Doctor's interview
KEIICHIRO
NAKAMAE
プライマリーな診療と連携体制の強化で、診断の難しい患者さんを救いたい
武田総合病院 総合診療科部長、 内分泌科部長、臨床研修部部長を兼任する中前恵一郎医師は、2024年4月から副院長に就任しました。総合診療科としてプライマリーな診療を軸に、新患や紹介患者さんの受け入れ窓口としての役割を果たすとともに、臨床研修医・内科専門医・総合診療専門医の教育や、外来改革、院内のDX推進にも尽力しています。
患者さん1人1人の人生をビジュアル化し、原因を探る
中前医師:当院総合診療科は、1993年に当院が臨床研修病院の指定を京都の私立病院としては初めて受けたことをきっかけに、1994年にそれまで内科あるいは一般内科と呼ばれていた診療科を、故半田肇名誉院長(当時院長)のご意見により総合診療科と改名し、井上雅史先生(現在、井上医院院長)を初代部長として発足いたしました。
その後、2003年4月より桂田達也先生、次いで2004年4月より大野仁嗣先生が部長をされました。その後2007年4月より土井哲也先生(現在、康生会武田病院副院長)が2024年3月まで部長をされて、当院総合診療科の発展に大きくご尽力くださり、2024年4月から私が引き継がせていただいております。
地域の先生方から総合診療科にご紹介いただく患者さんは、原因不明の体重減少や発熱をはじめ、愁訴が複雑で何科にお願いしたらいいかわからないというような方が多くいらっしゃいます。当科では、まず患者さんの訴えをしっかり聴き、身体症状の変化、必要なときは心理的な要素、社会的背景、職場や家庭の問題まで掘り下げて、症状の原因を探ります。多くは問診と身体診察だけでいくつかの病名が推測でき、そこから診断のために検査を追加し、場合によっては診断的治療を行い、必要があれば専門医につなぎます。
非典型的な症状を訴える患者さんを診るには、ある程度の数の疾患を想定して鑑別ポイントを探らないと、なかなか診断にたどり着けません。疾患名がすぐに想起できない場合には、まずは感染症や悪性腫瘍、自己免疫疾患などの疾患領域別に考えるようにし、それぞれに関連する自覚症状や他覚所見の有無を確認し、どのような疾患領域が近いのか絞り込んでいきます。
疾患の増悪因子や寛解因子、そして心理的・社会的な要因の影響を考える際には、患者さん1人1人の生活を頭の中でビジュアル化するように聞き取っていくと、疾患の原因が見えてくることがあります。患者さんには、自分の思考内容を初回よりそのまま分かりやすくお伝えすると、信頼関係が得られ、検査や治療に協力的になっていただけます。
丁寧なやり取りで地域の先生との信頼関係を築きたい
中前医師:患者さんをご紹介いただいた地域の先生への返書は、丁寧に記載することを心がけています。初期診断として考えられる鑑別診断の病名、鑑別するためのプランを紹介して、次にどの段階で返書をするか、私自身の思考過程を2~3枚で伝えています。
紹介状と返書のやりとりは、お互いの学びあいという一面があると感じています。繰り返しご紹介状をいただけることは、頼りにしていただけているというプラス評価だと考えています。
紹介元の先生方のお気持ちを考え、安心して患者さんをご紹介いただけるような信頼関係を築いていければと考えております。
広い視野で全人的に診る総合診療科へ
中前医師:私は幼いころから小児喘息を患っており、よく夜間に救急受診をしていました。そこで触れた医師・医療職の方々に憧れて、小学生のころから医師を目指すようになりました。
医学生時代には、母校の山口大学にタイのマヒドン大学医学部と医学生の交換留学を行う部活を学生だけで立ち上げたのをきっかけに、日本国内でもさまざまな病院、医学生とコミュニケーションを取る機会が多く得られました。当時はアジア中の医学生と夜遅くまでお酒を飲んで語り合って、本当に素敵な経験を得ることができました。
その関係で大学4年生の頃から臨床研修病院での研修に興味を持ち、卒後は虎ノ門病院の内科レジデントとして研修しました。当時はまだ臨床研修が義務化されておらず、卒業生の9割は最初から一つの診療科に就職する時代でした。私の研修時は、内科系を1年6カ月、さらに外科と麻酔科をそれぞれ3カ月ずつで合計2年間の臨床研修を行いました。同期生は海外で活躍している方や教授になった方も複数おり、今でも交流を続けて刺激を受けあっています。
私が武田総合病院に入職したのは2009年です。専門である糖尿病診療も続けながら、学問的な興味があり総合診療科に入りました。医師になったスタート時点から広い視野で全人的に診るスタイルを意識してきたので、このことが現在の総合診療科医としてのスタンスにつながってきたのだと感じています。
プライマリーな診療ができる医師を育てる
