Doctor's interview
RYO
SUZUKI
東京医科大学病院
副院長 / 糖尿病・代謝・内分泌内科 主任教授
3つの専門外来で高度な糖尿病治療を提供し、
糖尿病に対する啓発にも尽力
東京医科大学病院糖尿病・代謝・内分泌内科は、糖尿病(代謝)外来、インスリンポンプ外来、肥満外来を持ち、多職種との連携で質の高い糖尿病治療を行っています。鈴木亮主任教授は、副院長として地域医療や企業との連携も推進しています。
多職種連携と専門外来でより高度な糖尿病治療を提供
鈴木医師:糖尿病・代謝・内分泌内科は、専門的な治療と生活習慣の指導が受けやすく、質の高い糖尿病治療の提供が可能です。内分泌疾患も糖尿病と共通の診察枠で診療しています。当科は医師をはじめ多職種で連携して診療しています。糖尿病の臨床における生活指導のエキスパートを認定する看護師、管理栄養士、薬剤師、臨床検査技師、理学療法士に与えられるCDEJ(日本糖尿病療養指導士:Certified Diabetes Educator of Japan)をもつスタッフも院内に多数在籍しています。
当科には、3つの専門外来があります。糖尿病(代謝)外来、インスリンポンプ外来、肥満外来についてご紹介します。
糖尿病(代謝)外来
糖尿病(代謝)外来では、糖尿病の専門医・指導医の治療が受けられ 、他科との連携もスムーズです。糖尿病では、網膜症、腎症、末梢神経障害などの細小血管症に加え、動脈硬化が進むことによる大血管の合併症、脂肪性肝疾患や悪性腫瘍、認知症などの併存症が起きやすくなります。治療が必要な場合は循環器内科や眼科、消化器内科、腎臓内科、脳神経内科、高齢診療科等と密に連携しています。心筋梗塞につながる動脈硬化が進みやすい、家族性高コレステロール血症のような高度の脂質異常症に対しても、循環器内科と連携して診療する方針です。
インスリンポンプ外来
インスリンポンプ外来では、主に1型糖尿病の方の治療を行っています。インスリン投与の方法には、1日何回か注射を打つ頻回注射と、持続的に投与するインスリンポンプがあります。治療にポンプを用いる場合、持続グルコース測定と連動させる方法が主流で、食事以外で上下する血糖値の変化に対応したインスリン注入量の自動制御が可能です。腹部の皮下にカニューレを留置して、ポケットサイズのポンプとグルコースセンサーを装着します。
1型糖尿病は安定した血糖値の維持が難しく、頻回注射に比べてインスリンポンプ治療の利点が大きいと言えます。例えば、1型糖尿病ではしばしば、明け方に血糖値が急上昇するケースがあります。頻回注射では対応が難しく、ポンプを用いて血糖値が上昇する時にインスリンの投与量が増えるよう設定すると、低血糖を起こさずにコントロールできます。母子の安全のため、厳密に血糖値を管理する必要がある妊娠中にも適した方法です。インスリンポンプは、欧米に比べて普及が進んでいませんでしたが、日本でも徐々に広まってきました。当科では、ポンプに熟達した医師が担当しますので、導入を検討されている方をご紹介いただければ幸いです。
肥満外来
肥満外来を2024年4月に開設しました。一般名セマグルチド(遺伝子組み換え)は、2型糖尿病の治療に使われてきた注射薬です。あらたに、成分の用量を増やして肥満症の治療薬として承認されたのに伴い、厚生労働省のガイドラインに沿って肥満症の治療に使えるようになりました。
肥満症でセマグルチド(遺伝子組み換え)を使うには、糖尿病や循環器、内分泌疾患の教育認定施設かつ専門医がいる医療機関で治療を受ける必要があります。さらに、肥満症の治療を始める前、6ヶ月間の食事療法の記録と主治医による適応の判断が求められます。適応要件は、2型糖尿病と高血圧、脂質異常症のうち、BMIが27以上35未満の場合は2つ、BMIが35以上の場合はいずれか1つを満たす場合です。当科のHPにある「肥満外来予約用チェックリスト」をご確認の上でご紹介いただくと、患者さんにご理解いただきやすくなります。
セマグルチド(遺伝子組み換え)による肥満症の治療は、週1回の自己注射で食欲が抑えられ有効である反面、吐き気といった消化器症状が出やすい特徴があります。いわゆるドカ食いの習慣があると嘔吐につながりやすいので、早食いやドカ食いをしない状態で治療を始めるように伝えます。2型糖尿病の治療では、セマグルチド注射を週1回最大1.0mgまで使用できます。肥満症の治療として1.7mgあるいは2.4mgまで増やしていく場合は、消化器症状が我慢できる範囲にとどまるかが決め手です。
セマグルチド(遺伝子組み換え)を2型糖尿病の治療に使う場合は、長期間の継続が可能ですが、肥満症の治療では現在のところ、最大投与期間が68週間となっています。プログラムが終了した後でリバウンドしないか、食事療法や運動療法をしながら経過をみる必要があります。
副院長として、地域医療や企業との連携を推進
