病態を見極め必要な治療を選ぶ。専門的な評価から低侵襲手術、地域連携まで。
腰痛やしびれ、歩行障害の原因は一様ではありません。症状の経過や画像所見を踏まえ、保存治療を続けるのか、専門的な処置や手術が必要なのかを見極めるには、脊椎疾患に対する専門的な評価が必要になることがあります。
康生会武田病院の整形外科・脊椎脊髄外科では、患者さんの病態に応じて、保存治療から除圧術、低侵襲の脊椎固定術まで治療方法を選択。顕微鏡や内視鏡、3Dイメージ・ナビゲーションなども用いながら、身体への負担を抑えつつ必要な処置を行う脊椎診療に取り組んでいます。
「治らない」「歩けない」といった変化を、いつ専門診療へつなげるべきなのか。澤村和秀医師と小倉卓医師に、紹介の目安から治療選択、現在の脊椎手術、そして治療後の地域連携までお話を伺いました。
紹介の目安は「症状の変化」と「生活への影響」
腰痛やしびれの患者さんを専門診療へつなぐかどうか。その判断でお二人が共通して挙げたのは、症状の強さだけではなく、治療への反応や日常生活がどう変化しているかを見ることでした。
澤村医師:一つの基準に当てはめるのは難しいですが、薬を飲んでも効かないような痛みや、今まで経験したことのないような痛みが続く場合は、専門的な評価を考えていただきたいと思います。特に、痛みが強く続いていて、今までできていたことが明らかにできなくなった、歩けなくなったというような場合ですね。
腰痛が続いている患者さんを調べてみると、がんの転移が見つかったり、背骨以外の病気が関係していたりすることもあります。腰痛があまり強くなくても背骨の骨折があるケースもありますので、「少しおかしい」「経過がいつもと違う」と感じたときには、一度評価することが大切です。
紹介元による流れの違いと、急な変化があった場合の紹介のタイミング
澤村医師:紹介元が整形外科なのか内科なのかによっても、適切な流れは変わります。何となく腰が痛い、肩がこるという患者さんをすべて脊椎専門外来で直接診るというより、まず地域の整形外科や当院の一般整形外科で評価してから専門外来へつなぐ方が、治療の流れとしてスムーズな場合もあります。
一方で、治療を続けてもうまくいかない、だんだん歩けなくなってきた、症状が進行しているような場合は、紹介をご検討いただけますと幸いです。
特に、注意していただきたいのは、状態が急に変わった場合です。これまでは長い距離を歩くと神経痛が出る程度だった方が、急に下肢の痛みが強くなり、家の中でも生活できないほど歩けなくなるような変化には注意が必要です。背景に椎体の骨折が加わっているケースもあり、こうした場合にはMRIでの確認が必要になることもあります。
「今までとは明らかに違う」と感じるような急激な悪化があれば、迷わず紹介していただきたいですね。
小倉医師:一回の症状や画像所見だけで判断するのではなく、その後に症状がどう変化していくかを大切にしています。内服治療などで改善していくこともありますが、3〜4か月たっても症状が改善しない、むしろ悪くなっているという場合には、病態をしっかり確認した方がよいと考えています。
腰が痛くなくても、下肢のしびれや痛みが強く出る患者さんもいます。頸椎の疾患では、上肢だけでなく下肢や体にも症状が出ることがあります。手足が動かしにくいなど、生活そのものに影響が出てくる場合は早めに紹介していただきたいですね。
保存か手術か。まず病態を見極める。
小倉医師:まず大切なのは、今の症状が何によって起きているのか、病態を把握することです。
手術が必要だと考える場合でも、最初から手術の話だけをするのではありません。これまでの経過や画像所見、なぜ外来治療だけでは改善しにくいのかを説明し、患者さんやご家族に理解していただいたうえで治療方針を考えます。
専門的に評価した結果、地域の先生のところで引き続き診てもらえると判断すれば、地域へお戻しします。さらに専門的な治療が必要であれば、当院で治療を続けます。投薬だけでなく、手術の前に神経根ブロックや椎間板への薬液注入などを行いながら治療することもあります。
実際に、地域の先生から「数か月薬を使っているが背中の痛みがよくならない」と紹介された患者さんを詳しく調べたところ、がんの転移が見つかったこともありました。
