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消化器病センターで地域と連携してがんの早期発見、低侵襲治療をめざす

Doctor's interview

Gastroenterological
Center

横浜市立みなと赤十字病院
消化器病センター

消化器病センターで地域と連携して
がんの早期発見、低侵襲治療をめざす

横浜市立みなと赤十字病院は2023年9月に、消化器内科・消化器外科の枠を越えて消化器を専門に診療する消化器病センターを設置しました。同院は地域がん診療連携拠点病院に指定されており、消化器がんの治療にも力を入れています。センター長(消化器内科部長)の先田信哉医師と副センター長(外科部長)の杉田光隆医師にお話を伺いました。

消化器病センターで内科と外科の垣根なく、よりよい治療を

先田医師:消化器内科の領域では近年、免疫療法や分子標的薬、遺伝子治療といった新しい治療法が出てきました。また、内視鏡や腹腔鏡の手術は内科と外科が協力して行うなど治療が多様化しています。これまで以上に連携が必要となり、センターを設立しました。さらに、悪性腫瘍に対して内科と外科の垣根なく、より充実した治療をする目的もあります。

杉田医師:紹介してくださる地域の先生が外科か内科のどちらに依頼すればいいのか迷われるケースもあったと思います。診断がついてから外科と内科の受け渡しをすると、タイムラグが生じます。センターでは検査や事前の処置を決める段階から一緒に診られるので、よりスピーディーに治療が進み、患者さんにメリットがあります。

消化器病センターで地域と連携してがんの早期発見、低侵襲治療をめざす

先田医師:内科では低侵襲治療が特色です。例えば、がんを早期発見して小さいうちに取れるものは内視鏡で取っています。以前は外科でドレナージをしていた膿瘍の一部は、超音波内視鏡でアクセスできるようになりました。頻度の高い消化管出血には内視鏡で止血し、止まらない場合は血管造影を行い、速やかに処置しています。以前に比べて内科が外科に近づいているため、どこから外科で治療するかを決める際は消化器病センターで情報を共有し、患者さんによりよい方法を提示します。

杉田医師:一般的に内科の先生は個人か2人の担当制で診ていますが、外科は手術が1人ではできないので科全体のチームで治療します。センターでは消化器疾患の診療の初期の段階から、内科外科全体で共通認識を持って治療にあたれるので、さらに充実した治療体制をとれるでしょう。先田先生も私も肝胆膵が専門で、特に肝臓がんでは連携して治療してきました。社会的な背景、生活環境を配慮したサポートは院内の担当部署やコメディカルと連携して行います。

消化器病センターで地域と連携してがんの早期発見、低侵襲治療をめざす

連携して肝臓がんの新しい治療とフォローを

先田医師:肝臓がんの内科治療が進歩しています。一定サイズ以下の個数の小さいがんに対しては、切除とラジオ波は同等の治療効果を持つとされており、患者さんが選択された場合はラジオ波で焼灼しています。大きい肝臓がんに対しては、従来よりカテーテルで腫瘍を栄養する動脈に抗がん剤や塞栓物質を入れて血流を遮断するTACE(肝動脈化学塞栓術:transcatheter arterial chemoembolization)を行っています。化学療法で切除が難しい大きさのがんを縮小させ、ラジオ波やTACEあるいは外科で手術するコンバージョン治療も当院で可能です。最近は分子標的薬、免疫療法が進歩しており、組み合わせた治療も行なっています。肝臓がんは予後が悪いのですが、進行したケースでも複合療法でダウンステージングを図り、治癒につなげる方法が期待される時代になりました。当院は大規模な治験に参加しており、肝臓がん治療の発展に貢献したいと思います。

