Doctor's interview
SUMIYO
YAMASHITA
「センター方式」の
心臓リハビリで
心不全パンデミックに備える
ADLとQOLの向上で
介護者の負担も軽減できるリハビリを提供
創立大正15年という長い歴史を誇る厚生院が、2023年4月より名古屋市立大学医学部附属みらい光生病院として新しく生まれ変わりました。最大の特徴は診療科を横断した「センター方式」で、人生100年時代を見据えて複数の診療科で患者様を手厚くサポートします。今回は循環器内科の山下 純世教授に「心不全パンデミック」と表現されるほど心不全の患者数が急増している状況と、重度の患者様も受け入れている心臓リハビリについて伺いました。
複合的に症状へアプローチできる
「センター方式」
みらい光生病院は、名古屋市が運営していた厚生院から診療体制を大きく変え、名古屋市立大学医学部附属病院として2023年4月に新たなスタートを切りました。超高齢化を迎える社会のニーズに合わせ、新しい形の医療を提供するために大学病院の附属病院として生まれ変わりました。
最も特徴的な点が診療科を横断する「センター方式」です。高齢の患者様は1つしか疾患を持たないことはまれで、たいていは複数患っている方がほとんどです。主訴に対して考えられる原因や疾患が様々な臓器にわたります。
例えば主訴が「息切れ」の場合、ご本人は「年齢のせいだ」と思われて長いこと未受診のケースも多く、心臓、肺、血液(貧血)、あるいは整形外科的な問題なのか、確認するべきポイントがたくさんあります。しかし専門の診療科を受診し異常がないと判断されると、他のポイントは確認されず経過観察となるのが現状です。
根本的な改善のために、症状に対して複合的にアプローチする「センター機能」が高齢化社会では求められています。
心不全パンデミックの到来に備える
心不全はすでに非常に多い疾患ですが、超高齢化社会を反映し、今後さらに増える傾向です。多くの患者様であふれかえる、いわゆる「心不全パンデミック」の入り口に差しかかっていると思われます。
当院では急性期病院からリハビリ目的の転院も承っています。慢性心不全の患者様は、命に関わる不整脈など急変リスクや心不全再憎悪リスクを抱えながら糖尿病などを合併しているケースも多く、一般病院では対応が難しい場合もあるかと思います。最近は新しい心不全治療薬も増えていますので、薬剤の「選択、順序、投与量」などの判断においても大学附属病院としてお役に立てると考えています。
当院には循環器専門医や心臓専門のリハビリスタッフがそろっており、一定の条件はありますが、「センター方式」で重度の患者様であっても受け入れる体制を整えております。
シームレスな治療を目指して
急性期病院からご紹介いただく場合、入院から退院までの2週間という限られた時間を最大限有効に活用する必要があります。特にサルコペニア傾向など長期のリハビリが必要と思われる症例については、受け入れ準備のためできるだけ早く患者様の情報を提供いただけますと幸いです。
高齢患者様は心不全が落ちついたと思ったら誤嚥性肺炎を引き起こしてしまうなど転院タイミングが難しく、転院チャンスを逃さないことがリハビリ成功のポイントといえます。
地域のクリニックの先生には「少しでも気になる症例がありましたら、お気軽にご紹介ください」とお伝えしております。息切れ、足のむくみ、酸素飽和度の低下、BNPの上昇などが見られましたら当院に是非ご紹介いただければ幸いです。患者様のご負担を考慮しつつ、最短で当日中に心不全の診断、原因精査を行い、その後は必要に応じて当院での外来リハビリへとおつなげいたします。
下記の想定ケースをご参考に、患者様の状況に応じて柔軟にご紹介窓口をお選びください。
心不全が疑われる、あるいはすでに診断されている方:循環器内科宛て
症状の原因疾患が不明な場合:内臓機能回復センター宛て
外来でのリハビリのみをご希望の方:リハビリテーション科(先進リハビリセンター)宛て
地域の心臓リハビリを引き受ける存在として
当院では、心不全の重症度が比較的高く、合併症をお持ちでリスクが高い方も対象としています。
ハイリスクな心臓リハビリを支えるのが、循環器内科およびリハビリ科の医師、薬剤師、臨床検査技師、理学・作業療法士、管理栄養士等からなる多職種のチームです。循環器内科とリハビリ科で日常的にカンファレンスを行い、必要な場合には薬剤師による服薬指導や管理栄養士による介入を行います。入院から退院まで総合的にリハビリをサポートするスタッフとして、心臓リハビリテーション指導士が在籍しています。
当院に循環器疾患で入院された患者様は、ほぼ全員リハビリを受けられます。比較的年齢層が高く、かつADLが低めという傾向にあり、せん妄状態や認知機能の低下が見られることも多くあります。個々の患者様の状況に合わせて個別に作成したリハビリ実施計画書に沿って実施します。
