循環器内科と心臓血管外科が緊密に連携し、地域に高度な医療を提供
関東労災病院では、循環器内科と心臓血管外科が密に連携し、それぞれの患者さんに適した治療を行っています。循環器内科は、カテーテル治療をはじめとする高度な観血的治療に積極的に取り組み、心臓血管外科ではMICS(低侵襲心臓手術)やステントグラフト治療など、より負担の少ない治療法を推進しています。また、「断らない救急」を信条とし、365日24時間の救急対応を実施。地域の先生方との連携を大切にしながら、地域に根ざした医療の提供に努めています。
循環器内科が提供する高度なカテーテル治療
柴田医師:当院では、循環器内科と心臓血管外科が週に1回合同カンファレンスを開催し、緊急時には24時間体制で相談できる環境を整えています。また、外来ブースと病棟が同じスペースに配置されており、診療科をまたいだ連携がスムーズに行える点も大きな強みです。どちらの診療科にご紹介いただいても、密な連携のもとで適切な治療を提供いたします。
循環器内科では、狭心症や心筋梗塞などの虚血性心疾患に対するカテーテル治療を積極的に行っており、脳梗塞のリスクを低減するための血栓管理にも注力しています。また、不整脈に対するアブレーション治療にも力を入れ、高周波アブレーションカテーテルに加えてクライオ(冷凍バルーン)アブレーションを導入し、安全性の向上を図っています。
さらに、構造的心疾患(SHD)の治療にも取り組み、2024年には植え込み型除細動器(ICD)や両心室ペーシング機能付き植え込み型除細動器(CRT-D)による治療を開始しました。もし当院で扱いのない治療が必要な場合でも、大学病院をはじめとした適切な連携施設への紹介も行っています。
私たちは「断らない救急」を信条に、365日24時間、救急患者さんに対応しています。救急集中治療科と協力して、緊急カテーテル検査も受けています。急を要する場合は、医療連携室または循環器内科のホットラインまでご連絡ください。
ハイブリッド治療から低侵襲治療まで、幅広い心臓血管外科治療
田中医師:循環器内科がカテーテル治療をはじめとする観血的処置を担当する中、心臓血管外科では、冠動脈疾患、弁膜症、心臓腫瘍の手術を行っています。また、大動脈疾患(胸部・腹部大動脈瘤)、閉塞性動脈硬化症、急性動脈閉塞といった血管疾患にも対応し、急性大動脈解離や大動脈破裂、急性動脈閉塞、心血管外傷などの緊急手術も実施しています。
当院では、手術とカテーテル治療を組み合わせたハイブリッド治療にも対応しています。カテーテル治療のみでは病変が残る場合、心臓血管外科の手術と組み合わせます。ハイブリッド治療には専門的な施設と、熟練した心臓血管外科・循環器内科の医師のチームが不可欠です。
近年、心臓血管外科領域では低侵襲治療が進んでおり、当院でもMICS(Minimally Invasive Cardiac Surgery)やステントグラフト治療を積極的に取り入れています。従来の胸骨正中切開による手術に比べ、傷口が小さく、回復が早い点が大きなメリットです。MICSは、大動脈弁・僧帽弁の狭窄や閉鎖不全、心房中隔欠損、心房細動の患者さんに適用し、ステントグラフト治療は大動脈瘤や大動脈解離の患者さんに実施しています。また、下肢静脈瘤に対するレーザー治療も行っています。
先進的な経皮的冠動脈インターベンションから、心リハまで
柴田医師:当科では、経皮的冠動脈インターベンション(PCI:Percutaneous Coronary Intervention)を行っており、特に動脈硬化が進み石灰化した冠動脈に対する高度な治療にも対応しています。人工ダイヤモンドの粒子を備えた高速回転ドリルを使用する切削術や、衝撃波を用いた血管内砕石術など、最先端の技術を駆使しながら、安全性を最優先に治療を行っています。これらの特殊デバイスを用いた治療は、高度な技術と慎重な対応が求められるため、どの施設でも実施できるわけではありません。当院は、厳格な基準を満たした施設として認定を受けており、適切な診断のもと、ガイドラインに則った治療を提供しています。
また、心大血管疾患リハビリテーション(心リハ)にも積極的に取り組んでいます。かつては、心不全や心筋梗塞の患者さんに対し、長期間の安静を基本とする治療が行われていました。しかし、現在では、全身の循環を改善し、身体機能を維持することの重要性が科学的に証明されており、当院でも血流が再開した患者さんには、翌日から心リハを開始する方針を取っています。多職種と連携しながら、一人ひとりに適したリハビリを提供し、患者さんの回復をしっかりと支えていきます。
投薬を調整し、かかりつけの先生に寄り添った連携
柴田医師:慢性心不全の治療においては、「ファンタスティック・フォー」と称される4種類の治療薬(SGLT2阻害薬、アンジオテンシン受容体ネプリライシン阻害薬(ARNI)、β遮断薬、ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬(MRA))の早期導入が、患者さんの生命予後を改善し、心不全による入院を減少させることが世界的にも注目されています。
