治療手技にこだわって専門性を磨き、
急増する循環器疾患に24時間体制で対応する
循環器内科では、虚血性心疾患や不整脈など緊急性の高い疾患を常時診療できる体制を整備しています。これまで培ってきた豊富な経験と専門性を活かし、高齢化で急増する循環器疾患への対応を強化。2024年1月開院予定の新病院では心臓カテーテル室を増やし、さらなる拡充を図っていく予定です。
24時間、常に緊急カテーテル検査・
治療に対応できる体制を整備
武藤医師:当科は2021年4月から浜松医科大学医学部附属病院の関連病院となり、同大学からの派遣を含む8人の医師が循環器内科に在籍しています。そのうち6人は日本循環器学会の循環器専門医であり、すべての循環器疾患にすべての医師が対応できる体制が強みです。私たちが大事にしている診療の1つが救急です。月2回程度は心臓血管外科の医師が救急当直を担当しますが、その他はすべて循環器内科が対応しています。心筋梗塞の患者さんを受け入れた時に備え、循環器内科の医師が1人は院内に常駐。緊急時はセカンドの医師が15分以内に駆けつけ、患者さんの来院から遅くとも20分以内には緊急カテーテル検査・治療を始めています。
緊急度に応じ、
高精度な検査を速やかに実施
新井医師:開業医の先生方からの紹介患者を極力お待たせしないで診療できるように、外来では毎日必ず紹介枠を数枠設けています。ただし、来院から検査、治療までのスピード感は緊急度によって異なります。それほど緊急性のない胸痛で狭心症が強く疑われる患者さんであれば、当日中に心電図や血液検査、心臓超音波検査を行い、必要に応じて冠動脈CTあるいは冠動脈造影検査の予定を入れます。一方、緊急度の高い患者さんなら入院の上で当日中にカテーテル検査を実施します。時間的な余裕がある時はカテーテル検査を翌週とし、病変があれば対応するというようにアドホックの治療を行うこともあります。冠動脈CTは今までは1か月程度、待つことが多かったのですが、コメディカルの協力を得て検査枠を増やし、1週間以内に受けられるようになりました。現在は放射線科と協力して1日2~3件の検査を行い、早急に冠動脈の状態を把握するよう努めています。冠動脈CTについては精度を上げることにも力を入れています。
トレーニングを重ねた技師が2種類の解析ソフトを使ってきれいな画像を撮るよう工夫していますが、医師も解析ソフトで見直し、多段階で病変の見逃しを回避しています。
虚血性心疾患へのカテーテル治療は
年間100件ペースで増加中
新井医師::ここ数年、虚血性心疾患へのカテーテル治療が年間100件ペースで増加しており、2022年度は400件程度になる見込みです。当科では心血管カテーテル治療を専門とする医師2名が高度な治療を提供。病状や病変に応じ、石灰化を掘削するロータブレーターや方向性アテレクトミー(DCA)などを使い分けて治療に当たります。これらの機器を使うことが必須というわけではありませんが、病変によっては必要な方もおられるため積極的に取り組んでいます。
カテーテル治療に携わる医師はもちろん、臨床工学技士や看護師もよく勉強していて、個々のレベルが高いことも当院の強みです。コメディカルの数は多いほうではありませんが、皆やる気があって研修にも熱心に参加しており、力がついてきたのは心強い限りです。
なお、虚血性心疾患については、治療はもとより、早期発見も私たちの役目だと考えています。虚血性心疾患は全身の動脈疾患の1つの表れですから、脳梗塞をきたすような頸動脈狭窄や、間欠性跛行を有する下肢閉塞性動脈硬化症などがあれば早く見つけねばなりません。無症状であっても、「年のせいで歩けなくなってきた」「息切れがする」といった言葉の陰に心疾患や動脈疾患が隠れていることがあります。しかし、多くの患者さんは自分からは訴えないので、私たちから患者さんに問いかけて検査を提案することで、早期に発見し治療介入できるよう尽力しています。
不整脈へのカテーテルアブレーション実績を活かし、若手医師育成にも注力
武藤医師:当院でアブレーションを導入したのは比較的早い時期で、1999年に遡ります。その年に私が第1例のアブレーションを、そして2005年には心房細動アブレーションの第1例を行いました。心房細動のアブレーションは私だけで1500例近い実績があり、これは浜松地区では多いほうではないかと推察します。これ以上の実績を持つ医療機関もありますが、当院では早期からアブレーションを始めたこと、そして若手医師の育成にも力を入れてきたこと、この2点が特徴です。
