医療が変わる時代、より地域に開かれた病院づくりへ
大阪府済生会中津病院は、地域医療機関との協力体制を軸に、開かれた病院づくりに取り組んでいます。病院の体制・システムを整備し、地域医療機関に寄り添う連携を目指しています。
これからの時代の医療を見据え、よりよい地域連携の実現に向けて、今後の大阪府済生会中津病院が貢献できることを、志手淳也病院長と木島洋一地域連携・患者支援センター長にインタビューしました。
密な連携と入院受け入れの体制整備で、頼っていただきやすい病院に
志手院長:当院では、中核病院として地域の先生方からの患者さんの受け入れをさらに強化していく方針です。
大切にすべきことは、人と人の顔の見える地域連携だと考えています。今後も地域に開かれた病院づくりに取り組むために、開業医の先生方の声を大切にし、当院の医療提供体制の改善に活かしてまいります。
木島センター長:これまでも当院は地域連携の繋がりを大切にしてまいりました。病診連携講演会での発表での討論や情報交換会の場での交流で、地域の先生方のご意見やお困りごとなどをお伺いし、現場に反映していました。
しかしながらコロナ禍の影響により交流の機会が制約を受けてしまい、この数年直接お話をいただく機会が少なくなっておりました。今後は先生方との積極的な交流の機会を増やしてまいれたらと考えております。
志手院長:現在当院では、病床稼働率がコロナ前のレベルに回復していないのが現況です。原因のひとつに、コロナ禍において、入院時の面会や外出、外泊の制限、感染クラスター発生への懸念などから、入院に対するネガティブなイメージが生まれ、患者さん側の入院控えなどもあったと感じています。入院が必要な方には、安心して入院していただくことが大切です。
当院では2024年11月からは、面会や外出、外泊の制限を撤廃しました。入院が必要となる方に、抵抗なく入院いただける環境を改めて整備しています。
そして今後は、経過観察や生活指導などでも気軽に入院していただけるシステムづくりにも取り掛かっていきたいと考えています。熱中症くらいでは中津病院は入院させてくれないというようなお声を聞いたこともありますが、決してそのような方針ではありませんので、気軽にご相談をいただきたいと思っています。
木島センター長:病床稼働率低下のもう一つの要因として、コロナ禍で地域の先生方とのコミュニケーションの密度が下がってしまい、当院との距離が少し遠くなってしまったこともあるのではないかと感じています。地域連携・患者支援センターの役割として、開業医の先生方には当院の状況についてしっかり共有し、入院についてもご相談いただきやすい関係性をつくっていくことも大切であると考えています。
志手院長:今後は病院と地域の関わり自体が変化すると思っていますので、当院自体も変わっていく必要性を感じています。当院の医師にも、患者さんやご家族の気持ちを一番に考えて、今よりも思いやりを持った入院受入をして欲しいと伝えています。
とは言え、入院に関する同意書や入院診療計画書の作成といった事務的な手続きが、医師の負担になっていることも事実です。入退院時の手続きの煩雑さを合理化するシステムの変更や導入も考えており、スムーズに入院受入ができるような環境を、まずは病院の中から変えていきます。
木島センター長:入院後の地域の先生方との密な連絡も非常に重要だと捉えています。そのためなるべく早く診察結果を報告するように院内でも強く働きかけています。医師の業務負担も考慮しながら、ご紹介いただいた地域の先生方に退院サマリーや退院報告等を必ず送るよう周知しています。
お断りの状況を徹底把握し改善する
志手院長:2024年は、お断り件数の改善にも注力いたしました。地域の先生方からのご依頼に関しては、現場にもできるだけ断らないようにと強く方針を伝えています。
地域連携を介してのお断り事例は、内容を1週間単位でチェックし、しっかりと検討するようにしています。ただ断った医師を責めるのではなく、多くを受け入れて頂いた診療科には謝意も伝えるようにしています。
木島センター長:お断りの改善には、医師の意識はもちろんのこと病院全体の雰囲気も大きく影響すると感じています。当院では、院長が救急外来に出向き「今日も頑張ってください」、終わったら「頑張ってくれてありがとう」と毎日伝えています。こういった頑張りを認め感謝を伝えるのは、当たり前のことのようですが、忙しい日々の中毎日継続することは簡単ではないように思います。
困っていることには全員で取り組み、頑張っていることを全員で褒め合うような空気感が院内で醸成され始めていることが、お断りが少なくなってきたことにつながっているのだと思います。
志手院長:お断り事例を調査していく中で、手術室の枠がないという理由が多かったため、手術室の運営方法についての改善も進めています。緊急手術枠を確保できるよう、眼科用の手術室を新たに増設し、全手術に余裕を持たせられるように計画しています。
また、当直医がない診療科に関する夕方以降の受け入れについても今後の課題です。より体制を整備し、いざという時に頼っていただきやすい病院づくりを進めています。
地域連携の現状把握と、紹介元の利便性向上のためのシステムを導入
志手院長:当院では地域医療連携のCRM(顧客関係性マネジメント:Customer Relationship Management)と、紹介予約に関するWEB予約システムを導入いたしました。
