Doctor's interview
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DIALOGUE
東京医科大学病院 病院長/新宿区医師会 会長
東京医科大学病院と新宿区医師会が「地の縁」で医療連携
2024年6月、新宿区医師会で岡部富士子会長が就任し、同年9月に東京医科大学病院の山本謙吾病院長は2期を迎えました。東京医科大学病院は都心にある特定機能病院として、地域医療連携を大切にしています。コロナ禍を乗り越え、それぞれの課題に向き合いながら「地の縁」でつながりを強化していきます。
東京医科大学病院に新宿区から約1割の患者さんが来院
山本病院長:東京医科大学病院の運営状態は、2024年度(2024.4~2025.1)の初診患者数が25,014人で、そのうち紹介患者数は23,577人で、紹介率が82.6%となっています。逆紹介数は18,035人で57.5%です。紹介患者数、逆紹介患者数ともにコロナ禍以降、2021年から毎年増えています。私たちは患者さんをご紹介いただく先生方に感謝しており、今後は逆紹介を活発化させていきたいと考えております。
大学病院には全国から患者さんが来院されるイメージがありますが、2024年の1年間に東京医科大学病院を受診された65,507人の患者さんのうち、都内にお住まいの方は約8割、東京都の区西部医療圏(新宿区・中野区・杉並区)から来院される患者さんが約4割です。新宿区からは約1割の患者さんが来院しています。現在、当院の医療連携登録医になってくださっている新宿区の医療機関は143件です。当院の医療連携登録医は約1100件ですから1割以上が新宿区の先生方になり、新宿区医師会の先生方とは「地の縁」を感じております。
岡部会長:新宿区医師会は昭和22年に創設されて現在、A会員338名、B会員309名、C会員22名の合計669名の会員が所属しています。私は会長として、交流を深めて執行部が取り組んでいる内容を会員によく伝え、活動を推進したいと考えています。対外的には、区民が健康で安心して暮らせるように、地域の医療機関が大学病院と連携して専門知識を学び、質の高い医療を提供する手助けをする役割です。私たちは開業するまで病院で専門分野のみの臨床や研究に従事してきましたが、開業すると立場がまったく違うと実感しています。東京医科大学病院は、電話をしてもすぐにつながって診療予約やご相談をしやすく、感謝しています。
コロナ禍の1期を乗り越え、病院長として2期でよりよい体制づくりを
山本病院長:2021年に病院長の1期目に就任したときは、コロナ禍のピークでした。「今を乗り切り、次につなげていこう」を合言葉に、職員一丸となって対応しました。当院は、特定機能病院としての役割を果たすため、早い段階で手術室の正常運営、入院患者さんの新規受け入れを再開しています。
職員の努力のおかげで、コロナ禍の初期である2020年2〜4月は手術件数が極端に落ちましたが、夏には通常通りの手術体制に戻せました。病棟ではコロナ対策をしながら、一般の患者さんもほぼ満床の状態になっています。当初、当院は手術室を運営するための麻酔科医が不足していました。各診療科からのサポートや外部から麻酔科医の派遣を依頼して、通常通り必要な手術に対応できる体制に整えました。病院機能評価の更新や適時調査といった外部評価も、病院運営の正常性を維持するのに役立ちました。
今後の抱負としては、危機管理を積極的に行う方針です。サイバーテロといった新しい脅威にも備えが必要でしょう。特に、当院は地域災害拠点中核病院として、区西部医療圏の災害拠点病院の取りまとめ役を担っています。例えば、大規模災害では東京都が指揮をとり、新宿区医師会の先生方に連携して活動していただけると伺っています。
岡部会長:どんな災害が起きても発生後72時間は、新宿区医師会が東京医科大学病院の門前に緊急避難所、救護所の設営をさせていただく計画があります。有事の際は東京医科大学病院と連携し、私たちが緊急性の高い重症の方の搬送や軽症の方の対応を受け持つ予定です。2025年12月から連携する体制を開始する準備をしています。
山本病院長:さらに、当院はリスクを最小限に抑える「患者安全」の文化を醸成し、患者さんを中心とする医療システムの構築を目指しています。特定機能病院として医療の質を保つため、厚労省が推奨する「クオリティ・インディケーター」を用いて、医療の質の定量的評価も積極的に行います。
多様性が高い新宿区の患者さんに合わせた地域医療で連携
岡部会長:新宿区は居住者の多様性が高い地域です。15〜64歳の人口が約70%で、全国平均より若年層の割合が高く、中高年層に単身者や未婚者が多いのが特徴です。65歳以上の人口は全国より少ない20%ですが、上昇傾向にあります。新宿区は若年層の健康診断とがん検診の受診率が都内で22番目に低く、受診率を上げるのが課題です。新宿区医師会区民健康センターで行っている区民の健診・がん検診の充実を目指しています。