鈴木医師:私は2024年9月より東京医科大学病院副院長に就任しました。地域医療連携のほか、広報社会連携、企業との連携を推進する部署を担当しています。当院では開かれた病院づくりのため、市民公開講座(月1回)や地域の先生方に向けたセミナー(懇話会)を開いています。最近は、漢方医学や循環器内科、心臓血管外科のセミナーを開催しました。
東京医科大学病院では毎年、世界保健機構(WHO)が定める世界糖尿病デー(11月14日)の週に「東医ブルーサークルフェスタ」を開催しています。第10回となる2024年は、会議室に血糖測定、体組成測定、VR(Virtual Reality)を用いた網膜症体験、運動体験のブースを設置しました。会場となった9階にあるコンビニエンスストアと協力して、低糖質商品を紹介する企画をしたこともあります。
糖尿病になると決して甘いものを食べていけない訳ではなく、コンビニの商品のように、糖質量が表示されているデザートは院内でも喜ばれています。糖尿病の患者さんやご家族は食事についての関心が高く、製薬企業や医療機器メーカーが出している食事に関するパンフレットも好評でした。
さらに、医療スタッフと医師のグループ「Team Diabetes」による糖尿病劇場では、糖尿病に対する啓発的なメッセージを演劇で伝えました。糖尿病を告知された患者さんは、戸惑いや悩み、病気にどう立ち向かうかで苦労されます。私たちは、患者さんの生活に糖尿病の治療をどう取り入れるか、一緒に探すスタンスです。患者さんが1人ではなく、医療者と糖尿病に向き合う意義を伝えるのに、演劇は感情移入しやすい方法だと思います。
外部のイベントとしては、東京都のイベント「ファンモアタイム新宿」に2024年、初めて参加しました。看護部や診療科の若いスタッフの協力で、参加された方たちに対して病院の紹介や、当科では糖尿病網膜症の方の見え方をVR体験してもらいました。
研修医時代に糖尿病治療への貢献を誓い、今日まで
鈴木医師:糖尿病を専門にしたきっかけの1つは、初期研修で最初に受け持った1型糖尿病の同年代の女性の患者さんです。治療をがんばっていましたが、将来の不安や悩みを抱える受容途中の姿をみて、なんとかしたいと感じました。もう1つは、市中病院にいた2年目に、数多くの2型糖尿病の患者さんがいるのに薬の種類も糖尿病専門の医師も少ない状況で、自分にできることがないかと考えた経験です。今も糖尿病専門の医師の数は足りていないと思いますが、当時に比べると治療の選択肢は増え、糖尿病に対する啓発も進みました。
糖尿病と診断された患者さんの初期の受容と治療継続の難しさは、今でも大きな壁です。
糖尿病の受容には、すぐに適応できる方も時間がかかる方もいらっしゃいます。完全に受容されている患者さんを見慣れている先生には、受容途中の方がどうして指示を聞かないのかと思ってしまうケースがあるかもしれません。患者さんが危ない行動や選択をされているときはリスクを伝えなくてはいけませんが、温かく見守った方がいい場合もあります。患者さんが治療を中断するのは一番危険なので、確実に受診し続けるよう伝えて、長い目でみていただければと思います。
ハーバード大学ジョスリン糖尿病センターには5年間留学して、糖尿病やインスリンが脳に与える影響を調べる基礎研究に没頭しました。帰国後の臨床では、高齢者の糖尿病診療がテーマです。今は、日本糖尿病学会と日本老年医学会の高齢者糖尿病の治療の質向上のための合同委員会で、日本糖尿病学会の代表委員として、診療ガイドラインや治療ガイドを作成しています。今後さらにアップデートして、地域の先生方に還元していきたいと考えています。
欧米では、1型糖尿病のリスクが高い方の発症、進行を予防する薬の使用が現実的になってきましたが、日本では患者数が比較的少なく、開発のハードルが高い現状にあります。私のライフワークは高齢者糖尿病ですが、年齢を問わず1型糖尿病の治療環境を整えるために必要な一歩として、当科にインスリンポンプ外来を立ち上げました。日本糖尿病学会の事務局長としても、1型糖尿病の治療水準をさらに高める活動に力を尽くしたいと考えています。
多くの方により良い治療を届けるため、改革を進める
鈴木医師:東京医科大学病院は、ご紹介から受診まで開かれた病院なので、幅広い疾患に対してご紹介いただきたいと思います。お待たせする場合もありますが、アクセスを少しでも改善して多くの方を治療、手術できるように改革を進めています。
大学病院は高い水準の医療の提供を求められますが、役割を果たすためには前方連携・後方連携が不可欠です。長期の入院が必要な方や救急の受け入れのためにも協力体制を整え、効率を上げていきたいと思います。地域の先生方には、これからもぜひ多くの患者さんをご紹介いただければ幸いです。
東京医科大学病院
東京医科大学病院は新宿副都心に位置する「特定機能病院」であり、都区西部「地域がん診療連携拠点病院」に指定されています。
所在地
東京都新宿区西新宿6-7-1
病床数
904床(一般病床 885床、精神 19床)
URL
https://hospinfo.tokyo-med.ac.jp/