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日本人に1番多い大腸がんには、検診と内視鏡による診断・早期治療を

Doctor's interview

COLORECTAL
CANCER

浜松医療センター
消化器内科

日本人に1番多い大腸がんには、検診と内視鏡による診断・早期治療を

胃がんが減った今、日本人に1番多いがんは大腸がんです。消化器内科部長の金岡繁医師は、大腸がんには検診と陽性になった場合の精密検査が大切であり、内視鏡による精密検査がゴールドスタンダードと語ります。浜松医療センター消化器内科では、カプセル内視鏡や内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)など、内視鏡を使った先進技術を消化管、肝胆膵の診断・治療に取り入れてきました。内視鏡科部長の栗山茂医師は、内視鏡治療には診断と経験が重要と考えています。

大腸がんには検診による早期発見が鍵

金岡医師:現在、日本人のがんで1番多いのは、男女合わせると大腸がんです。国立がん研究センターの統計でがんの死亡率のうち、大腸がんは男性で2位、女性で1位(2022)、がんの罹患率では男女ともに大腸がんは2位(2019)でした。私が医師になったころは圧倒的に胃がんが多かったのですが、ピロリ菌が原因と分かり、衛生環境もよくなったため胃がんは急速に減りました。しかし、大腸がんは肥満などの生活習慣病の側面があり、あまり減ってはいません。

がんを食い止めるには、1次予防として未病への対策、2次予防として検診、3次予防に治療があります。大腸がんに対しては、2次予防の検診が最も有効で大切です。アメリカの人口は日本の約2.5倍ですが、大腸がんで1年間に亡くなる方は、日本の約5万人より少ない人数でした。アメリカで大腸がんの死亡率が減っている最大の理由は、大腸がん検診の受診率が高いためです。検診で早期発見して治療すれば、日本でも大腸がんで亡くなる方がもっと減るでしょう。

大腸がん検診で陽性の方は、内視鏡による精密検査を受けてほしい

金岡医師:大腸がん検診は、基本的に便潜血検査です。日本では2日法で2回の便を提出し、1回でも陽性であれば精密検査を受ける流れです。大腸がん検診の便潜血検査で陽性の方には、ほとんどの先進国で内視鏡による精密検査をしています。日本では、1992年に老人保健法に基づき大腸内視鏡検査またはS状結腸内視鏡検査と注腸検査のどちらかで精密検査をすると決められました。

便潜血検査で陽性の方のうち、浜松市の住民健診では40歳代では1%弱、70歳以上で約4%、全体では約3%の方が大腸がんです。よくある間違いとして、安心材料として陰性を確認したいという方や、検査が陽性でも精密検査を躊躇する余り、もう一度同じ検査をして陰性だったら精密検査をしない方がいますが、見逃しにつながる可能性があります。2回の検査のうち1回でも陽性が出たら、必ず精密検査を受けるよう、患者さんにご指導いただくことが重要です。

日本人に1番多い大腸がんには、検診と内視鏡による診断・早期治療を

イギリスの国民保健サービス(National Health Service:通称NHS)のように、国が居住区すべての検診対象者を管理していると、同じ便潜血検査による検診でも、大腸がんの死亡率は右肩下がりで減らせます。日本では約40%の方が検診を受け、陽性で精密検査を受ける方はそのうちの約70%です。これらの数字が60%と80%以上であるイギリスと同じくらいになれば、日本でも大腸がん死亡率の減少がさらに期待できます。日本は住民検診と企業の福利厚生としての職域検診で管轄が異なり、後者のデータの把握ができていません。イギリスと同様に対象者をしっかり把握し、受診率や精密検査を受ける率を高めるシステムの構築が必要です。

私たちは、多くの方に大腸がんの検診を受け、陽性となった場合には大腸内視鏡などの精密検査を受けていただきたいと願っています。そのためにも苦しくないよう鎮痛薬と鎮静剤を使い、安全を確保しながら、なるべく苦痛のない内視鏡検査を行っています。