当院では、入院された患者さんの病状に応じて適切に薬剤を調整した上で、地域の先生方のもとに戻っていただく方針を取っています。特に、循環器専門のクリニックからご紹介いただいた患者さんについては、病状が安定した段階で極力かかりつけの先生に逆紹介できるよう努めています。一方で、循環器を専門とされていない先生のもとへ戻る患者さんについては、必要な薬剤の処方を行いながら、当院で1か月ごとのフォローアップを継続し、半年ほどかけて慎重に状態を見守ります。
また、心不全の悪化リスクが高い患者さんについては、当院の外来での診療を継続し、状態が安定した段階で適切な投薬内容をお伝えした上で、かかりつけ医の先生へ逆紹介を行っています。
田中医師:かかりつけ医が決まっていない患者さんについても、当院でご相談を承り、適切な専門クリニックをご紹介しています。紹介後も何か気になることがあれば、いつでもご連絡いただける体制を整えています。
少しでも疑わしい症状があれば、ためらわずにご紹介を
田中医師:心血管疾患は、心雑音や胸部レントゲン、CT、エコーなどの検査だけでなく、動悸や息切れ、浮腫といった一見すると些細な症状から発見されることもあります。例えば、発熱のみで風邪の典型的な症状が見られない場合、不明熱として感染性心内膜炎が疑われることもあります。また、原因不明の腹痛や突然の胸痛・背部痛がある場合には、心臓の疾患が背景にある可能性もあるため、少しでも気になる症状があれば、ぜひご紹介ください。
さらに、間欠性跛行(閉塞性動脈硬化症)、脚の冷感や色調変化(急性動脈閉塞)といった症状も、心血管系の疾患に関連しているケースがあります。診断がついていなくても問題ありませんので、「何かおかしい」と感じた際には、早めにご相談いただければと思います。
柴田医師:心疾患は、時に歯の痛みや息苦しさ、倦怠感として現れることもあり、診断が難しい場合も少なくありません。例えば、高血圧の管理が難しいと感じられるケースも多く見受けられます。当院では24時間血圧計を複数台備えており、詳細な血圧変動の把握が可能です。血圧管理や投薬内容に関するご相談も、ぜひお気軽にお寄せください。ご紹介いただいた際には、迅速に診断を行い、丁寧な返書をお送りすることで、先生方としっかり連携を取ってまいります。
また、当院の特徴の一つとして、予約制を設けず、緊急時にはいつでも診察を受けられる体制を整えています。例えば、血圧が急に高くなった場合など、当日でも受診可能ですので、気になる症例がありましたら、遠慮なくご紹介ください。
地域に根ざし、患者さんに寄り添う医療
田中医師:私は、心臓という生命に直結する臓器の治療に携わることに強い使命感を抱き、心臓外科医の道を志しました。治療技術が患者さんの予後を大きく左右する領域であり、技術を磨くことでより多くの患者さんを救いたいという思いが、私の原点です。心臓血管外科のある医療機関で研鑽を積み、現在は成人を対象とした治療に従事しています。特に、低侵襲治療であるMICS(小切開心臓手術)やステントグラフト治療に力を入れ、患者さんへの負担を抑える医療を実践しています。
柴田医師:私が循環器内科を専門としたのは、医学部6年生の頃、心電図の解析が難しく、もっと深く学びたいと思ったことがきっかけでした。現在、循環器内科の領域は急速に発展し、カテーテル治療をはじめとする高度な手技が求められる分野となっています。背景にあるのは、SHD(構造的心疾患)の治療の進歩です。たとえば、かつては心臓血管外科でしか治療できなかった大動脈弁狭窄症や僧帽弁閉鎖不全が、今ではカテーテルを用いて治療できるようになっています。当院でも、患者さんの状態に合わせ、より良い治療を提供できるよう努めています。
田中医師:当院では、地域の皆さまが身近な場所で安心して治療を受けられる環境づくりを大切にしています。インターネットの普及により、都市部の有名病院での治療を希望される患者さんも増えていますが、心臓疾患の治療後は長期的な経過観察が必要となるため、近くの病院で診療を受けられることには大きなメリットがあります。術後の経過は患者さんごとに異なり、安定している方もいれば、心不全の進行が見られるケースもあります。そのため、当院では循環器内科と緊密に連携し、術前から術後まで一貫した診療体制を整えています。
また、心臓や血管の疾患をお持ちの患者さんの多くは、もともと生活習慣病の治療を受けており、かかりつけの先生がいらっしゃいます。当院では、術後の経過が安定した段階で、患者さんには紹介元の先生のもとに戻っていただく方針をとっています。薬の調整が必要な場合は、循環器内科で一定期間フォローを行い、その後、かかりつけの先生にバトンタッチし、継続的な治療をお願いする形をとっています。また、術後のフォローアップとして、CTスキャンを含む定期検査を1年ごとに実施し、慎重に経過を見守ります。
柴田医師:これまでコロナ禍の影響で開催を見送っていましたが、今後は地域の先生方をお招きする勉強会やセミナーを再開し、より一層の連携を深めていきたいと考えています。地域の医療機関と手を取り合い、患者さんにとって最良の医療を提供するために尽力してまいりますので、どうぞお気軽にご相談ください。
関東労災病院
がん診療連携拠点病院でもある関東労災病院は川崎市中部地区の中核病院として24時間救急医療を実践し、地域医療連携にも力を注いでいる高度医療、二次救急を重視した急性期型の総合病院です。
所在地
神奈川県川崎市中原区木月住吉町1-1
病床数
610床
URL
https://kantoh.johas.go.jp/index.html