中前医師:当科では臨床研修教育にも力を入れており、研修医の先生が研修を修了するときには、1人で一般外来や病棟診療、救急対応ができる力をつけてもらえるように指導を行っています。
当院を受験する医学生に質問すると、約半分は総合診療科に興味があると回答されます。2009年から研修医や地域の先生とともに毎週、救急症例検討会を開催し、当院に受診された救急や時間外患者さんについて、主訴から10~30の疾患を思い浮かべ、鑑別診断を絞り込み、診断にたどり着くためのトレーニングをしています。
2018年からは当院は総合診療専門研修基幹病院として、総合診療科専門医を目指す専攻医を育てるようになりました。2024年10月現在、5名の方が専攻医として研修を修了、または現在研修中であり、来年度の入職予定者もいらっしゃいます。総合診療科医の育成により、患者さんがいくつも専門診療科をハシゴするようなことがなくなれば、医療費の削減にも繋がると考えています。また当院のような地域医療支援病院が、かかりつけ医と連携して患者さんを継ぎ目なく診療していけるような体制を作っていければと考えています。
DXを推進し、医療の仕組みをより良く変えていく
中前医師:医療制度を良くしていくためには、DX(Digital Transformation)は必須だと考えています。働き方改革が話題になっていますが、病院経営の観点から考えても、人件費などを抑えながら診療の質を改善するためにDXは非常に有用です。 私はもともとデジタル分野に関心があり、小学生の頃からBasicというプログラミング言語で簡単な自作RPGゲームを作って遊んでいました。当院に来てからも、ファイルメーカーで院内の診療データをまとめてスクリプトで自動集計させたり、Excelや統計解析ソフトを使って学会発表などを行ったりしています。また、近年は、生成AIを積極的に取り入れて、院内全体での働き方改革を進めています。
現在は患者さんや地域の先生方が当院の医療リソースを利用していただきやすくするために、DXを活用していきたいと考えています。例えば、患者さんが自分の医療情報をスマートフォンで確認したり、かかりつけの先生とも情報共有できるPHR(Personal Health Record)の導入や、かかりつけの先生が、オンラインで24時間当院の検査予約をできるようにしたり、検査終了直後から画像や読影レポートの確認ができるシステムの導入も進めています。地域の先生方とよりよい医療の仕組みを作り上げるために、DXを推進していきたいと考えています。
患者さんを救うため、地域の先生と連携しやすい体制をつくる
中前医師:以前はせっかくご紹介頂いた患者さんでも長い待ち時間が発生することがありました。そこで、5年前に外来運営委員会に参加し、現在まで外来運営システムをより良くしていく取組みを進めています。当初は外来予約枠に1時間で10名以上押し込められていたり、そもそも予約枠のない診療科があったり、採血待ちが集中して朝は2時間待ちが当たり前みたいなことが多くありましたが、予約枠や診療体制の最適化を図り、待ち時間を中心とする患者満足度を大きく改善させることができました。
2022年1月からは当院は地域医療支援病院になり、軽症患者さんを積極的にかかりつけ医の先生方に逆紹介を行うことで、紹介患者さんを迅速に受け入れる体制が十分に整ってきました。この10月からは紹介患者さん専用の予約枠も作成し、より多くの紹介患者さんを受け入れるようにしております。
また、私の専門の一つである糖尿病領域では、肥満症をはじめ、心疾患や慢性腎臓病に対する新しい治療薬が数多く出てきています。検査診断技術も進んでおり、簡単な非造影CT検査で冠動脈病変のリスクが分かるようになり、脳心血管や下肢血管などの動脈硬化性疾患の評価や予防を進める体制がこれまで以上に整ってまいりました。そして、新しい薬剤により肥満患者さんの体重のコントロールにも対応できるようになりました。ご相談いただければ、必要な検査や集学的な治療を行い、地域の先生にお返しできると思います。長年、クリニックに通院して安定している患者さんでも、年に一度、合併症検査でご紹介いただければ幸いです。
ポストコロナ禍や少子高齢化で医療制度が大きく変革しています。当院はデジタル化や医療連携を進め、地域の先生方と協力して地域医療を支えたいと考えております。お困りの際は気軽にご紹介ください。
医療法人 医仁会 武田総合病院
「地域医療支援病院」として、高度医療を核に、総合的な診療体制を確立。 地域の健康文化の発信基地として、人々のからだと心のケアを支える。
所在地
〒601-1495 京都市伏見区石田森南町28-1
病床数
500床
URL
https://www.takedahp.or.jp/ijinkai/