Doctor's interview
ATSUSHI
OKAWA
横浜市立みなと赤十字病院
院長
前向きに優れた医療インフラを活用して、
地域に貢献したい
最後の砦としての役割を意識
横浜市立みなと赤十字病院は一般的な病院がシステムや採算性で受けにくい症例に対して、適切な治療を行う使命を持つ病院組織です。特に救急医療に特化しており、断らない救急として当院は2022年、1万5,153台という多くの救急車を受け入れました。もう1つの特徴は、横浜市の政策的な医療を実践する任務があり、不採算医療も担っている点です。小児科や精神科、周産期の患者さんなど、ほかの病院が難しい症例に対しても、横浜市の要請で受け入れをしています。
さらに災害拠点病院にも指定され、災害医療も想定しています。東南海地震や東京大震災が仮に起きた時には機関病院の務めを果たす必要があるでしょう。このように、当院は「最後の砦」としての役割を意識しています。
「ミニ大学」として専門的な治療が可能
当院は各大学から中堅の働き盛りの医師が数多く派遣されており、それぞれの科が充実しています。たとえば一般病院では少ない脳神経内科も標榜し、脳梗塞の患者さんの合併症に対応するなど幅広い診療が可能です。専門性の高い感染症内科医も所属しています。整形外科では手外科、関節外科、めずらしい外傷の専門家がおり、レベルの高い診療を提供できる体制です。
めまいの外来では全国的に有名な医師がいます。アレルギーは横浜市からの要請で重点化しており、アレルギー科、膠原病リウマチ内科、小児科、皮膚科、呼吸器内科、耳鼻咽喉科、眼科が互いに協力し、アレルギー医療を提供しています。心臓血管外科の治療成績は非常に安定していると評判です。初期臨床研修、後期研修にも毎年多くの応募があります。
優れた医療インフラがあるので活用し、地域に貢献したい
着任してすぐに、本院の医療リソースが十分に活用されていないことに気づきました。当院には36の診療科があります。救急医療、集中治療専門医が多くいるのが特徴です。救急センターは拡張工事を始めるところで、さらに多くの救急車の受け入れが可能になるでしょう。小児科医は9名、精神科医は9名と、通常は経費的に配置できない数のドクターが所属しています。
地域の先生方に、当院をうまく使ってほしいのです。たとえば小児科の夜間休日の急な発熱や外傷は、診療所の先生にとって負担ではないでしょうか。ほかにも精神疾患のある方の急激な変化や急性腹症などは受けにくいと思います。そのような際、救急車を呼ぶほどでなくても当院に紹介してください。打撲、転落などの外傷も対象として考えています。働き方改革が叫ばれている今の時代、地域の先生方にはお困りのケースがあるでしょう。治療後はすぐに逆紹介いたしますので、ご遠慮なくご紹介ください。
一般の急性期病院でも受け入れをためらう症例に対して、積極的に取り組むことで地域に貢献していきたい、あるいはそのための病院であるともっとアピールしたいと考えています。今後の取り組みとして、病院や診療所の先生から電話1本いただければすぐに患者さんを受けられる、相談電話ホットラインの拡充を図っていきます。
ポストコロナ時代の今、地域医療連携を回復する
コロナ禍ではダイヤモンド・プリンセス号が話題になった頃から、横浜エリアで圧倒的な数の新型コロナウイルス感染症の重症患者さんを受け入れてきました。しかし、この期間にこれまで培ってきた一般診療における地域医療連携のつながりが途絶えた面があります。コロナ以外の症例の入院や手術の制限をする必要があり、また、地域の先生方との対面での会話も難しい状況が影響したと思います。今年からはもう一度、地域医療に対する体制を整えて最後の砦としての立ち位置を回復したいと考えています。
がん診療のネットワークからこぼれるケースを受け止める
当院のがん診療では呼吸器や消化器などの臓器別に、内科と外科の先生が密な連絡を取り合って治療しています。血液内科の医師も多く、血液のがんの化学療法も可能です。ブレストセンターでは乳がんや乳腺の病気を扱い、がんの手術や薬物・放射線療法、再建、サポートまで専門的に治療しています。放射線科では強度変調放射線治療(IMRT)の機器を導入する予定で、大学病院レベルの精密な放射線治療が可能になるでしょう。
