Doctor's interview
HIDEYUKI
MATSUMOTO
三井記念病院
脳神経内科 部長
患者さんファーストで挑む
パーキンソン病治療
三井記念病院脳神経内科では、パーキンソン病の治療に力を入れています。正しい診断のもと、一人ひとりの状態に合わせて薬の量を丁寧に調整し、日常生活をサポートします。さらに、運動習慣をつけることによって進行を抑えるリハビリテーション入院も開始しました。多職種の専門スタッフが、リハビリから福祉サービスの利用まで丁寧にサポートし、患者さんの「その人らしい生活」をチームで支えています。
長年にわたって患者さんファーストの診療を実践してきた、脳神経内科 松本英之部長にお話を伺いました。
高齢化とともに増えるパーキンソン病とは
パーキンソン病は1000人に1人の有病率で、60歳以上の約100人に1人が発症するとされ、高齢化社会とともに患者数の増加が見込まれています。パーキンソン病の4大症状は、安静時の手足の震え(安静時振戦)、筋肉のこわばり(筋強剛)、動作が鈍くなる(動作緩慢)、バランスが取りづらい(姿勢反射障害)です。
これらの運動症状に加え、便秘や頻尿、起立性低血圧、発汗異常といった自律神経のトラブル、さらにはうつ症状や認知症などの非運動症状もみられます。前傾前屈の姿勢のほか、表情が乏しくなる仮面様顔貌、嗅覚障害、睡眠障害も特徴的です。睡眠障害では、不眠や過眠に加え、寝ている間に夢のとおりに体を動かしたり、叫んだりするレム睡眠行動異常症もみられます。不快な感覚が出て足を動かしてしまう、むずむず脚症候群も非運動症状の一つです。このような日常生活に影響する症状が多彩にあらわれます。
パーキンソン病の4大症状
原因はドーパミンの不足とレビー小体の蓄積
パーキンソン病の大きな原因のひとつが、運動の調整に関わる神経伝達物質「ドーパミン」の減少です。脳内でドーパミンを作る神経細胞が減ることで、身体の動きが思うようにコントロールできなくなります。
また、もう一つの特徴が「レビー小体」という異常なたんぱく質の蓄積です。脳だけではなく、腸や皮膚などにある神経にも影響を及ぼし、多彩な症状の引き金になります。加齢が最大のリスク要因ですが、10代~40代で発症する若年型の患者さんの中には、遺伝子変異が関与する例もあります。
入院による精密検査で、正しい診断を
当院では、正しく診断することを目的に、外来ではなく入院による検査を原則としています。医師の診察に加え、ドーパミンの放出を確認する核医学検査が必要です。また、パーキンソン病の治療薬が効くか否かが診断に重要であり、治療薬の効果の確認などを経て、複数の専門医によるカンファレンスを通じて診断します。
パーキンソン病の進行は、主にホーン・ヤールの重症度分類で判断します。重症度分類でⅠ度は片方の手足のみ、Ⅱ度は両手足の症状です。Ⅲ度では姿勢反射障害が加わり、Ⅳ度は日常生活に部分的な介助が必要な状態、Ⅴ度は車椅子での生活や寝たきりの段階です。
多くの方は手足の震えがある、転びやすくなったと気づき、受診されます。初期には肩や首、腰、膝が悪いのかと思い整形外科を受診される方も多く、早期に正しい診断へつなげることが重要です。
薬物治療は“投与量のコントロール”がカギ
治療の中心は、約60年の歴史がある「レボドパ製剤」による薬物療法です。しかし、薬を多く使いすぎると効き目が急に切れる「ウェアリング・オフ」や体が勝手に動く「ジスキネジア」といった、やっかいな副作用が起こりやすくなります。そこで当院では、できるだけレボドパ製剤を少なく抑えつつ、しっかりと効果が得られるよう、補助薬を組み合わせながらバランスを取る治療を行っています。
さらに、薬物治療のみならず、リハビリテーションも重要です。毎日の散歩、体操、ストレッチなどで、運動機能の維持を図ります。薬が効きにくくなった場合は、専門機関と連携し、脳深部刺激療法や集束超音波療法、レボドパ経腸持続投与(LCIG療法)といった手術療法も選択肢となります。主に発症年齢が若く、薬物での治療が難しい患者さんが対象です。当科では手術が必要な方に、大学病院をはじめ専門の医療機関をご紹介しています。
