当院では新しい第4世代のダビンチXiを取り入れ、
さらに使いやすくなりました。(2023年12月導入)
横浜市立みなと赤十字病院は、手術支援ロボット「ダビンチ」を使った治療に約10年の実績があります。開腹や内視鏡と同様、ダビンチを手術の選択肢の1つとして臨床に活かしてきました。泌尿器科では前立腺がんや腎部分切除、女性の骨盤臓器脱に対する仙骨固定術、外科では直腸と結腸のがんの手術などにダビンチを使用しています。同院は方法によらず手術までの待機を短く、スムーズな院内連携で合併症のある患者さんにもよりよい治療を行う方針です。これまでの経験からどのようにダビンチを捉え、活用しているか伺いました。
早い時期にロボット支援手術を導入、泌尿器科や外科などで使用
村上医師:日本では2012年に初めて、ロボット支援手術(ダビンチ)が前立腺がんの術式で保険収載されました。当初、ダビンチを使うのはほぼ泌尿器科でしたが、その他の外科や婦人科にも適応が広がりました。特に骨盤内など狭い術野の手術には有利です。当院は2014年、神奈川県で4番目の早い時期にダビンチを導入しています。
田医師:大腸がんに対する直腸切除のロボット支援手術は2018年に保険収載され、当院でも同じ年に開始しています。2022年に結腸がんのロボット支援手術も保険適用になりました。
泌尿器科では前立腺がん手術や腎部分切除、女性の仙骨固定術を扱う
村上医師:ダビンチを使う泌尿器科の症例で1番多いのは、前立腺がんです。基本的に開腹手術や腹腔鏡手術と同じ処置をしますが、ダビンチのメリットが活かせます。前立腺は膀胱の出口にあり、尿道が中に走っています。前立腺の手術の際は、膀胱と尿道を離してからつなぎます。前立腺は骨盤の奥深くにあり、開腹手術では出血量が多くなるケースがありました。ダビンチを使うと視野を拡大し、鉗子を自由に動かせるので出血が少なくなります。ロボット支援だけではなく他の工夫の効果もありますが、前立腺の手術後におきる腹圧性尿失禁の回復も早くなっています。
前立腺がんの手術の次に多いのが腎臓の部分切除です。腎部分切除は2016年に保険適用になりました。開腹手術や腹腔鏡手術では腎臓を全部取るしかないケースでも、ダビンチの導入で腫瘍の部分だけ切除しやすくなりました。腎臓は血流が豊富な組織で、そのまま切ると出血するため、血流を遮断して腫瘍を切除します。止血には縫合が必要ですが、ダビンチで血管を拡大して見ながら鉗子の細かい操作ができ、時間も短縮できるようになりました。
女性の骨盤臓器脱に対する仙骨固定術にもダビンチを使っています。骨盤臓器脱は骨盤の中で膀胱や子宮が下がり、膣の壁を押して体外に出てしまう疾患です。仙骨固定術は、メッシュの網を使って子宮や膣壁を仙骨の前の靱帯に引っ張り上げて止める手術です。腹腔鏡による仙骨固定術は2014年の4月に保険収載され、私たちは7月から始めました。ロボット支援下での仙骨固定術は2020年に保険適用になっています。ダビンチを使う手術では、お腹からメッシュを膣壁や子宮に20針ほど縫合するのに器具を動かしやすく、傷も小さくできます。婦人科での手術やロボットを使わずに手術する方法もありますが、当院では泌尿器科でダビンチを用いて多くの症例を手掛けています。
ダビンチは器具の操作性がよく、直腸・結腸の手術に有利
田医師:消化器の領域では、主に直腸がんと結腸がんの手術でダビンチが使われています。手術支援ロボットは狭い部位の手技に適しており、例えば、女性より骨盤が狭い男性で肥満体型の方などに有利です。
基本的に消化器外科の手技として、ロボット支援手術は腹腔鏡の手術と大きな違いはありません。術野の展開の方法が違うだけで開腹手術と同じように病巣の腸をある程度の長さで切り、周囲のリンパ節を郭清して腸をつなぎます。
以前、直腸の手術は腹腔鏡で行っていましたが、腹腔鏡の機材はまっすぐにしか入りません。ダビンチは器具の先が曲がるので、直腸に対してアプローチしやすい点が長所です。お腹の中から肛門側の腸を切りやすくなって縫合の方法が変わり、術後の肛門の機能が改善しました。残さなくてはいけない神経などの組織がよく見えるので操作しやすく、合併症が減ったと感じます。
ダビンチは術者に使いやすいメリットがあるが、トレーニングも必要
田医師:ダビンチは細かい処置が必要なとき、小さい操作がしやすいモーションスケールの設定があります。例えば、開腹・腹腔鏡手術では自身の手が1センチ動くと先端も同じだけ動きますが、ダビンチでは動きを3対1や1対1に変えることができます。どうしても手ブレなどが起こりますが、その影響を抑えられるのも特徴です。