杉田医師:外科ではガイドラインの適応に従って、肝臓専門の病院で行う治療を全般的に行なっています。肝切除を行うケースでは肝硬変や慢性肝炎などの肝障害が多く、肝機能が低下している方に安全な治療を行うため、術前の評価が大切です。画像診断によるシミュレーションを徹底して行い、精度を高める努力をしています。例えば、CTをコンピューター解析して3次元画像を作り、取る部分や支配血管の領域のボリューム計算をして何%の切除になるか、どこまで取れるかといった検討をします。腹腔鏡や低侵襲手術を積極的に行い、患者さんに負担が少なくなる工夫をしているのも特色です。内科治療が急速に進み、これまでは切除しかなかったケースも、内科でコントロールして以前より治る時代が来ています。今後、先田先生とディスカッションして適応を詰めていきたいと考えています。

先田医師:肝臓がんは一旦根治とされても5年程度での再発が約8割といわれています。がんが一旦なくなっても肝臓の別の場所から出てきてしまうのです。ガイドラインでは初回治療と同じ流れになりますが杉田先生と私は肝胆膵が専門なので、患者さんも含めたやりとりがスムーズです。

杉田医師:障害肝の術後管理は内科の先生が行なっています。例えば、C型肝炎の治療は肝臓がんの再発抑制になるエビデンスがあるので、肝炎の定期的なフォローをお願いしながら一緒に診てきました。

低侵襲の胃がん治療に腹腔鏡・内視鏡合同手術(LECS)

杉田医師:日本人で最も多い胃がんでは、低侵襲治療が当院の特徴です。昨年は全例、腹腔鏡手術でした。これまで、進行がんは開腹にしていたのですが、上部消化管専門の外科医を中心に、腹腔鏡の治療を広げています。胃粘膜下腫瘍に対しては、内科と合同で行うLECS(腹腔鏡・内視鏡合同手術:laparoscopic and endoscopic cooperative surgery)で胃の機能をできるだけ温存する治療をしています。内視鏡で粘膜をそぎ取るESD(内視鏡的粘膜下層剥離術:endoscopic submucosal dissection)の技術を応用して胃の内側から切除する線を決定し、これを腹腔鏡で胃の外側から見て印をつけた場所を正確に切除することで過不足ない切除が可能です。

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肝臓がんの原因となる肝硬変は、画像診断のご紹介を

先田医師:内科では肝硬変のフォローを重視しています。肝硬変は合併症が多く、食道に静脈瘤があれば定期的に観察して、転ばぬ先の杖で治療する方針です。肝硬変は肝臓がんのリスクにもなります。また、肝硬変の静脈瘤は意外に見落とされているケースも多く、放置すると破裂して吐血するなど命にかかわります。ガイドラインで肝硬変の患者さんは数ヶ月に1回の画像診断が勧められていますが、消化器専門でないと難しいかもしれません。肝臓の数値がおかしかったら、1度はご紹介ください。何もなければそのまま地域の先生に診ていただきます。がんがない肝硬変で静脈瘤もない場合、半年に1回程度当院にご紹介くださると肝臓がんの早期発見につながります。肝硬変の合併症である、静脈瘤に対する内視鏡やカテーテル治療は当院の得意分野です。

消化器病センターで地域と連携してがんの早期発見、低侵襲治療をめざす

肝硬変の原因として以前はC型肝炎が多かったのですが、C型肝炎が内服薬で治るようになり、激減しました。他方最近はアルコールと脂肪肝によるものが増えています。地域の先生の診療所には脂肪肝の患者さんが多くいらっしゃると思います。ASTやALTの数値が高い方に1度はスクリーニングをお勧めください。こちらで精密検査と必要な治療をしてお戻しすれば肝硬変の見逃しが減り、患者さんも先生も安心でしょう。C型肝炎が多かった時代のように肝臓疾患のパスの再開や、肝臓専門外来の設置も検討しています。

