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患者さんの就労状況も考慮し、スムーズな連携でよりよい肺がん治療を

Doctor's interview

LUNG
CANCER

関東労災病院
呼吸器内科部長

患者さんの就労状況も考慮し、
スムーズな連携でよりよい肺がん治療を

関東労災病院はがん診療連携拠点病院として、地域のがん治療に貢献しています。

肺がんの治療について、呼吸器内科の西平隆一部長と呼吸器外科の五来厚生部長に伺いました。

労災病院ならではの就労支援と横のつながりが特徴

西平医師:当院は高齢の患者さんも多く、特別に働いている人を優遇するわけではありませんが、就労支援や勤労者医療に力を入れてきました。労災病院全体として就労支援に関するデータベースを構築しており、外来の一般的な問診と同時に就労状況を尋ねています。患者さんの希望があれば就労支援の部門で、社会保険労務士に治療と仕事の両立や公的な制度について相談できます。がんに特化した体制ではなく、どなたでも利用可能です。がん治療で外出制限があるケースなどに役立つでしょう。肺がんは65歳以上の患者さんが多いのですが、定年退職後にパートタイムで仕事をされている方や自営業の方もいらっしゃるので、気楽にご相談いただきたいと思います。

五来医師:肺がん診療に携わる呼吸器外科、呼吸器内科、放射線科、腫瘍内科で診断や治療について週1回、カンファレンスをしています。お互いの科を紹介するなど、垣根が低く横のつながりが強いのが当院の長所です。

患者さんの就労状況も考慮し、スムーズな連携でよりよい肺がん治療を

西平医師:呼吸器内科と呼吸器外科は同じフロアにあり、必要があればその場で診てもらって相談できるので、時間のロスを少なくできます。ご紹介いただいた地域の先生には、カンファレンスを通して診断と治療方針が決まった段階で紹介状のお返事をする方針です。地域の先生には専門家として不足なく情報をお返ししたいと考えています。

レントゲンの二次読影や肺がん治療で地域医療に貢献

五来医師:コロナ禍以前は、私たちが川崎市の検診のレントゲン画像の二次読影を担当する際に、近隣の開業医の先生にご自分で撮ったレントゲンを持参していただき、膝を突き合わせて読影していました。今は働き方改革もあり、送られた画像を読むだけになりましたが、専門の科として力になりたいと思っています。この地域の4つの医療機関で、合同の勉強会も行ってきました。

西平医師:肺がんのご紹介では検診施設や他院で撮影したレントゲンで異常を疑う症例のほか、さまざまな状況があります。地域の先生からのご紹介では、画像を見てすぐ手に負えないから診てほしいというケースのほか、治りの悪い肺炎だと思って治療していたけれども治らないという症例がありました。この所見があればがんだと明言するのは難しいので、先生方のご判断でがんが疑われる場合は早めにご相談ください。スペシャリティが高い開業医の先生もいらっしゃるので、先生方のご判断を尊重しています。病院と診療所の機能分担も大切なので、それぞれの役割を果たすことが地域医療の向上につながると考えています。

侵襲が少ない気管支鏡検査やCTガイド下生検

西平医師:画像でがんが疑われて症状がない場合、呼吸器内科が最初に診察します。肺がんの疑いがあればCTや腫瘍マーカーの検査を行い、必要があれば呼吸器内科で気管支鏡の検査を行います。腫瘤影があって気管支鏡のアプローチが難しい場合は、CTガイド下生検が可能です。CTガイド下生検は放射線科も含めたカンファレンスで検体の採取法を含めた検討を行い、1泊2日で入院し、生検の手技は放射線診断科が行います。

五来医師:気管支鏡で診断がつかない場合は、診断的な手術も検討しますが、当院は放射線科がCTガイド下生検を積極的に行っています。手術より侵襲が少ないCTガイド下生検で診断がつく症例は多々あり、進行がんのため手術で根治できる段階でない患者さんなどには大きなメリットがあるでしょう。

患者さんの就労状況も考慮し、スムーズな連携でよりよい肺がん治療を

完全鏡視下胸腔鏡手術が標準、進行肺がんには拡大手術も

五来医師:呼吸器外科では、完全鏡視下胸腔鏡手術を標準術式にしています。開胸手術にくらべて傷が小さめで術後の痛みが少なく、入院期間も短くなるため、安全を心がけて行っています。開胸手術では側胸部を20-30センチ開くのに対して、胸腔鏡手術では最大で4センチの傷を1か所と1センチ程度の傷を3か所開けるだけで術後の見た目がきれいです。開胸手術は肋骨を切るので、肋間神経の痛みも強く出ます。開胸手術の方が大きく開いて手術がしやすいイメージがありますが、私が医師になった約20年前には胸腔鏡手術が行われており、術野を拡大して細かいところも見られるので私たちの世代では開胸手術のメリットはあまり感じません。完全鏡視下胸腔鏡手術は、すでに成熟した方法と考えられています。

進行肺がんでは、がんが浸潤した胸壁や肋骨などの臓器を合併切除する拡大手術が必要です。片肺を取る状況でも気管支形成をすれば、がんを切除して肺の上葉や下葉を残せる可能性がある場合があります。そういった症例には気管支形成や胸壁の再建を当科でも積極的に行っています。

