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順天堂医院で新たに本格導入された内視鏡下MICS「低侵襲心臓手術」

Doctor's interview

Tabata
Minoru

順天堂大学
心臓血管外科 主任教授 虎の門病院 循環器センター外科 特任部長

2019年より虎の門病院循環器センター特任部長として活躍ののち、2021年12月に順天堂大学 心臓血管外科主任教授に就任。

MICS(Minimally invasive cardiac surgery)

低侵襲心臓手術

順天堂大学心臓血管外科は、2021年12月に田端 実主任教授が就任し新たなスタートを切った。「個々の高いスキル×チーム力」と「イノベーション」をキーワードとして、これまで以上に術前・術中・術後のチーム医療を強化するとともに、付加価値のある最新技術を導入しより多くの治療オプションを揃え、個々の患者に最適な治療の提供を目指している。ここでは、順天堂医院で新たに本格導入された内視鏡下MICSにフォーカスして紹介したい。

完全内視鏡下で行うMICS

胸骨を切らない心臓手術であるMICS(Minimally invasive cardiac surgery)のメリットは僧帽弁手術を中心に普及しつつある。しかし多くの施設では肋間を開胸器で広げて直視下で手術を行っており、その方法では良好な視野確保が難しい、術後疼痛が大きいなどの問題点がある。田端医師は2009年より肋間を開胸器で広げずに完全内視鏡下で行うMICS(内視鏡下MICS)に取り組んでおり、そのエキスパートとして国内外で広く知られている。

順天堂医院における

内視鏡下MICS

右胸部に3-4㎝の小さな切開(大動脈弁置換術は4-5cm)を置き(図1)、ビニール製のリトラクターで筋肉や脂肪組織のみを広げて行われる(図2)。人工心肺のカニューレは大腿動静脈など末梢血管から挿入する。非常に限られたスペースで心内操作を行うには熟練した技術とともに多くの創意工夫を要するが、その詳細は字数の関係上今回は省略したい。
対象は僧帽弁、三尖弁、大動脈弁などの弁膜症手術がメインだが、心房細動に対するメイズ手術・左心耳閉鎖術、心臓腫瘍摘出術、心房中隔欠損閉鎖術などもこのアプローチで行うことができる。胸骨を切らない、肋間を広げないことの最大メリットは、術後疼痛が小さく早期退院・社会復帰が可能なことである。

図1 内視鏡下MICSの手術創

図2 内視鏡下MICSの術野

順天堂医院における内視鏡下MICS後の在院日数中央値は5日であり、半数以上の患者が術後5日以内に自宅退院している。そのほかに、骨髄からの出血がないため出血量・輸血量を減らせること、胸骨合併症がないことがメリットとして挙げられる。また、高画質の4K内視鏡を用いることで心臓の奥まで良好な視野が得られ(図3)、手術の質向上のみならず教育やチームビルディングにも有用である。

図3 内視鏡でクリアに見える左室内の僧帽弁弁下組織

一方で欠点として、胸骨正中切開アプローチに比べて人工心肺時間や大動脈遮断時間が長くなることが知られているが、当然lerning curveがあり時間は熟練した外科医とそうでない外科医で大きな差がある。

順天堂医院では、他院でMICSは無理と言われた症例であってもMICSで実施可能なことが多い。それでも、低心機能症例の複雑な手術は心停止時間の影響を考慮してMICS適応外としている。その他のデメリットとして末梢カニュレーションや片肺換気による合併症リスクがあり、末梢動脈性状が不良なケースや高度肺機能障害のケースは適応外となることがある。内視鏡MICSは高い手術技術と創意工夫を要するだけでなく、そのメリットを最大限引き出すには術前・術中・術後のチームワークが必須である。術前の正確な診断と適切な患者選択が求められ、術中は麻酔医や臨床工学技士、看護師にも通常心臓手術よりも高い技術が求められ、また術後は早期回復を目指した術後管理やリハビリが求められる。

順天堂大学心臓血管外科は、循環器内科、麻酔科、コメディカルと一丸となって、国内外の低侵襲心臓手術をリードしている。

順天堂大学医学部附属順天堂医院

順天堂大学医学部附属順天堂医院は、特定機能病院の指定および先進医療・救急指定病院の指定を受けた総合病院です。 28の診療科と1,036床の病床を有し、1日平均899人の入院患者・平均3,515人の外来患者さんの診療を行っています。

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