糖尿病の急な悪化は膵臓がんの可能性

杉田医師:糖尿病のコントロールが急に悪くなってきたので調べてみると、実は膵臓がんだったというケースがあります。糖尿病の専門の先生はご存知で、急に糖尿病が悪化したので調べてほしいという依頼があります。症状が出にくい膵臓がんが以前より早期の段階で見つかるようになったので、HbA1Cの数値が急に悪くなったときは、ぜひスクリーニングのためにご紹介ください。糖尿病の方は脂肪肝の併発も多く、肝臓疾患もよく発見されています。外科では他に、虫垂炎や胆石、鼠蹊ヘルニアといった疾患が手術の件数としては多く、術後の経過を書いて地域の先生にお戻しています。良性、悪性の腫瘍は定期的な経過観察を一定期間当院で行ったあと、地域の先生にお戻しています。

先田医師:慢性膵炎は膵臓がんのリスクも高く、胆管のつまりや膵がんも起きやすいので定期的に診ています。膵管内乳頭粘液性腫瘍は膵臓に嚢胞を作りますが、実は腫瘍で、大きくなってがん化する場合があるので注意が必要です。他の疾患で画像を撮り、たまたま見つかるケースが多いです。

地域の先生と「横浜消化器疾患研究会」やパスでつながりたい

杉田医師:地域の医師会の先生との連携のため、現在の横浜市立みなと赤十字病院の前身の横浜赤十字病院の時代から年に1回、外科と内科の合同で「横浜消化器疾患研究会」を開催してきました。消化器病センターを通して、地域の外科と内科の診療所の先生が、連携する場を作ることも目指しています。コロナ禍で研究会を中止していましたが、オンラインで再開しました。内科と外科のスタッフ、およびクリニックの先生方が集まって対面で研究会、懇親会を開催し、先生方に当院スタッフの顔と名前を覚えていただけるような会をまた開こうと考えています。

胃がんと大腸がんの術後フォローをお願いする、連携パスをリニューアルして再開する準備もしています。以前は当院からクリニックの先生を逆紹介して5年間、報告をいただいていました。A4の紙1枚で当院オリジナルで作成したパスを運用していましたが、クリニックの先生にも使いやすいように、患者さんの基本情報の記載が充実した、より使いやすい、神奈川県が作成している共通冊子形式のパスを考えています。

お腹の病気は「消化器病センター」宛に

先田医師:がんであっても強い症状が出るとは限らないないので、地域の先生方にはお腹の症状があったら紹介していただくのが一番だと思います。虫垂炎、痔、進行した胆嚢炎などは初めから「消化器病センター(外科)」宛で、そうでない場合は「消化器病センター(内科)」でお願いできればと思いますが、どちらかわからないような場合でも「消化器病センター」宛で送っていただければこちらで判断しますので、気楽にご相談ください。重篤な疾患を見逃さないために、CTを撮るだけでも違います。結果的に何もなくても患者さんは安心されます。当院には専門医、指導医がいますので精査を行い、地域の先生と一緒に拝見できればと思います。

杉田医師:当院は救急にも力を入れています。緊急の対応が必要でお困りの患者さんがいらっしゃった際はいつでも拝見しますので、遠慮なくご相談ください。また当院は地域がん診療連携拠点病院にも指定されており、がん診療にも力を入れています。私も含めて、当院外科の各臓器のスペシャリストは専門病院で修練し、専門的な知識、技術、資格を有した医師が診療にあたっています。また当院はがん専門病院と異なり、特に高齢で心臓疾患など重症の合併症がある方のがん手術にも、専門他科と連携して安全に手術をおこなえる体制を築き、病院全体で積極的に取り組んでいます。この点は各専門診療科を有する当院の大きな強みと考えています。院内外を問わず、他科と連携を強化して、がん診療をさらにパワーアップさせ、地域がん診療連携拠点病院として、地域医療に貢献したいと思います。

手術になる症例の約半分は消化器内科からの紹介です。外科の手術症例を増やすためにはぜひ消化器内科、外科を問わずより多くの患者さんをご紹介いただければありがたいと思っています。

横浜市立みなと赤十字病院

横浜市立みなと赤十字病院は横浜南部保健医療圏の中核病院として二次医療機能を提供しています。 また地域がん診療連携拠点病院として、手術支援ロボットによる低侵襲手術、最新の抗がん薬を用いた治療やゲノム医療にも対応しています。

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