がん専門の大病院では、がんの治療に特化する反面、全身疾患の合併症のある患者さんは、診療が困難な場合があります。当院では糖尿病や血液透析、循環器疾患も対応できるので、合併症のあるがん患者さんの受け皿でありたいと思います。コロナ禍では重症患者さんを多く引き受けてきましたので、総力戦には自信があります。地域医療の先生方は、どこに相談するか迷うような他病をかかえた患者さんを、ぜひ積極的にご紹介ください。
医療安全や医療の質の評価の経験がある
私は東京医科歯科大学で教育や管理に携わり、医療安全のシステムを作ってきました。国立大学の医療安全協議会の会長を4年間つとめていました。もう1つ、医療の質をどう評価するべきか解析する仕事もしました。簡単にいうと、軽い患者さんをたくさん診ると評価が上がるような、よくみかける基準では、難しい病気の最終的な治療を行なっている国立大学の評価は下がってしまいます。集学的治療は、多くの専門家が治療法を組み合わせて行う高度な治療です。大学病院や日赤のように総合的に難しい治療に取り組む病院に対して、一般の方の理解を得られるように伝えていきたいと思います。
外国人患者受け入れの認証を受けている
当院には、療養・福祉相談室および入退院支援センターがあり、がん相談や認知症、経済的社会的相談等さまざまな相談の他、患者さんの入院前から、多職種が介入し退院後の療養を見据えた支援を行うなど、患者さんの支援体制が充実しています。また、横浜市中区の住民の11%は外国籍です。3年前に外国人患者受入れ医療機関認証制度 (JMIP)の認証を受けました。院内の表示や配布物の外国語表記の他、タブレットでの院内通訳で外国人の方のサポートをしています。外国人でうまくコミュニケーションができない患者さんもぜひご紹介ください。
本来の寿命まで体を使い切る医療とは
私の専門の整形外科ではこの10年、骨粗鬆症が注目されています。骨粗鬆症のケアをしないと骨折して歩行機能が損なわれ、いわゆるロコモティブシンドロームになります。歩けないことが生命予後や認知症に影響するエビデンスが出てきました。動けなくなると意欲がなくなり衰えてきます。「健康維持のために歩きましょう」というのでは不十分で、「歩かないことで寿命が縮み、認知症が進行する」という方が正しいでしょう。内科や外科の医療が進歩することで整形外科のニーズが生じたのです。今は80歳、85歳でも背骨や人工関節の手術をして、また歩いていただくのが整形外科の大きな役割になってきました。健康的に寿命をまっとうするための医療にも取り組みたいと考えています。
前向きに課題に取り組むことで、病院の存在価値が上がる
当院に横浜市から付託されている政策的医療は、困難な内容もあります。しかし、私は前向きに課題に取り組むことで病院の存在価値が上がると考えています。難しい患者さんの診療に積極的に立ち向かうことで病院の評価が上がり、さらに患者さんが集まってくれば、職員の自信につながるでしょう。それによって働いている職員のマインドが変わります。目の前の雑用を大切にすることで、コロナ禍の医療崩壊を乗り越えた体験からの信念です。当院はインフラが整っており、うまく機能させることで、あるべき赤十字病院の姿に再生できると考えています。
コロナ禍で希薄になってしまった地域の医療機関との関係の再建では、ウェブサイトやメディア戦略での広報も必要でしょう。地域の先生方に安心感を与えられる受け皿づくりとして、これまで行なってきた、みなとセミナー(地域医療従事者向研修)での知識の共有や顔の見える連携も復活します。地域の医療機関、来院される患者さんとやり取りしながら、横浜市民の皆さんに最良の医療を提供したいと考えています。
横浜市立みなと赤十字病院
横浜市立みなと赤十字病院は横浜南部保健医療圏の中核病院として二次医療機能を提供しています。 また地域がん診療連携拠点病院として、手術支援ロボットによる低侵襲手術、最新の抗がん薬を用いた治療やゲノム医療にも対応しています。
所在地
神奈川県横浜市中区新山下3丁目12番1号
病床数
634床(一般584床、精神50床)
URL
https://www.yokohama.jrc.or.jp/