Doctor's interview
YASUAKI
INOUE
名戸ヶ谷病院
脳神経外科部長/脳卒中センター長
確立した技術とチーム医療で
世界レベルの脳神経外科治療を提供
1983年に創立された名戸ヶ谷病院。
長きにわたり千葉県柏市で脳神経外科の診療を積み重ねてきた。2021年に脳神経外科は新体制をとり、33歳という若さの井上靖章氏を新たな脳神経外部長に迎えた。井上氏は、国内外問わず、開頭・カテーテル双方の手術を数多く経験しており、様々なメディア・業界からも注目を集めている。「最高水準を柏にもたらす」という目標のもと、名戸ヶ谷病院の脳神経外科は、日々進化し続けている。
名戸ヶ谷病院の脳神経外科の特色や疾患への取り組みについて、井上氏にインタビューしました。
ロボット工学から医療、そして脳外科医の道へ。
私は、子どもの頃からロボットに魅了され、当初は医学部ではなく、ロボット工学の研究ができる大学への進学を考えていました。しかしながら、諸々の状況があり、通学可能な範囲での大学選びを余儀なくされたこともあり、旧帝国大学医学部への進学をすることになりました。
当時の私は、「医師になりたい」という明確な志向は持っていたわけではありませんでした。そして、大学で過ごす間もその意志は変わりませんでした。医療の世界に関心を抱くキッカケは、医学部4年次に配属された研究室の教授からの言葉でした。彼の提案により、「世界の医療を見てみるためにアメリカに行ってみるのもいい」と感じるようになりました。この時に、海外での医療に興味を抱くようになりました。
「行くなら一番の場所を見てみたい」という思いから、教授にアメリカで最も優れた病院を紹介してもらいたいと頼んだところ、教授はメイヨークリニックを紹介してくれました。偶然にも、私の高校の先輩であり、お世話になった教授の後輩でもある方が、メイヨークリニックの整形外科ラボと太いパイプをお持ちで、話がスムーズに進み、トレーニーとしてのチャンスを授かることができました。これは本当に幸運な出会いだったと感じています。
メイヨークリニックでは、生体の運動解析に関わるバイオメカニクスという整形外科の分野に携わりました。この領域が、私が幼少期から興味を抱いていたロボット工学と重なる部分がありました。通常であれば、整形外科医の道を歩むことになったでしょうが、帰国後、名戸ヶ谷病院の脳外科部長(現在は院長)が率いる、活気に満ちた脳神経外科チームに出会い、その出会いが私の心を捉え、脳神経外科への興味が芽生えました。
脳神経外科は幅広い知識と熟練の技術が必要であり、全身的な視点も求められる分野です。名戸ヶ谷病院の医師たちは、技術、知識、経験を最大限に発揮し、日々患者さんと向き合っていました。その姿勢に感銘を受け、「私も患者さんにとって頼りにされる医師になりたい」という思いが強くなり、脳外科医の道を志す決意をしました。
技術を磨くため札幌禎心会病院へ、そして渡米。
初期研修を終えた後、専門医の資格を取得するために、名戸ヶ谷病院を中心とした後期研修プログラムでトレーニングに励みました。さらなる技術向上を図るため、渡米を検討していました。その際に、自身に独自の強みを築く重要性に気付きました。日本人としての戦い方は、精緻な技術によるバイパス手術のように、微細な領域での差別化が鍵であるという助言を得ました。そこで、世界が注目する分野でトップランナーとされる札幌禎心会病院で脳血管障害について半年間の学びを積み、技術の習得に努めました。オペレーターとして全ての手術を取り仕切り、ハードな手術もこなしていたため、ひと通りの手術に対応できる状態で渡米することができました。
渡米後はハーバード大学Brigham and Women’s Hospitalに属し、さらに技術を磨いていきました。そこで強く感じたのが日本との「デバイスラグ」です。カテーテル手術ひとつとっても、アメリカと日本では使用する医療機器に1~2年のギャップがあります。そのような新しい医療を先回りして、アメリカで治験を行うような医師から実際に学べたことは非常に良い経験でしたし、一番日本に持ち帰りたいと思うことでした。
また渡米したことで、チーム医療や医師の働き方にはアメリカの良さがあり、患者さんへの気遣いや平均的な技能の高さは、日本の良さだと感じることができました。渡米で経験した医療技術を持ち帰り、そして2つの国の医療の良いとこ取りをしたのが、名戸ヶ谷病院 脳神経外科の多職種に渡るチームです。
脳卒中の支援体制を整え、多様なアプローチを通じて予防啓発にも努める
脳卒中患者が緊急時に、搬送先を選択することはほぼ不可能です。時間が命や後遺症に直結する厳しい状況下では、最も近い医療機関に運ばれるためです。その結果、名戸ヶ谷病院の周辺地域の方々は自動的に当院に運ばれることが多くなります。地域医療の向上を目指すならば、脳卒中の治療精度を徹底的に高め、患者さんやそのご家族が「お願いだから名戸ヶ谷へ搬送してほしい」と語れるほどの診療環境を築かなければいけません。そのため、2021年に脳卒中センターを開設し、更なる診療の充実に取り組みました。結果として、名戸ヶ谷病院の脳卒中センターの存在が地域社会に認知されたと感じます。