腰や背中の症状だからといって、原因が必ずしも脊椎の変性疾患とは限りません。治療しても改善しない、経過がどこかおかしいというときに、一度しっかり評価することには意味があると思います。
また、開業医の先生方だけでなく、脊椎の専門的な診断や治療方針に迷う地域の医療機関からも患者さんを紹介していただき、病態を評価していく。そうした役割も当院が担っていきたいと考えています。
除圧から低侵襲固定術まで。病態に応じて必要な術式を選ぶ。
澤村医師:脊椎の診断や手術には専門性があります。私自身は顕微鏡を使った手術をベースに経験を積み、現在は内視鏡を使う方法や固定術など、それぞれの特徴を考えながら選択しています。
手術方法は、何が症状の原因になっているのかによって変わります。
例えば、骨折で椎体がつぶれ、このままではさらに崩れてくるような状態や、背骨に不安定性や異常な動きがある場合には、インプラントを使って固定する手術を行います。頸椎でも、骨を削るだけでは十分な効果が得られにくいようなアライメント異常がある場合には固定術を併用します。
ただ、固定するとその部分の動きが制限され、ほかの部分に負担がかかることがあります。そのため、固定が必要でなければ除圧術で対応する。固定術ができるから固定するのではなく、その患者さんの病態を見て必要な術式を選ぶということです。
当院では除圧術だけでなく、固定術についても身体への負担をできるだけ抑える方法に取り組んでいます。切る範囲はできるだけ小さくしながら、中では必要な処置をしっかり行うことを大切にしています。
現在、特に取り組んでいるのが低侵襲の脊椎固定術です。固定が必要な患者さんについても、できるだけ小さな範囲から必要な固定を行えるよう工夫しています。
脊椎手術には、顕微鏡、内視鏡、固定術など複数の方法があります。それぞれに特徴がありますから、一つの術式にこだわるのではなく、病態を見極めたうえで患者さんに必要な治療を選ぶことが重要だと考えています。
3Dイメージ・ナビゲーションで低侵襲手術を支える。
澤村医師:3Dイメージだけの場合、その都度画像を確認しなければ、どこを操作しているのか分かりにくい場面があります。ナビゲーションと組み合わせることで、手術中にどこを操作しているのかをリアルタイムで確認できます。
特に神経に近いところや、奥の方を処置するときに、位置を確認しながら操作できることが大きいですね。
低侵襲手術では、切る範囲をできるだけ少なくしながら、中では必要な処置をしっかり行わなければなりません。3Dイメージとナビゲーションは、それを支えるために導入したものです。
ナビゲーションの画面を見ながら手術を行うようになり、従来とは手術の進め方そのものも変わってきています。
最新の機器を備えること自体が目的ではありません。小さな範囲から必要な場所へ到達し、必要な処置を行う。そのために手術手技と支援機器を組み合わせることが、当院で取り組んでいる低侵襲脊椎手術の考え方です。
早期社会復帰を目指しながら退院を急がせない。
澤村医師:私自身は、仕事をしている患者さんを、いかに仕事へ戻せるかということを大切にしています。
椎間板ヘルニアや脊柱管狭窄症などで、痛みが強く仕事ができなくなっている患者さんもいます。痛み止めだけで長く粘るのではなく、手術をした方がよいケースであれば、必要な治療を行って社会生活へ戻してあげたいという思いがあります。
ただし、早く社会復帰してもらうことと、入院期間をとにかく短くすることは同じではありません。当院では、退院までの日数を短くすること自体を目標にはしていません。
疾患や術式、患者さんの状態によって異なりますが、ヘルニアなどの除圧術では入院はおおむね1週間程度、固定術では2週間前後が一つの目安です。リハビリテーションが必要であれば、入院期間はさらに延びます。
高齢の方や麻痺がありリハビリが必要な患者さんもいます。そうした方を困った状態のまま自宅へ帰すのではなく、病状を見ながらしっかりリハビリを行い、生活できる状態を確認してから退院していただくことを大切にしています。
小倉医師:高齢の患者さんでは、手術そのものだけを見ればよいわけではありません。手術だけでなくその後のことも考える必要があります。心臓の病気や透析など、基礎疾患を持っている方もいます。