個別のゴール設定で
目的に応じた心臓リハビリ
ADLが非常に低い方、いわゆる寝たきりの状態が長い方は食事のためにベッドを少しギャッジアップしただけでも血圧が下がってしまいます。まずはベッドサイドでバイタルサインをモニタリングしながら、ゆっくりと体を起こすことがリハビリの第一歩です。しっかり体を動かすことのできる患者様には、積極的に有酸素運動や筋力トレーニングを行います。
当科の杉本准教授は負荷心エコーに精通しており、リハビリ科のスタッフだけでは調整に苦心するような症例に対する運動負荷量の決定を負荷心エコーと心肺運動負荷試験(CPX)でサポートします。
高齢者はフレイルやサルコペニアを合併している方も多く、栄養状態の改善をはかりつつ、車椅子への安全な移乗を目標に心肺機能も高めていきます。患者様のQOL向上とADL改善が第一の目標ですが、介護をする方の負担軽減にも重点を置くのが当院のリハビリの考え方です。
当院には大学病院レベルの最新機器がそろっており、ベテランスタッフが診断にあたります。
循環器内科 | 心臓MRI、安静時心電図、負荷心電図、ホルター心電図、イベント心電図、24時間自由行動下血圧測定、心エコー、動脈硬化検査、血管内皮機能検査、無呼吸検査(睡眠ポリソムノグラフィ)、簡易型無呼吸検査(アプノモニター)、二次性高血圧の鑑別、心不全治療、トルバプタン導入目的入院、血圧コントロール入院、ほか |
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リハビリテーション科 | 心臓リハビリテーション指導士および理学療法士による運動療法、フレイル、サルコペニア、ロコモティブシンドロームの評価(重心動揺検査、動作解析評価、DEXA法、体組成、体液量等測定)ほか |
複数人でチェックしながら
安全なリハビリを提供
当院は特に重症心不全の患者様や高齢かつADLが低い方を主な対象としているため、なによりも患者様の安全を確保できるようチェック体制を整えております。理学療法士が担当している患者様の状況を確認できる個別モニターに加え、実施中の患者様全ての状況が一目で分かる大型ディスプレイ表示を用いて、複数の目で見守り、危険な不整脈が発生した場合などには即座に対応します。患者様の状況をきめ細やかに確認することで、転倒・転落予防だけでなく心不全憎悪サインを見逃さずADLの回復をはかります。
心不全の状況にもよりますが、退院までの期間は薬の調整も含めておおよそ1~2カ月が目安です。心機能やせん妄症状が落ち着いて、コミュニケーションが取れるようになるとADLも上がり、リハビリの効果も高まります。不安定な歩行よりは安心な車椅子での移動など、個々の患者様に合わせたADLのゴールを目指します。
当院では入院時に全症例に対してソーシャルワーカーが介入します。入院期間中に状況が変化する可能性もあるため、自宅退院を希望される方にもご要望を伺って今後のプランを提示しています。また、外科的な処置が必要になった場合は名古屋市立大学の附属病院群で対応し、その後再び当院でリハビリを継続する連携体制も整っております。
人生100年という超高齢化社会を見据えて
みらい光生病院はこの春から大学の附属病院として生まれ変わりました。質の高い医療の提供は言うに及ばず、医療人の育成も大学の責務です。学内スタッフ、さらには近隣の病院を含めた医療人のスキル向上に貢献できるよう勉強会の開催などを行い、大学の持つリソースを市民の皆様に還元するよい流れを形成いたします。また患者様と訪問看護ステーションなど、地域の介護を支えて下さる事業者との連携もさらに深めたいと考えております。
人生100年時代、年齢を重ねても自立・自活できる心身共に健康な状態の維持が求められます。そのためには、地域全体で患者様を支えることが非常に重要です。名古屋市における心不全患者様の予後改善を目的として、愛知医科大学、名古屋市立大学、名古屋大学、藤田医科大学の4大学および関連病院、さらには医師会の先生方を交えて、「名古屋市心不全連携協議会」が立ち上がりました。その幹事を私が、また副副幹事の一人として当科の杉本准教授が務めてまいります。「心臓リハビリならみらい光生病院」とおっしゃっていただけるよう、地域の心臓リハビリ拠点としてこれからも精進してまいります。
名古屋市立大学医学部附属 みらい光生病院
2023年4月1日より名古屋市厚生院附属病院から「名古屋市立大学医学部附属みらい光生病院」として新たな診療体制でスタート。様々な疾患に対して、関連する診療科が連携して横断的に診療を行う体制を整えるとともに、認知症やフレイルへの対応のほか、先駆的な技術を駆使したリハビリテーションを実施。
所在地
名古屋市名東区勢子坊二丁目1501番地
病床数
140床
URL
https://w3hosp.med.nagoya-cu.ac.jp/miraikousei/