一人ひとりに向き合う、精密でやさしい放射線治療
大阪府済生会中津病院は、大阪府がん診療拠点病院に指定され、日本医学放射線学会の認定施設(放射線科専門医総合修練施設)、日本放射線腫瘍学会の認定施設にも位置づけられています。
2023年9月には新たにリニアック(直線加速器)を更新導入し、高精度かつ短時間での治療を実現。放射線治療科と放射線技術部の密な連携により、患者さんに質の高い放射線治療を提供しています。
多職種が連携し、診断から治療まで一貫した体制を実現
岡崎医師:放射線治療科は、総合病院の一部門としての特長を活かし、院内の各診療科と密に連携しながらがん治療にあたっています。当院には血液内科・神経内科・腎臓内科といった特殊診療科も備わっており、がん治療に伴う状況にも院内で迅速に対応できるのが強みです。患者さんにとっての安心だけでなく、地域の先生方にとっても信頼して患者さんをお任せいただける体制です。
地域の先生方からがんの可能性がある患者さんをご紹介いただいた場合、まずは適切な診療科で診断を進め、放射線治療が適応となる際には当科が中心となって治療を担当します。
放射線治療は外来通院を基本としていますが、通院が難しい患者さんには他科の協力を得て入院での放射線治療も可能です。診療は常勤の放射線治療専門医で行い、常勤医が毎日外来を担当することで、治療中の体調変化にも迅速に対応できます。
また、当院は梅田という交通利便性の高い立地にあり、就業前後や休憩時間を利用した通院も可能です。大阪市内はもちろん、近隣府県からもアクセスがしやすく、継続的に治療を受けやすい環境を備えています。
河野部長:放射線治療技術部は、放射線治療に特化した独立組織であり、医学物理士や放射線治療品質管理士が加わることで、安全性と品質保証を高いレベルで担保しています。毎日の位置合わせや照射は常に2名以上の診療放射線技師が担当し、わずかなズレも見逃さない体制を徹底することで、精度と安心感を両立しています。
また、独立組織であることでスタッフの異動が少なく、長期間にわたって通院される患者さんにとっては、顔なじみのスタッフが変わらず対応できることが安心につながります。さらに専従の看護師や女性スタッフも在籍し、患者さん一人ひとりに寄り添った細やかな対応を心がけています。治療技術の精度と、人に寄り添う温かさの両方を大切にすることが、放射線治療技術部の使命だと考えています。

位置合わせの様子
進化する放射線治療技術で、より短期間・高精度に
岡崎医師:二次元計画の時代に比べ、CTに基づく三次元照射と装置の進歩で副作用は大きく減りました。近年はリニアック(直線加速器)の性能が大きく向上し、体外からがん細胞を狙って高エネルギーのX線や電子線を正確に照射できるようになっています。当院でも定位放射線治療(SRT)、強度変調放射線治療(IMRT)、そしてその応用であるVMATといった最新の技術を用いた治療を行っています。
SRTは5cm以下の小さな腫瘍に対して大線量を多方向から一度に集中して照射する方法で、短期間で治療を終えることが可能です。IMRTやVMATは腫瘍に十分な線量を届けながら周囲の正常組織の被曝を抑えられるのが特長です。がん治療では治療期間が長引くと腫瘍細胞が増えて効果が下がる「加速再増殖」という現象が知られていますが、こうした新しい照射法では短期間で高い治療効果を得られることが期待できます。
また、当院ではPETセンターを併設しており、腫瘍の局在だけでなく悪性度まで含めた詳細な評価が可能です。病期診断から治療後の経過観察まで幅広く役立ち、放射線治療の適応をより的確に判断する上で大きな役割を果たしています。
患者さんにやさしい高精度ポジショニング
岡崎医師:放射線を正確に照射するためには、治療ごとにミリ単位で位置を確認する必要があります。従来は体表に線を描いてズレをチェックしていましたが、現在では画像誘導放射線治療(IGRT:Image Guided Radiotherapy)によって治療直前に画像を撮影し、腫瘍の位置を正確に把握してから治療を行っています。さらに当院では光学式患者ポジショニングシステムを導入し、高解像度カメラで皮膚をスキャンして三次元的に位置合わせを行えるようになりました。治療中の体の動きも検知できるため、より安全性の高い治療が可能です。
河野部長:光学式患者ポジショニングシステムを導入したことで、皮膚に直接マーカー線を描く必要がなくなり、患者さんの精神的負担が減りました。旅行先で入浴時に線を気にされる方や、副作用による皮膚の乾燥で薬を塗るたびに線が消えるのを心配される方もいましたが、そうした心配が不要になったことは大きな利点です。

副作用を抑え、患者さんの負担を減らす工夫
岡崎医師:近年は、心臓や肺といった重要臓器に当たる放射線の線量を抑える工夫が進んでいます。乳がん治療で用いられる「深吸気息止め(DIBH:Deep Inspiration Breath Hold)」はその一つです。左側の乳房を照射する際、心臓に放射線があたると冠動脈に影響して心筋虚血のリスクが将来的に高まります。深く息を吸って止めると胸郭が広がり、乳房と心臓の距離が離れるため、心臓を守りながら放射線を照射できます。こうした技術は少しずつ普及し、長期的な副作用の軽減に役立っています。
さらに、COVID-19流行下では放射線治療を中断せざるを得ない場面もありました。その経験から「寡分割照射」という治療法が世界的に一般化しました。これは1回あたりの線量を増やし、従来25回必要だった乳がん治療を16回に短縮するなど、治療回数や期間を減らす方法です。短期間で腫瘍を制御することが可能となり、また近年の研究では副作用の点でも25回照射との比較で同等かむしろ軽度であると報告されています。当院ではIMRTの技術を駆使して線量を細かく調整することで正常組織への影響を抑え、安全性と効果の両立を実現しています。
