横浜市立みなと赤十字病院 心臓病センターでは、循環器領域の治療を幅広く行っています。循環器内科と心臓血管外科が密に連携して24時間、循環器疾患を治療する体制です。不整脈治療に関してはクライオアブレーションに注力し、最近は新しいパルスフィールドアブレーションも導入しています。虚血性心疾患に関しては、複雑性病変に対するロータブレータ・ダイヤモンドバックなどのインターベンションも積極的に取り組んでいます。僧帽弁クリップ術（MitraClip）、Watchman左心耳閉鎖術、リードレスペースメーカ、左脚領域ペーシング、皮下植込み型除細動器(S-ICD)植込みなど、先進治療も積極的に行っています。また心臓血管外科は、低侵襲心臓手術（MICS: Minimally invasive cardiac surgery）に力をいれ、オフポンプ冠動脈バイパス術・小開胸鏡視下手術・胸部腹部ステント内挿術・TAVI（経カテーテル的大動脈弁置換術：Transcatheter Aortic Valve Implantation)を行っています。

365日24時間体制で受け入れ、ハートチームとして循環器の治療全般に取り組む

山内医師：横浜市立みなと赤十字病院 心臓病センターは、循環器内科と心臓血管外科、メディカルスタッフがハートチームとして一丸となり、高度な循環器医療を提供しています。心臓病センターでは、日本で行われている循環器領域の治療が全般的に可能です。内科と外科の壁が低く、毎週の合同カンファレンスでは診療科の枠を超えて、一人ひとりの患者さんに適した方法を検討し、先進的な治療をしています。

伊藤医師：心臓病センターでは、循環器緊急疾患に対しての積極的対応: 依頼を断らない緊急対応（No refusal policy）を心がけています。夜間も常に循環器担当医が対応し、急性心筋梗塞、大動脈解離や大動脈瘤破裂といった一刻を争う疾患に緊急対応しています。地域の先生から直接、連絡を受けるため、循環器内科のハートラインと心臓血管外科のホットラインを設置しました。2024年10月からは救急隊員からのハートラインも開設して、主に急性心筋梗塞や急性大動脈解離の患者さんに対応しています。

山内医師：当科には、心エコーを専門とする日本超音波医学会認定 超音波専門医が在籍しています。心エコーは外科的あるいは内科的治療の最終決定に大切な所見です。循環器内科と心臓血管外科、心エコーの医師が一体となって循環器診療しているのは、私たちの強みです。

診療実績の推移

治療成績を上げるのは、経験の引き出しの数です。当院はアブレーションを20年近く手がけた実績があります。他院から、アブレーションで治らなかった方をご紹介いただき、再治療をお受けしています。高周波で治せない場合、クライオバルーンあるいは化学アブレーションを行います。化学アブレーションはアルコールを注入する方法で、当科の前任の沖重薫先生が日本に導入し全国に広めました。さらに2024年11月からは、パルスフィールドアブレーションを導入しています。パルスフィールドアブレーションは、パルス電圧を用いて標的となる心筋細胞だけを障害して不整脈を治す新しい技術です。従来法より合併症が軽減され、安全性が高いとされています。当院も複数のパルスフィールドアブレーション機種を導入し、治療を始めました。パルスフィールドアブレーションは、心臓周囲の臓器（食道やその周囲の迷走神経や横隔神経）へ影響が少ないため、より安全なアブレーションが可能であり、今後はパルスフィールドアブレーションが主流になってくると考えられます。

当科では植込み型デバイスに関しても、積極的に新しい治療法を導入しています。ペーシング治療では、徐脈性不整脈に対するリードレス・ペースメーカー、従来の右室ペーシング治療より生理的で心機能を温存できる左脚領域ペーシング、重症心不全のための両室ペーシングといった新しいデバイス植え込み治療を取り入れてきました。皮下に埋め込むタイプの植込み型除細動器も導入しています。

当院では、日本心血管インターベンション治療学会専門医が虚血性心疾患の治療を行っています。動脈硬化による血管の石灰化病変を削るローターブレーター治療や、慢性完全閉塞病変などの複雑病変のあるような症例にも柔軟に対応できる技術を有しております。また、24時間体制で治療を行える環境を整え、緊急時の対応が可能です。これにより患者さんに安心と高水準の医療を提供できるように努めております。

これまでの経験を活かし、信頼される手術を提供したい

伊藤医師：私が心臓血管外科医をこころざした理由は、二つあります。一つは、学生時代からサッカーをやっていたこともあり、チームで治療を行う手術が好きだったこと、その中で、外科でがん手術を多く経験しましたが、がんの再発といった手術の技量だけでは完治できない症例を経験し、手術の技量で結果が決まる心臓血管外科に恐ろしくも魅力を感じました。もう一つは、父が心臓血管外科医でやりがいをもって昼夜を問わず急患に対応するうしろ姿をみて育ったことがあります。

私は、42歳で心臓血管外科部長になって今年で10年になります。若くして心臓血管外科の部長となるには、手術の技量と経験数が重要でした。自分が所属している自治医大さいたま医療センター心臓血管外科は、日本有数のハイボリュームセンターで、出身大学に関係なく若手を平等に育て、若手にチャンスをあたえる施設です。そこで優秀な先生方に指導を受け、多くの手術を経験したことが実力をつける近道となりました。また、医局の中で留学のチャンスをつかみ、スタンフォード大学の心臓血管外科に3年間、研究留学して基礎研究を行い、人脈を広げアメリカの心臓血管外科の知見を深めることができました。留学から大学に戻り、いくつかの科研費を獲得し、臨床データを用いて臨床研究・論文発表を多く行うことができたことも幸運でした。
私は患者さんにとってよりよい手術をするために、単に個人の手術の技量だけでなく、ハートチームを中心としたチーム力が重要であり、そして循環器疾患の診療ガイドライン・質の高い臨床データに基づいた知見も重要になります。これまでの経験を活かし、信頼される手術を提供したいと考えています。 

山内医師：私が在籍していた東京医科歯科大学（現・東京科学大学）の医局は不整脈を得意とし、不整脈を専門とする有名な病院とつながりがあります。日本でアブレーションの症例数が多い小倉記念病院、榊原記念病院、さいたま赤十字病院、群馬県立心臓血管センターは、年間1000件以上アブレーションを施行している施設ですが、この4つのハイボリュームセンターはすべて東京医科歯科大学の医局の先輩達が立ち上げた施設です。

東京医科歯科大学の医局では、恩師や同僚が常に論文を書き、切磋琢磨していました。私も新しい治療を行ったときは、なるべく早く英語論文にしています。新しい治療法を海外で発表したら、追従して先に論文にされてしまい悔しい思いをした経験もありました。臨床医として長年の実績から信念を持って治療にあたっており、新しい知見を共有して循環器内科の領域に貢献したいと思います。これまでお世話になった優秀な先輩の先生方のおかげで、今の私があります。