確かな脳卒中治療を提供することは不可欠ですが、それ以上に大切なのは脳卒中の予防だと考えています。本当に良い医療を実現するためには、脳卒中を未然に防ぐことが肝要です。この目標に向けても積極的に動き出しています。地域のクリニックや医療機関との連携を強化し、市民への啓発活動を展開しています。多くの方々が脳卒中予防の方法やその重要性について知識を持っていない現状を改善するために努力しています。脳卒中という言葉だけが広まり、その実態が薄れてしまう状況を変えたいと思っています。
例えば、がんといった疾患は国全体で啓発活動が行われ、多くの人々が予防や検診に関する情報を持っています。しかし、脳卒中の啓発はまだそれほど進んでいません。これは重要な社会課題であり、脳卒中が未然に防げる可能性があることを広く知ってもらいたいと願っています。そのためにイベントの開催や講演の実施など、積極的に啓発活動を行っています。何よりも、脳卒中は予防可能であることを、多くの人々に理解してもらいたいです。
スペシャリストとコラボした名戸ヶ谷病院ならではのMVD(微小血管減圧術)
当院のような地域の医療を担う市中病院においては、大学病院等が対応するような難しい病気だけでなく、地域に広くみられる疾患の適切な診断や治療も重要な使命です。特に、顔面神経痙攣や三叉神経痛はその有病率の高さから、眼科や歯科の受診患者にも多く見受けられる疾患ですが、脳神経外科にも深く関わる疾患です。
名戸ヶ谷病院脳神経外科では、湖東記念病院脳神経外科の井上卓郎主任部長との協力を通じてMVD(微小血管減圧術)を中心とした治療を提供しています。井上卓郎先生とは個人的に以前から親しくさせていただいており、MVDの優れた治療技術と膨大な経験を保有し、その手法に絶対的な信頼を寄せられています。「MVDは外科医の技術によって確実に100%近い根治率を実現できる治療法である」と熱く語る彼の治療は、もし必要になったら私自身も手術を受けたいと思うほどの質の高さです。
世界トップクラスの専門家のノウハウも積極的に学び取り、市民の皆さんに対して提供する医療の品質を向上させています。こうした連携を通じて、私達は地域における医療の質をさらに高めていきたいと考えています。
名戸ヶ谷病院脳神経外科の2つのこだわり
1.卓越した手術技術の自負
私達は、優れた手術技術を自信を持って提供しています。独自の技能を有し、他の病院に搬送されてしまったら手術不可な症例においても多く対応してきた実績があります。
技術は魔法の杖のようなものではなく、基本を忠実に実行することが重要であり、その中にこそ成功の鍵があるのです。言葉で言うのは簡単ですが、忙しい診療の中でも、徹底して実行するとなると容易ではありません。例えば、合併症を避けるためには慎重な確認が欠かせず、適切な確認なく治療を終えると、後に合併症が生じる可能性があります。私はしばしば患者さんに対して「僕は非常に頑固な性格です。手術が完璧でなければ満足しません。」と笑顔で伝えます。当院では、安全性が保たれる方法を選択し、根治を目指すためにありとあらゆる必要な手技をすべて検討して、実施するという執着心をスタッフ全員が持っているからこそ、高い技術が担保され自信に繋がっています。
2.協力を重視したチーム医療
明るく協調性のあるスタッフが多いことも名戸ヶ谷病院脳神経外科の特徴で、チーム医療を大切にしています。患者さんが入院した際、主治医制ではなくチーム制を採用しています。そのため、どの医師に相談しても患者さんの状態を理解し、真摯に対話を行うことができるようになります。患者さんの意向を主治医に伝える必要はありません。深夜であっても、患者が医師に話しかけると、必ず丁寧に説明を行うようにしています。常に患者さんの側に立ち、親身に対応することを優先することを大切にしています。
信頼を基盤に地域医療の連携推進
信頼を築き上げることを大切に、地域の医療機関と緊密な協力を積極的に進めています。介護老人保健施設やケアマネージャー、地域包括ケアの関係者、そして近隣のクリニックの医師たちを招き、「こんな症状がある場合、ぜひ当院で検査を受けてみてください」という勉強会を定期的に開催しています。また、開業医の先生方への支援も行っており、症例を診断していただけるならば、患者さんをご紹介させていただくという姿勢で全力の協力を惜しまない取り組みを行っています。
「お困りの患者さんはいませんか?」と尋ねるスタンスで接し、その患者さんを診察し治療を行い、元気になった患者さんは紹介元の開業医の先生に帰っていただくプロセスを大切にしています。患者さんやご家族が安心を感じる治療結果を出すことで、「先生の紹介で良い治療を受けられました。」と感謝が生まれ、「困った時に名戸ヶ谷の井上先生に頼んで正解でした。」という声が広まっていくものだと思います。今後も、このような積み重ねを通じて、信頼関係を築いていきたいと思っています。
名戸ヶ谷病院
1983年に38床の救急病院として柏市に開院。全人的医療を目指し、地域医療機関や施設との機能分担や連携を図り、救急病院としての機能を果たす。 「あらゆる患者さんの受け入れを拒否しない」という方針を貫き通し、様々な改革を行っており、柏市の地域医療を支えている。
所在地
千葉県柏市新柏2-1-1
病床数
300床 (2023年8月)
URL
https://www.nadogaya-neurosurgery.com