患者さんの就労状況も考慮し、スムーズな連携でよりよい肺がん治療を

肺がん手術の現状

五来医師:肺がんの進行度で、I期からII期までは基本的に手術の適応です。ⅢA期になると患者さんそれぞれの進行度や全身状態、既往症や希望によって手術するかはケースバイケースになります。ⅢB期以降は化学療法や放射線治療、Ⅳ期に関しては化学療法が適応です。

肺がんの組織型のうち、小細胞肺がんは化学療法や放射線治療が中心になるので、呼吸器外科に回ってくる患者さんは基本的に非小細胞肺がんです。腺がんや扁平上皮がんが多いのですが、ステージによって手術適応は決まっていて組織型に違いはありません。術後補助化学療法には、最近新しいエビデンスが出ています。これまで長くプラチナ製剤併用療法とデガフール・ウラシルの内服がスタンダートでした。近年、プラチナ製剤併用療法に補助化学療法として免疫チェックポイント阻害薬や分子標的薬を追加する治療が出てきました。こうした術後の補助化学療法は基本的に当科で行っています。術後の再発治療は、呼吸器外科、呼吸器内科、放射線科などで協力して治療を行っています。

私が医師になった約20年前、再発した症例の年単位の予後は難しいイメージでした。今は長期生存される患者さんもたくさんいらっしゃり、分子標的薬や免疫チェックポイント阻害薬の進歩は大きいと感じています。術後の再発症例に対して、放射線治療も必要に応じてご紹介します。

術後の肺機能については、術前に呼吸機能の検査をして、残存呼吸機能の予測値を計算します。予測値から、手術適応を判断しています。呼吸機能検査が不良の場合は、術後に在宅酸素が必要になる、あるいは息切れがでる可能性を説明し、ご本人や家族と手術をするか相談しています。

呼吸器内科は肺がん治療のゲートキーパー

西平医師:内科では、化学療法の初回や薬を変えた場合は原則入院していただき、副作用がなく可能であれば2回目以降は外来で治療するケースが多いです。患者さんの希望によって2回目以降も入院で行う方もいます。免疫チェックポイント阻害薬の導入だけであれば3日くらいの入院になります。細胞障害性抗がん剤のケースでは、骨髄抑制がどの程度になるか初回では分からないので概ね2週間程度の入院となります。分子標的薬を使う場合は副作用で薬を中断、変更する場合があり、10日から2週間程度の入院になるでしょう。

当科は手術以外の治療の窓口、いわばゲートキーパーです。抗がん剤の薬物療法や放射線治療で入院になる場合、呼吸器内科で対応します。来院されて治療ができないケースでは緩和的な処置を行い、痛みを取るために放射線の照射をして、在宅治療の手配、あるいは転院や施設の紹介が必要でしょう。若年の患者さんで新薬を使う方が良い可能性があれば、がん専門病院の受診を提案するケースもあります。

患者さんの就労状況も考慮し、スムーズな連携でよりよい肺がん治療を

前がん病変やリスクがあるケースのフォローアップを

西平医師:労災病院なのでじん肺、アスベスト関連の肺疾患の診療もしています。肺がんになる確率が通常の方より高いので気をつけて診ていますが、タバコを吸っている方も多く、労災申請の際は、発症の原因を詳しく確かめる必要があります。アスベスト肺に発症した肺がんは、呼吸機能の低下が著しい場合、通常の肺がん治療が難しい事があります。

五来医師:人間ドックなどでCTを撮る機会が増え、すりガラス陰影(GGO:ground glass opacity)が見つかるケースがあります。CT所見によっては肺がんの前がん病変である異型腺腫様過形成(AAH:atypical adenomatous hyperplasia)や炎症性病変なども含まれており、すぐに手術適応はない場合もありますが、いずれにしろ専門的なフォローが必要です。自覚症状がないので、サイズの増大や濃度の上昇があれば診断も兼ね手術に踏み切ります。

肺がん治療、呼吸器疾患で地域に貢献したい

西平医師:肺がんは完全に治って当たり前という病気ではありません。だからこそ就労状況も含め、患者さんの現状にあったご提案を心がけています。当院は呼吸器外科や放射線科、腫瘍内科と連携し、地域の先生に安心していただける肺がん治療を提供したいと考えています。ご紹介の際は画像資料の添付をお願いします。その他の検査は必要ありません。X線の二次読影も受けておりますので、お気軽にお問い合わせください。

五来医師:患者さんに適した治療を、できるだけ低侵襲の方法で提供できるように日々、こころがけています。X線で少しでも肺がんの疑いがあるケースは、できるだけ早期にご紹介ください。地域の先生に何かがあったらまず関東労災病院に紹介しようと思っていただけるよう引き続き精進してまいりますので、今後ともどうぞよろしくお願いいたします。

関東労災病院

がん診療連携拠点病院でもある関東労災病院は川崎市中部地区の中核病院として24時間救急医療を実践し、地域医療連携にも力を注いでいる高度医療、二次救急を重視した急性期型の総合病院です。

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