地域とのさらなる連携を考えた時、まず現状を把握することが重要であると考え、CRMシステムを導入いたしました。データから現状としてどのようなことが起こっているのか、そして地域の先生方にどのような意向があるのかを捉え、訪問などの関係性づくりをより進めて行こうと思います。
木島センター長:CRMシステムの導入により、これまで個々の所感で判断することも少なくなかった紹介・逆紹介データを、客観的に捉えしっかりと分析を行うように取り組んでいます。データに基づいて現状を確認することで、地域の先生方との連携に何が求められているのか、それに対し当院がしっかりと取り組めているのか、さらにどのような改善をすすめるのかの検討に非常に有効なツールになると感じています。
また今までこのようなデータの集計・分析などは、地域連携の事務スタッフが時間をかけて対応していましたが、こちらの業務効率化が図れることで本来の業務に向きあう時間が増えることもメリットの一つです。病院と地域との関係をより細やかなものとすべくシステムを活用し、各診療科部長にもデータ周知を進めて行きたいと思います。
志手院長:地域の先生方がより便利に当院にご紹介いただけるようにWEB予約も開始しました。
今までは「何時に予約できますか」と電話をいただき、出来るだけ早く回答するように努力していましたが、病診連携室からFAXで返信するまで場合によっては30分以上お待たせしてしまうこともありました。開業医の先生方にとっては、患者さんをお待たせしてしまう懸念もあったと思います。患者さんをお待たせすることなく予約が取れるWEB予約システムをご活用いただくことで、スムーズな受入環境を整備していきたいと思っています。
PC,タブレットでもご利用いただけます。 |
PC,タブレットでもご利用いただけます。 |
木島センター長:WEB予約は、24時間365日、当院が休診であってもご予約いただけるのが大きな魅力です。
開始後間もないため、診療科を絞って運用している段階ですが、徐々により多くの診療科についてWEB予約での受付を開始して行く考えです。ぜひ地域の先生方には、ご紹介の際にご利用いただければと思います。
先進的な治療をさらに充実させ地域のニーズに幅広く応える
志手院長:脳・心・血管治療センターでは、先進的な治療を強化しています。近々TAVI(経カテーテル大動脈弁治療:Transcatheter Aortic Valve Implantation)を開始する予定です。
がん治療に関しては、リニアック放射線治療装置を新たな機種に更新しました。リニアックは腫瘍にピンポイントで高エネルギーの放射線を当て、正常組織への照射量を減らせる放射線治療装置です。また、内視鏡手術支援ロボット「ダビンチ」も新しくなりました。緩和ケアについては、現在積極的に進めており、がん患者さんの痛みや社会的な不安をサポートしていく部分は、かなり充実してきています。
対象の患者さんがいらっしゃれば、ぜひ当院にご相談ください。
激動する医療の時代を、地域の先生方とともに
志手院長:2025年も、当院はより地域に開かれた病院にしていく方針を継続してまいります。
コロナ禍でできた壁を取り払い、地域の住民や開業医の先生方、いろいろな方が当院に出入りしてくださるような、地域に開かれ、地域に根差した病院づくりに努めます。
木島センター長:地域連携・患者支援センターといたしましては、実際にお会いする機会を増やさせていただくことはもちろん、オンラインでの講演会なども活用し、地域の先生方のお顔を思い浮かべながら常にお話をできるように、そして先生方には中津病院の今を思い浮かべていただけるようにを心がけて参りたいと思います。
志手院長:今、医療は激動の時代だと思います。今までの約30年は、普通の医療をしていれば経営ができ医療に専念できました。これからは経済の動き、資源や人口動態、さまざまな面から経営を考えないと取り残されてしまいます。病院はもちろんですが、医師一人一人が、地域や患者さんのニーズを的確に捉えなくてはなりません。
当院はこれからも顔の見える連携を大切にしていきますので、地域の先生方には、当院と先生方との認識にギャップがあれば、ぜひ教えていただけるとありがたいです。地域の先生方のニーズに応えられるよう、病院をより良くしていきたいと思いますので、さまざまなご意見、ご要望を届けていただけると嬉しいです。
木島センター長:マイナ保険証をはじめ、医療DXが国の事業として進んでいます。国が医療全体を把握することが大きな道筋ではありますが、医療機関間での情報共有が進むことでより安全な医療体制が整っていくことも期待されます。
レトロな外観にも象徴される当院の伝統としての顔の見える連携とこれからの医療DXや新しい技術を結びつけて、地域のご開業医の先生からのニーズに幅広くお応えできる体制を整えていきたいと思います。
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大阪府済生会中津病院
"思いやりと活力に満ちた病院"をスローガンに、地域の中核病院として総合的な、きれ目のない「医療・看護・介護サービス」を提供。 2016年には創立100周年を迎えた。
所在地
大阪府大阪市北区芝田二丁目10番39号
病床数
570床
URL
https://www.nakatsu.saiseikai.or.jp/