内視鏡治療の基本は診断、カプセル内視鏡から超音波内視鏡まで扱う

栗山医師:内視鏡は消化器領域で、診断と治療に活用されています。医師として年数を重ねれば、内視鏡操作の技術は上がりますが、診断が最も重要です。私たちはチーム医療でカンファレンスを通し、より精度の高い診断を追求しています。当院では、大腸疾患の診断に大腸内視鏡の他、大腸CT検査、大腸カプセル内視鏡検査を導入しています。

大腸カプセル内視鏡検査は内服したカプセルが大腸を自然に進みながら撮像していく検査で、大腸CT検査は肛門に細いチューブを挿入し二酸化炭素を送気したのちにCTをとることで、それぞれ負担少なく大腸を観察することができる検査です。ただ適応の制限や同時にポリープ切除などの治療ができないなどのデメリットもあり、まず大腸内視鏡検査が第一選択となります。

日本人に1番多い大腸がんには、検診と内視鏡による診断・早期治療を

金岡医師:大腸を診断する内視鏡は他にもあります。バルーン内視鏡は、スコープについたバルーンで消化管を折りたたむように縮めて進み、見にくい病変部を確認できる方法です。長い小腸のほか、大腸に癒着があるケースで使います。

超音波内視鏡下穿刺吸引法(EUS-FNA:Endoscopic Ultrasound-Fine Needle Aspiration)は、超音波内視鏡で消化管の中から病変を確認して針で採取する技術です。消化管の粘膜下腫瘍、肝胆膵の腫瘍の診断に適し、最終的な病理診断の検体を得るのに役立ち、治療にも用いられます。

日本人に1番多い大腸がんには、検診と内視鏡による診断・早期治療を

早期大腸がんには、内視鏡を使うESDやEMRが標準治療

金岡医師:内視鏡は、早期がんの治療にも役立っています。内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD:Endoscopic Submucosal Dissection)は、内視鏡で消化管にできた病変を確認しながら、粘膜下層に薬剤を注入して浮かせて少しずつ剥離し、内視鏡用のナイフで切除する方法です。胃や大腸、食道、十二指腸のがんに対して行っています。ESDは熟練を要し、入院管理ができ、スタッフが揃う比較的規模の大きな病院で行われます。

内視鏡的粘膜切除術(EMR:Endoscopic Mucosal Resection)は、薬剤を入れて病変部を浮かせ、ループ上のスネアで焼き切る方法です。約2cm以下の小さな早期がんを低侵襲で一括切除できます。早期の大腸がんでは、標準的にESDとEMRを行っています。

内視鏡の診断・治療は、病変の大きさや形態によってリスクや難易度が異なり、学会のガイドラインをもとに安全性を考慮して行っています。当院には日本消化器病学会や日本消化器内視鏡学会の指導医や専門医が複数いて、チーム医療で若い先生を教育し、技術の取得をしっかりサポートしています。

浜松医療センター消化器内科では、大腸がんについてゲノム医療を取り入れ治療

金岡医師:大腸がんの内視鏡治療は、がんが大腸粘膜内に留まるステージ0が適応です。ステージ1〜3の治療は外科手術が中心です。転移を認めるステージ4では、化学療法を行います。固形がんの中では、大腸がんの化学療法が最も進歩しています。20年以上前、ステージ4の大腸がんの方の予後は1年持ちませんでした。2004年ごろからスタンダードの抗がん剤が確立し、その後分子標的薬が登場しました。今、大腸がんと診断され、遺伝子の変異を調べて治療すると、左側の下行結腸からS状結腸、直腸のがんで3〜4年、右側の盲腸から上行結腸のがんで約3年の中央値で生存しています。さらに、がん遺伝子パネル検査をしてがんゲノム医療を行えば、さらに予後が伸びる方もいるでしょう。

当院は地域がん診療連携拠点病院、そしてがんゲノム医療連携病院であるため通常では適応のなかった免疫チェックポイント阻害薬や臨床試験などの先進的な医療を受けられる方が一定数いらっしゃいます。また、国はがんに対して緩和医療も推進する方針です。当院には大学院修士の資格を持つがん看護専門看護師が3人在籍し、医師と連携して診療にあたっており、医師・患者さん双方において、非常に頼りになる存在です。