現在、不整脈に対しては不整脈診療を専門とする医師を含む4人体制のチームで、3Dマッピングシステム誘導下での高周波カテーテルアブレーションや冷凍凝固アブレーションを取り入れ対応しています。
どんな治療も成績向上にはある程度の限界がありますが、その中で私たちは最大限の努力を重ね、治療時間の短縮も含めて一定以上の成果を出してきた自負があります。今後も短い時間で苦痛のない治療ができるよう研鑽を積みたいと思っています。
患者さんの負担を軽減するべく、
ペースメーカー植込み術の手技にもこだわる
澤崎医師:近年はペースメーカーの症例数も増え、交換を含めて年間100例近い手術を行うようになりました。約10年前からMRI対応型のリードレスペースメーカーへの対応を開始し、適応のある方には積極的に導入しています。整形外科の病気が生じた時など、MRIが欠かせない状況で支障なく検査を受けられるようになったのは大きな進歩です。また、心房同期が可能なVDDモードのリードレスペースメーカーも、適応があれば導入しています。
5、6年前より遠隔モニタリングも開始しました。重度の認知症のような特殊な患者さんを除き、現在は新規でペースメーカーを入れるほとんどの方が利用しています。遠隔モニタリングは心機能が低下した方に非常に有用で、植込み型除細動器(ICD)の心血管イベントを把握できるなどの利点があります。臨床工学技士がデバイスの情報を閲覧しているので、ペースメーカー外来を受診していただかなくても問題を察知し、早期に対応することが可能です。
さまざまなデバイスが進化する中、私たちはペースメーカー植込み法の手技にもこだわってきました。手術にかかる時間を大きく左右するのが、鎖骨化静脈に穿刺して入口を作る、血管へのアクセスです。私たちは短時間で手技を行えるよう、当院独自の工夫を加えた胸郭外穿刺を行っています。
この手技については論文を発表し、欧州のペースメーカー植え込み手技のテキストにも掲載されています。もう1点、リード固定も時間がかかるポイントですが、当院では特殊なスタイレットを用いることによっても時間短縮を図っています。いずれも時間短縮によって患者さんの負担を減らし、穿刺の成功率を高めることを目的として行ってきたわけですが、これらの手技はどの病院にも劣らない熟練したレベルだと思っています。
新病院開院を機にカテーテル室を増やし、
さらなる充実を図る
武藤医師:循環器内科が使うカテーテル室は現在1つのみであるため、救急や開業医の先生方からの依頼をお断りせざるを得ないことがあります。そこで2024年、新病院が開院するタイミングでカテーテル室を増やす運びとなりました。そうすれば多くの患者さんを断らずに受け入れる余裕ができ、倍増とまではいかなくても件数は確実に増やせます。新病院ではハイブリッド手術室ができますし、心臓カテーテル室と集中治療室の場所も近くなるため、あらゆる面で効率化が進むと期待しています。
新井医師:新病院では心臓リハビリテーションの充実も図る予定です。2022年10月に運動負荷の目標を評価するCPX(心肺運動負荷試験)を導入し、心不全や心筋梗塞の治療後の運動療法をしっかり行う体制を整えつつあります。新病院では外来でのリハビリテーションも開始予定なので、心臓リハビリはさらに強化できると見込んでいます。
リスクの高い人ほどこまめな検査で
循環器疾患を未然に防ぎたい
武藤医師::私たちから開業医の先生方にお願いしたいのが、高血圧や糖尿病、脂質異常症など心血管リスクの高い基礎疾患がある患者さんは、症状がなくても年2回、難しければ年1回、心電図を取っていただくことです。前回の心電図では見られなかった所見がある時など、当院にご相談いただければ詳しく調べて判断します。
このことは血液検査に関しても同様です。BNPもしくはNT-proBNPを年2回程度、調べていただければ、心不全の早期発見につながります。
新井医師:心不全に対しては新薬が次々に登場し、かつては改善しなかった状態が良くなるようになりました。こうした最新医療の恩恵を患者さんに受けてもらうためにも、地域の先生方と協力して病気を早く発見し、専門性の高い治療を提供していきたいと思います。
浜松医療センター
静岡県西部地区を診療圏とする高度総合医療機関であり、地域医療支援病院、災害拠点病院、地域がん診療連携拠点病院、地域周産母子医療センター、アレルギー疾患医療拠点病院、日本脳卒中学会一次脳卒中センター、そしてゲノム医療連携病院の責を担っている。
所在地
静岡県浜松市中央区富塚町328
病床数
606床
URL
https://www.hmedc.or.jp/