リハビリテーション入院で、進行を“自分で”抑える
運動習慣をつけることで、パーキンソン病の進行が抑えられるという研究成果を受け、当院でも2024年からリハビリテーション入院をはじめました。もともと運動習慣がある方は発症しにくいとされますが、病気を発症してからでもリハビリで進行を抑えられます。薬物治療と異なり、副作用がないという大きな利点があります。リハビリ指導を2週間受けていただくことで、運動習慣が身につくことが最大の目標です。
このため、患者さんを中心として、脳神経内科医、看護師、リハビリテーション部(理学療法士や作業療法士、言語聴覚士)、薬剤師、放射線診断科、管理栄養士、医療ソーシャルワーカー、地域連携室などの多職種によるチーム医療を実践しています。
リハビリテーションの実施、指導のみならず、教育、現状把握、薬剤調整、栄養指導、指定難病や介護保険、身体障害者手帳などの社会福祉導入も実施しています。
実際、リハビリ入院を受けられた約7割の患者さんで、運動習慣が改善しています。「家でも目標通り続けられた」、「ジム通いが習慣になった」という声も届いています。
一方で、運動習慣が改善しなかった患者さんは、重度であったり、認知機能低下を合併していたりする特徴がありました。そのため、重症度分類でⅠ度からⅢ度までの患者さんが良い入院適応と考えています。
また、教育資材を用意しておりますので、病気の理解が深まるのも利点といえるでしょう。リハビリの効果を引き出すには、ご本人の意欲が何より大切です。私たちは、患者さんが病気の理解を深め、自らの意思でリハビリに取り組めるよう、サポートしていきます。
臨床と研究を通し、脳神経内科の進歩を実感
私は2001年に筑波大学医学専門学群を卒業して、臨床医としての研鑽を重ね、2010年に東京大学で脳神経医学を専攻して医学博士号を取得しました。
脳神経内科は脳の病気を診る診療科で、私が研修医になった頃はまだ解明されていない病気が大半で、治療が難しい分野でした。脳は他の臓器に比べて複雑で、部位毎に様々な機能があります。脳の病気を治せる医師になりたいと思い、脳神経内科の道を歩みました。
私の研究における専門は磁気刺激法(TMS)です。TMSは、磁場を使って脳を刺激し、病気を診断する方法です。頭にコイルを当てて電流を流すと、脳が刺激されて手足が動くので、筋電図で時間を測ると、脳のどこに病気があるのか分かります。TMSは痛みがなく客観的な診断ができるのがメリットです。私の研究はTMSを発展させ、筋萎縮性側索硬化症(ALS)やギラン・バレー症候群、慢性炎症性脱髄性多発神経炎(CIDP)といった神経難病を診断するのに役立っています。
脳神経内科はこの10年で大きく進歩し、不治の病を治せるようになってきました。高齢化が進む今、脳神経内科はますます重要性を増していると感じています。
患者さんファーストで、救急医療にも対応したい
近年、働き方改革を含む様々な要因により、脳卒中を中心とする救急医療に対応できる急性期病院が減っています。私たちは脳神経外科や様々な診療科と協力し、今後も積極的に神経救急を必要とする患者さんを受け入れていきたいと考えています。
私の信条は「患者さんファースト」です。専門的な治療と365日体制の診療を通じて、患者さん一人ひとりの人生に寄り添うことを目標としてきました。この信条を貫きながら、パーキンソン病を中心とする神経難病のみならず、脳卒中を中心とする神経救急にも対応し、多くの方に安心と希望を届けて、社会貢献をしたいと考えています。
三井記念病院
地域の医院・病院と相互補完的に協力し合いながら、患者さんにとってより良い医療を提供することをモットーに高度医療を展開。 2016年から国際的な医療機能評価機構であるJCI(Joint Commission International)認定を受けている。
所在地
東京都千代田区神田和泉町1番地
病床数
482床/ICU 7床・CICU6床・HCU21床
URL
https://www.mitsuihosp.or.jp/