を疑われた際に、ぜひ早めにご紹介いただければと思います。

内藤医師:当院では、抗がん剤治療から造血幹細胞移植まで、同一施設内で切れ目なく対応できる体制を整えています。白血病や悪性リンパ腫、多発性骨髄腫は、いまや「治癒」や「長期生存」を目指せる病気となりました。多くの患者さんが元気に退院し、社会復帰されています。かつては救えなかった命を助けられるようになったことは、私たちにとって何よりの喜びであり、これからも力を尽くしてまいります。

小児から成人まで、連携の力で血液疾患に挑む

浜松医療センター

静岡県西部地区を診療圏とする高度総合医療機関であり、地域医療支援病院、災害拠点病院、地域がん診療連携拠点病院、地域周産母子医療センター、アレルギー疾患医療拠点病院、日本脳卒中学会一次脳卒中センター、そしてゲノム医療連携病院の責を担っている。

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