手術が決まれば、全身状態が本当に手術に耐えられるかを確認し、必要に応じて他科と連携したうえで手術治療に臨んでいます。
専門的な脊椎診療だけではなく、全身状態も含めて診ることができる。それは総合病院である当院の強みの一つだと思います。
手術で終わらせない。「つながりを切らない」地域との連携。
小倉医師:手術が終わって症状が良くなったから、それで診療が終わりとは考えていません。手術後は、患者さんが困っていた症状がどう変化したのかを定期的に確認します。
地域のかかりつけ医の先生から紹介された患者さんも、一度地域へお戻しした後、当院にも定期的に来ていただいて経過を見ることがあります。
例えば骨粗鬆症の治療など、身近な医療機関で継続できるものは地域の先生にお願いする。一方、専門的な評価が必要な部分はこちらでも確認する。そのような役割分担がよいと思っています。
私は、「つながりは絶対切らないようにしないと」と考えています。
全部をかかりつけ医の先生にお願いしてしまうのではなく、こちらでも定期的に診ますので、地域でも引き続きお願いしますという関係です。
また、新しい症状が出てきた、今まで見たことのないような症状が出てきた場合には、もう一度紹介していただきたいですね。こちらで改めて評価し、地域で診ていただける患者さんはお戻しする。さらに専門的な治療が必要であれば、当院で診療を続けます。
澤村医師:地域の整形外科やリハビリテーションを行っている医療機関を利用していただきながら、こちらはこちらで外来を診るという形を取っています。
薬やリハビリなど地域でお願いできることはお願いして、画像など専門的に確認した方がよい部分はこちらで見る。患者さんには、両方の良いところを使っていただければと思っています。
総合病院なので、うまく使っていただきたいですね。一度こちらで専門的に評価して、地域で診てもらえる状態であればお戻しする。必要になれば、またこちらで診る。そのように連携していければと思います。
脊椎の診断・治療で迷ったときに、相談できる病院へ。
小倉医師:地域で診療を続けていただく中で、「何かおかしい」と感じたときには、一度紹介していただければと思います。
開業医の先生方だけではなく、専門的な脊椎診療で判断に迷っている地域の病院からも患者さんを引き受け、病態を評価していきたいと考えています。
地域で診ていただける患者さんはお戻ししますし、専門的な治療が必要であれば当院で対応する。その後も必要に応じて一緒に経過を見ていく。地域の先生方と武田病院が、それぞれの役割を生かしながら患者さんを支えていければと思っています。
澤村医師:脊椎の病気は、評価してみないと分からないことがあります。
「治療しているのに治らない」「歩けなくなってきた」「今までと何か違う」と感じる患者さんがいれば、相談していただきたいと思います。
当院で評価し、保存治療でよいのか、専門的な処置が必要なのか、手術が必要なのかを判断する。手術が必要であれば、患者さんの病態に合わせて方法を選ぶ。
専門的な評価から治療、そして治療後の地域連携まで、脊椎疾患で困ったときに武田病院をうまく使っていただければと思います。
このような患者さんは、一度ご相談ください。
●治療を続けても、痛みやしびれが改善しない・悪化している
●以前できていた歩行や日常生活が難しくなってきた
●新たに手足のしびれや動かしにくさが出てきた
●急に下肢の痛みが強くなり、家の中での生活にも支障が出ている
●保存治療を続けるか、専門的な治療を検討するか判断に迷う
紹介=手術ではありません。
当院で専門的に評価し、地域で診療を継続できる患者さんは地域の先生方へお戻しします。専門的な治療が必要な場合には当院で対応し、治療後も必要に応じて連携しながら経過を確認します。
医療法人財団 康生会 武田病院
1970年の開設以来、救急救命医療に力を注ぎ、心臓血管外科・循環器内科・脳神経外科・内科・外科が連携して24時間体制で対応。 先進的な取り組みを重ねながら、患者さんとご家族への「思いやりの心」を忘れず、理想の医療を追求し続けている。
所在地
〒600-8558 京都市下京区塩小路通西洞院東入東塩小路町841-5
病床数
374床
URL
https://www.takedahp.or.jp/koseikai/