一方で、65歳以上の高齢者の方は健康意識が高く、医療公開講座を開催すると多くの区民が参加します。行政からの予防に対する補助も活用して、予防医学を進める方針です。ワクチン接種やタバコの対策で公衆衛生も推進しています。先日も禁煙について考えるきっかけになればと考え、新宿区の区長さんに5/31の世界禁煙デーに合わせて区庁舎のライトアップなどを提案したところです。今後、団塊世代の高齢化に伴い、新宿区に住む高齢者の人口も増加が見込まれ、在宅診療、介護事業がますます求められるでしょう。新宿区医師会では、救急事業の擁立も考えています。
このほか、新型コロナウイルス感染症と同じように、突然起きると予測される災害に対して新宿区医師会の役割を検討しています。増え続けている外国人の医療問題への対策も必要です。多くの課題に向き合い、私たちは医師として一生勉強が必要だと感じています。東京医科大学病院の先生方と緊密に連携させていただき、専門知識を得て区民のために質の高い医療を提供したいと思います。
医療人として「ノブレス・オブリージュ」で困難に立ち向かう
山本病院長:私は「ノブレス・オブリージュ」という言葉をよく職員に伝えています。19世紀のフランスで恵まれた地位にある貴族が騎士道を背景に、いざ戦争になると先頭に立って逃げずに戦ったように、指導的立場にある者の社会的責任が本来の意味です。私自身、若い頃から心に留めてきましたが、病院長になってより強く意識しています。
病院長に就任した当初はコロナ禍でした。この数年で一般診療をしながら、1600人を越す中等症以上の新型コロナウイルス感染症の入院患者さんを受け入れました。医師をはじめ医療従事者は自分の利益を優先せず、困難に立ち向かい、社会の中で人を導くべき存在です。とりわけ特定機能病院では、全職員がノブレス・オブリージュを考えて行動してくださいと励ましました。当院のスタッフはしっかり受け止めてくれ、この数年のコロナ禍を乗り越えられました。これからも、患者さんファーストの信念が当然となる体制の確立を目指していきます。
「2040年問題」に備え、新しい時代の地域連携を
山本病院長:当院は、この地で100年以上の歴史があり、新宿区にある大学病院本院として特定機能病院の役割をはたすため、地域の先生方との連携を重視してきました。2023年からは「地縁」をキーワードに地域医療連携をさらに強化しています。地域の先生との「二人主治医制」も推進しています。
日本は、少子高齢化や人口減少による「2040年問題」への対応が今から必要です。厚労省は、特定機能病院のありかたについて「特定機能病院及び地域医療支援病院のあり方に関する検討会」で議論を進めています。15年後は、患者さんと医療を提供する者の両方が減ると想定されています。今後は、DX化やタスクシフトによる効率的な病院運営が求められるでしょう。私たちは地域医療に対し、地域に医師をはじめとするスタッフを派遣し、医療資源を共有するといった、時代にマッチする新しい形の連携で貢献したいと思います。
当院には大学病院として、医学生を含む医療人材の育成や研究開発によって、医学の進歩に貢献する役割もあります。臨床と教育・研究のバランスを意識して病院運営を安定させ、新宿区医師会の先生方と一緒に、地域に適した医療連携を考えていきたいと思います。
東京医科大学病院と新宿区医師会がさらに深くつながる
岡部会長:開業医の診療体制は年々、厳しくなっています。2024年の診療報酬改定では、プラス改定でしたが 人件費や物価、材料費、光熱費等が上昇し、薬価の引き下げもあり、結果は減収になっています。このような状況でも、臨床では抜けがないように必死で診療しています。東京医科大学病院が近くにあり、患者さんに何かあればすぐに連絡して診療をして頂き、経過のご報告を頂くことで私たちの勉強にもなり、大変ありがたいです。
私は、院外の活動で心の交流も大切にしています。新宿区が開催する「新宿シティハーフマラソン」では、新宿区医師会が救護班をしています。昨年と今年は、東京医科大学の先生方やスタッフの方30名ほどにメディカルランナーや定点救護で協力していただき、とても助かりました。また、新宿区医師会では会員の先生と白衣連というグループを作り、毎年7月にある神楽坂の阿波踊りに14年ほど参加しています。住民に何かあってもすぐ対応できるように、AEDを担いで踊ってもらう人もいます。
![]() 新宿シティハーフマラソン 救護班
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![]() 神楽坂 阿波踊りの様子
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山本病院長:岡部先生をはじめ新宿区医師会の先生方とは、いろいろな場でお会いして交流させていただいております。今日の対談をきっかけに、さらに連携を密にしていきたいと思っておりますので、どうぞよろしくお願いいたします。
岡部会長:東京医科大学病院の先生方には日頃、しっかり治療して返書もいただき、質の高い医療を教わっています。地域で開業する私たちには心強く、頼りにしています。今後ともよろしくご教授をお願いいたします。
東京医科大学病院
東京医科大学病院は新宿副都心に位置する「特定機能病院」であり、都区西部「地域がん診療連携拠点病院」に指定されています。
所在地
東京都新宿区西新宿6-7-1
病床数
904床(一般病床 885床、精神 19床)
URL
https://hospinfo.tokyo-med.ac.jp/