消化器内科は患者数が多く、内視鏡治療が魅力的

栗山医師:私は1998年に浜松医科大学を卒業し、第1内科に入局しました。県内の市中病院を経て、2014年に当院に赴任しています。消化器内科は患者さんが多く、内視鏡に興味がありました。内視鏡は診断と治療の両方が可能で、内科と外科の要素がある奥深い手技だと思います。私の専門は主に胃腸を中心とした消化管です。

金岡医師:浜松医科大学を1987年に卒業し、1997〜99年にハーバード大学の基幹病院であるマサチューセッツ総合病院に留学しました。その後、大学に戻り第1内科・分子診断学講座でトランスレーショナルリサーチを進め、2013年に浜松医療センター消化器内科に赴任しました。今年の4月からは院長補佐になり、病院全体の運営にコミットしています。また、2023年より日本消化器がん検診学会の副理事長を務め、学会の運営や大腸がん検診に深く関与する立場になっています。消化器の中では消化管が専門で、特に大腸が専門です。

消化器内科を選んだ理由の1つに内視鏡で直接、病変を見つけ、低侵襲で治療が完了できる魅力があります。記憶に残る臨床経験には、医師になって数年目に、ポリープ癌を切除したにも関わらず、次の検査時に新たなポリープ癌がみられる患者さんがいて、調べると大腸がん家系の方だった症例を経験しました。大腸がんの約5%に遺伝的な素因がある症例が存在し、研究を行う動機になりました。また後年、栗山先生と便を使った新しい検査方法を開発するきっかけにもなっています。消化器内科では消化管のほか、肝胆膵も扱います。C型肝炎に対してインターフェロン治療、胃がんにはピロリ菌の発見など、エポックメイキングな診断・治療の進歩を経験できたのは、恵まれていたと思います。

地域の基幹病院、クリニックと連携してよりよい地域医療を

栗山医師浜松市は人口約80万人の政令指定都市で、600床以上の病院が当院を含め、浜松医科大学医学部附属病院、聖隷浜松病院と聖隷三方原病院の4施設あります。市内の基幹病院7施設はコロナ禍でも連絡をとり、地域で協力しながら、切磋琢磨しています。


金岡医師:さらに当院は、地域の先生方と「病診連携」を推進しています。私は浜松市医師会の大腸がん検診にも関わり、先生方がお忙しい中でがんばっておられる姿を見てきました。私たちは主に入院診療や先進医療で、ご紹介いただいた方を治療してフォローした上で、元のクリニックにお返しする役割分担をしたいと考えています。

日本人に1番多い大腸がんには、検診と内視鏡による診断・早期治療を

地域の先生方にお願いがあります。消化器症状で来られた患者さんに投薬する場合もあると思いますが、何かがおかしいと感じられたら、ぜひ短期間で診断のためにご紹介ください。1、2週間で症状が取れず、食欲が落ちていくようなケースでは、なるべく早めに当院医療連携室にご連絡いただけますと幸いです。

今年の秋、神戸で消化器系の5学会が一堂に会する日本消化器関連学会週間(JDDW2024;Japan Digestive Disease Week 2024)で第62回日本消化器がん検診学会大会の会長に任命されました。栗山先生や病院にもバックアップしていただき、準備しています。こうした学会の活動や成果を、ぜひ地域の先生方と分かち合いたいと思います。気になる患者さんがいたら、ぜひご紹介ください。専門的な知識を広め、先生方と共によりよい地域医療を実現したいと願っています。

浜松医療センター

静岡県西部地区を診療圏とする高度総合医療機関であり、地域医療支援病院、災害拠点病院、地域がん診療連携拠点病院、地域周産母子医療センター、アレルギー疾患医療拠点病院、日本脳卒中学会一次脳卒中センター、そしてゲノム医療連携病院の責を担っている。

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