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地域と連携しながら、腎疾患の早期発見と長期管理を支える

Doctor's interview

Nephrology

東京医科大学病院
腎臓内科

地域と連携しながら、
腎疾患の早期発見と長期管理を支える

慢性腎臓病(CKD)やIgA腎症といった経過の長い腎疾患に対し、地域医療機関と連携しながら「2人主治医制」で診療を行う東京医科大学病院腎臓内科。主任教授の菅野義彦先生と、IgA腎症を専門とする森山能仁先生に、腎疾患の診療の現状や専門医への紹介のタイミング、そして今後の展望についてお話を伺いました。



専門医と地域医療が連携する「2人主治医制」の重要性

菅野医師:私が腎臓内科主任教授に就任して12年になります。着任当時は、ちょうど慢性腎臓病(CKD)の概念が広まり始め、治療の重要性が認識されるようになった時期でした。それ以前は、一般医家の先生方が検査をされて、多少数値に異常があっても「しばらく様子を見ましょう」で終わることが多かったと思います。

腎疾患は基本的に自覚症状が乏しく、患者さんが病院を受診するきっかけを持ちにくい病気です。健診で血清クレアチニンの微妙な変化が見られても、見逃されてしまうことが少なくありません。たとえば「1.0から1.1」への変化は、一般には大きな問題と思われないかもしれませんが、専門医の目から見ると重要な兆候のこともあります。私たち腎臓内科医は、そうした微細な変化を見逃さず、必要な症例には長期的な視点で診療を行っています。

IgA腎症をはじめ、若年層の腎疾患に も長く寄り添う診療体制を

森山医師:私の専門は慢性糸球体腎炎、とくにIgA腎症です。この疾患は30代前後の若年層に多く、早期の段階で正確な診断と丁寧なフォローが非常に重要です。

私が外来で診ている患者さんの中には、学生時代に当科を受診し、その後、就職、結婚、出産を経て今も通い続けている方がいます。腎疾患はライフイベントとともに変化していくため、医療者側も長期的な視点で支える姿勢が求められます。私は「30年、40年先も見据えた医療」を意識しながら、患者さんに寄り添う診療を心がけています。

地域と連携しながら、腎疾患の早期発見と長期管理を支える

「たんぱく尿±でも紹介していい」―早期の連携が鍵―

菅野医師:医師会の講演やセミナーなどで、「たんぱく尿がプラスマイナス程度の患者さんを大学病院に紹介してもいいのか」とよく質問を受けます。私は常に、「ぜひ紹介してください」とお伝えしています。

10人の紹介があっても、7〜8人はそのまま経過観察で問題ないかもしれません。しかし残りの2〜3人の中には、早期に発見して治療につなげるべき患者さんがいます。腎臓病は、気づいた時にはかなり進行しているケースが多く、進行すれば元の状態には戻せません。腎機能が徐々に低下し、「100人で担いでいたお神輿を80人で担ぐ」ように負担が増し、やがて破綻してしまう。そんなイメージです。日本で最も専門医が多いこの地域では「気になったら専門医へ」という意識を地域の先生方と共有してきたと考えています。

地域と連携しながら、腎疾患の早期発見と長期管理を支える

腎疾患治療の進歩と、大学病院としての取り組み

森山医師:腎臓内科領域の治療はここ数年で大きく進歩しています。従来はステロイド中心の治療が主流でしたが、最近では疾患のメカニズムに基づいた生物学的製剤などが登場し、選択肢が広がっています。

糖尿病治療薬であるSGLT2阻害薬も、腎機能の低下を防ぐ効果があると分かり、CKD治療にも使われるようになりました。IgA腎症に関しても、B細胞によるIgA抗体産生のメカニズムが明らかになりつつあり、将来的には4段階の病期に対応した治療薬の登場が期待されています。当院でも治験に積極的に取り組み、新たな治療の開発に貢献しています。

研究と臨床をつなぐ「クリニカルクエスチョン」の姿勢

菅野医師:私は、必要のないたんぱく制限は行わないという立場を、臨床と研究の両面から発信してきました。高齢の患者さんに無理な食事制限を課すと、サルコペニアを引き起こす可能性もあります。患者さんの年齢や背景を見極め、適切な栄養管理を行うことが大切です。

森山医師:私はアメリカで腎疾患の基礎研究に取り組んできました。現在も、アルブミン尿を減らす治療法に関する研究を継続しています。当科では「臨床で感じた疑問を研究に還元する」姿勢、すなわちクリニカルクエスチョンを大切にしています。これからも若手医師と一緒に、実臨床に根ざした研究を積み重ねていきたいと考えています。

患者さんの人生に寄り添う診療を地域とともに

森山医師:腎臓内科は、患者さんの人生に長く寄り添う診療科です。IgA腎症のように若くして発症する疾患では、10年、20年先を見越して、適切なタイミングで治療を進めていく必要があります。血圧や体重の変化だけでなく、睡眠や仕事の状況も確認しながら、腎臓に負担のかからない生活を提案しています。

菅野医師:腎臓病療養指導士の制度が整備され、看護師や管理栄養士、薬剤師がチームとなって患者さんを支える体制ができてきました。高齢化が進む中、併存症を考慮しながら薬剤調整を行うことも重要です。他科で腎疾患が疑われる場合も、当科が柔軟に対応いたします。

専門医と地域医療の連携が未来の腎臓医療を変える

菅野医師:当院では地域の内科の先生方との連携が進み、紹介いただく患者さんが増えてきました。今後は整形外科や耳鼻科など、腎疾患が隠れている可能性のある他科とも連携を強めていきたいと考えています。

森山医師:血尿や尿たんぱくといった尿所見異常は見落とされがちですが、腎疾患の重要な指標です。早期に発見し治療を行えば、予後も良好になります。私たちも講演会などの場で、地域の先生方と情報を共有していきたいと思っています。

菅野医師:腎臓病は長い経過をたどる疾患です。だからこそ、私たちは大学病院としての専門性を活かしつつ、地域の先生方と“2人主治医制”で、患者さんの人生を支えていきたいと考えています。どうぞお気軽にご相談・ご紹介いただければ幸いです。

東京医科大学病院

東京医科大学病院は新宿副都心に位置する「特定機能病院」であり、都区西部「地域がん診療連携拠点病院」に指定されています。

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