村上医師:一方で、ダビンチXiでは触覚が感じられないので、トレーニングが必要です。必要があれば助手の先生に鉗子で触って、剥離を手伝ってもらうことはありますが、慣れてくると視覚で引っ張った感触や硬さが分かるようになります。また、腹腔鏡と同じように扱うと強く掴んでしまい、組織を挫滅させるリスクがあるので、少し弱めに掴むコツが必要です。器具に慣れるために練習や経験が必要なのは、他の手術と同じでしょう。
田医師:ダビンチを使う際の触覚について、外科学会の発表で「目触覚」という言葉を聞きました。トレーニングによって視覚で組織の状態を判断する感覚です。腹腔鏡の術野は2D画像が多いのですが、ダビンチは3Dのバーチャルな立体像を拡大して見られます。
腹腔鏡手術との大きな違いに、助手の力が影響しない点があると考えています。通常、手術では術者の力量だけではなく、助手やカメラアシスタントのスキルが求められます。助手が術野をうまく展開できると手術がしやすいのです。ロボット手術では自分でカメラを操作して視野を展開するので個人の力量に委ねられ、よくいえば成績が安定します。周囲からアシストや指導は入れやすい設計です。
それぞれの手術法の特徴を把握し、最適な方法を選択
田医師:ダビンチは比較的新しい装置なので、長期成績で腹腔鏡と比べて優越性を示すRCT(ランダム化比較試験:Randomized Controlled Trial)のデータが不足しているという考え方1)もあります。また、デメリットとしてダビンチの手術は時間がかかる点を指摘されます。緊急手術には開腹手術や腹腔鏡手術の方が早く対応できます。コストについては腹腔鏡の方が普及している分、抑えられますが、ロボット手術が広がると変わる可能性もあるでしょう。
村上医師:ダビンチは拡大した視野が得られ、鉗子の動きに自由度があって縫合しやすく、出血が減らせるメリットがあります。頭を下げて手術するのも出血が減る理由の一つと考えられています。
ダビンチの手術で患者さんの頭を下げる体勢がリスクにならないか、脳動脈瘤や緑内障がある方は脳外科や眼科の先生に相談して確認が必要です。肥満の患者さんは術者が視野を展開できるので、ロボット手術が向いていると思います。組織の癒着があるケースも視野を拡大し、鉗子を入れて操作するのにダビンチは適しています。いずれにしても、患者さんに合わせた手術法の選択が大切です。
ダビンチを治療の選択肢の1つとして、総合的によりよい治療を
村上医師:手術支援ロボットは治療の選択肢の1つで、これまでの開腹手術や腹腔鏡手術の積み重ねの上にあります。前立腺がんを開腹手術する病院はほとんどなくなり、ロボット支援手術で治療する施設で行うようになってきました。胃や肝臓、膵臓など、ほとんどの臓器でロボット支援手術に保険が通りつつあります。規定されている症例数など、ダビンチを使用できる施設基準が広がると、さらに活用が進むでしょう。当院ではダビンチを使う手術に約10年の経験があり、術者のスキルや病院での運用システムの実績があります。私たちはこれまでの経験を活かして、さらに貢献していきたいと思います。
田医師:当院では早くからダビンチを導入し使用してきたため、スタッフも扱いに慣れています。どの症例にロボットを使うかは、多くの施設で適応が決まっています。腹腔鏡とダビンチでどちらが早く手術を受けられるか、手術枠が関係する場合もあるでしょう。当院は患者さんの手術があまり先にならないように、臨機応変に対応しています。
当院の特徴は、ダビンチを使った治療に限らず、患者さんが来院されてから手術までの待機が短い点です。また、院内連携がスムーズであることから合併症を持つ患者さんの診療にも長けているといえます。総合的に判断して早く的確な治療ができるように力を尽くしますので、ぜひご紹介ください。
横浜市立みなと赤十字病院
横浜市立みなと赤十字病院は横浜南部保健医療圏の中核病院として二次医療機能を提供しています。 また地域がん診療連携拠点病院として、手術支援ロボットによる低侵襲手術、最新の抗がん薬を用いた治療やゲノム医療にも対応しています。
所在地
神奈川県横浜市中区新山下3丁目12番1号
病床数
634床(一般584床、精神50床)
URL
https://www.yokohama.jrc.or.jp/