技師が支える放射線治療の精度と安全
河野部長:診療放射線技師は、治療の準備から実際の照射、さらに装置の管理までを担い、放射線治療の精度と安全性を支える役割を果たしています。医師が立てた治療計画を基に、患者さん一人ひとりに適した条件で治療を行えるよう準備を整え、照射を正確に実施するのが私たちの仕事です。放射線はわずかな誤差でも効果や副作用に影響するため、常に緻密で丁寧な作業が求められます。
治療前には必ず「検証作業」を行い、計画通りに安全な照射が可能かを確認します。具体的には、コンピュータで算出した条件をファントム(人体モデル)に照射し、線量や照射範囲を丁寧に評価します。こうした検証を積み重ねることで装置の性能を保証し、患者さんに安心して治療を受けていただける体制を整えています。
さらに、装置が常に正確に稼働できるよう、空き時間や土曜日を利用した定期的な保守・点検も欠かしません。放射線治療は進歩のスピードが速いため、学会や勉強会への参加を通じて知識や技術を磨き続けることも大切にしています。
こうした日々の取り組みを積み重ね、患者さんに安心して治療に臨んでいただけ、地域の先生方にも「中津病院なら信頼して任せられる」と感じていただける体制の維持に努めています。
苦痛を和らげる緩和的放射線治療
岡崎医師:当院では、がんに伴う症状を軽減するための緩和的放射線治療にも積極的に取り組んでいます。例えば、骨転移による強い痛み、胃がんからの出血、神経が圧迫されて起こるしびれや麻痺など、患者さんの日常生活に大きな影響を与える症状に対して、放射線照射は有効です。根治を目指す治療が難しい場合でも、苦痛を和らげ進行をある程度抑えることで、生活の質を高めることができます。
頭部転移による頭痛や吐き気などの神経症状、皮膚転移に伴う体液や臭いといった苦痛にも放射線治療は効果を発揮します。さらに、肺がんをはじめとする悪性腫瘍で見られるSVC症候群(上大静脈症候群)に対しても有効です。
当院では、必要に応じて抗がん剤を併用する化学放射線療法も行い、院内の各診療科と協力しながら治療にあたっています。
河野部長:緩和的放射線治療は、一般の方にはまだあまり知られていませんが、症状を和らげる大きな力を持っています。すでに他の治療の選択肢が残っていない場合でも、患者さんの苦痛を軽減できる可能性があります。緩和的放射線治療が患者さんの生活を支える一助になることをより多くの方に知っていただければと思います。
がん患者さんに向き合う放射線治療のやりがい
岡崎医師:放射線科医にはパソコンやカメラに親しみを持つ人が多く、私自身も写真が趣味で、この分野に自然と惹かれたのだと思います。放射線科には診断と治療の二つの領域がありますが、医師として患者さんの治療に直接携わりたいという思いから、全身を対象に診られる放射線治療科を選びました。
がん治療においては、治療成績の向上が最大の使命です。そのため、自施設の成績を客観的に検証する研究活動を大切にしています。論文執筆や学会発表を継続することで成果を日常臨床に還元し、より確かな治療を提供できるよう努めています。近年は国際化に伴い、日本語が母語でない患者さんの受診も増えています。安心して治療を受けていただけるように、自らも英語を学び、患者さんとの円滑なコミュニケーションを目指しています。
河野部長:放射線治療は長期にわたることが多く、患者さんと日々接する中で自然に信頼関係が生まれます。その積み重ねが患者さんの安心につながることに、大きなやりがいを感じています。私は人とのつながりを大切にしており、この仕事を選んだ理由もそこにあります。学生にもよく話していますが、診療放射線技師が治療そのものに直接携われるのは放射線治療部門だけです。医師の指示のもとで患者さんの治療を支えることは、責任と同時に誇りでもあります。
治療は毎日同じ部位に同じ線量を照射するため、わずかな体勢の違いが負担になる患者さんも少なくありません。できるだけ苦痛を軽減できるよう、声かけや世間話で気持ちを和らげ、安心して通っていただけるよう努めています。
一人ひとりの患者さんに寄り添った放射線治療を
岡崎医師:がんに対する放射線治療は、ガイドラインに則った標準治療を基本としていますが、腫瘍に与える線量や周囲の正常組織をどの程度守るかといった細部は、症例ごとに異なり、医師の判断が重要になります。近年は高精度な治療が可能となり、選択肢が増えたことで、放射線治療医の裁量がより大きな意味を持つようになりました。私は日常臨床で「治療が画一的にならないこと」を意識し、それぞれの症例において最も効果が期待できる方法を常に模索しています。
がん治療は単に腫瘍を治すだけでなく、患者さんの日常生活や人生観にも深く関わります。そのため、医学的根拠に基づいた標準治療を提供するだけでなく、一人ひとりの価値観を尊重し、個別化した治療を実現することを自らの課題としています。
地域の先生方には、がんが疑われる段階からどうぞ安心して患者さんをご紹介いただきたいと思います。当院では各診療科と放射線治療科が連携し、診断から治療まで迅速に対応できる体制を整えています。
ひとりでも多くのがん患者さんを救うため、地域の医療機関の先生方と力を合わせながら、今後も質の高い医療を提供してまいります。
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大阪府済生会中津病院
"思いやりと活力に満ちた病院"をスローガンに、地域の中核病院として総合的な、きれ目のない「医療・看護・介護サービス」を提供。 2016年には創立100周年を迎えた。
所在地
大阪府大阪市北区芝田二丁目10番39号
病床数
570床
URL
https://www.nakatsu.saiseikai.or.jp/