「急性・重症患者看護専門看護師」の専門性で、重症患者さんとご家族を支える
急性・重症患者看護専門看護師は、救急および重症患者さんに包括的な看護を提供しています。集中治療室における全身管理を中心に、患者さんの意思決定支援やご家族の精神面へのサポート、医療チームのマネジメント、院内外での教育的な役割、研究や講義まで幅広い業務を担っています。青島恵美子看護師、下尾菜摘看護師にお話を伺いました。
急性・重症患者看護専門看護師として幅広い業務を担う
青島看護師
急性・重症患者看護専門看護師(CCNS:Critical Certified Nurse Specialist)は、緊急度や重症度が高い患者さんに集中的な看護を提供し、ご家族を含めた支援や医療スタッフ間の調整まで包括的な医療を実践するスペシャリストです。日本看護協会が認定する14分野の専門看護師の一つで、主に集中治療室(ICU)や高度治療室(HCU)、救命センターといった臨床現場で重症患者さんの治療やケアの質を高める役割を担っています。
下尾看護師
病棟では、人工呼吸器を装着している重症患者さんの全身管理が主な業務です。また、呼吸ケアサポートチーム(RST)の一員として、院内をラウンドし、一般病棟に入院している重症患者さんや人工呼吸器を装着している患者さんに対する看護ケアの支援・指導、人工呼吸器からの離脱支援を行なっています。さらに、患者さんの意思決定支援や、突然の事故・緊急で入院された患者さんのご家族の精神的なケアにも取り組んでいます。
青島看護師
複雑な状況の患者さんのケアには他職種の意見が欠かせません。主治医だけではなく、複数の診療科の医師、看護師、薬剤師、理学療法士の方とともにカンファレンスを開催しています。必要があれば、倫理サポートチーム(EST)へコンサルトを行い、、患者さんやご家族が治療方針や最期のケアといったテーマに対して意思決定できるよう、患者さんやご家族の最善を目指し、多職種で関われるよう調整しています。教育的役割としては、新人研修や院内勉強会、地域住民の方を対象とした講演会で講義を行っています。このほか、執筆活動や研究発表にも取り組んでいます。
専門看護師として、集中治療後症候群(PICS)に取り組む
青島看護師
集中治療を受けて退院されたあと、やる気が出ず、脱力感や倦怠感のために「仕事に行きたいのに行けない」などの症状を訴える患者さんがいらっしゃいます。以前は「本人のやる気の問題だ」、「怠けている」などと言われ、あまり問題視されていませんでした。しかし、これらは集中治療後症候群(PICS:post intensive care syndrome)の可能性があります。PICS(ピックス)は、ICUに入室中あるいは退室後に生じる身体障害、認知機能障害、精神障害の総称で、集中治療を受けている患者さんの30から70%に発症するといわれています。PICSは自然経過での回復が難しく、早期介入や予防の重要性が提唱されてきました。
ABCDEFGHバンドルは、人工呼吸器を装着している患者さんに対する包括的な全身管理の基準で、PICSを減少させる効果が期待されています。覚醒状態や人工呼吸器を離脱できるかを毎日チェックして鎮静薬を慎重に検討し、せん妄を予防して早期離床を目指すといった内容に、ご家族を含めた対応や、転院先への紹介状や申し送りといった項目が付け加えられています。
私が所属するICUでは、医師や看護師、理学療法士、栄養士、薬剤師といった多職種が毎日カンファレンスを行い、共通認識のもとで医療を提供する体制を整えています。ICUや一般病棟での入院中から全身状態をしっかりアセスメントし、早期離床・リハビリテーション、鎮痛・入眠のためのケアを行い、PICSの予防に取り組んでいます。ICUでは患者さんの意識がはっきりしない場合、ご家族の方が代理意思決定をする必要があり、ご家族のケアにも丁寧に携わっています。
下尾看護師
PICSは、ICUに入室する方であればどなたも発症する可能性があります。ICUでの体験が原因となって心的外傷後ストレス症(PTSD)を発症するという報告もあり、当院では数年前から、ICUのスタッフが一般床に移られた患者さんのベッドサイドに赴いて現在の状態を確認し、ICUの記憶があるかを伺い、記憶の歪みを埋めるといった精神的なケアを続けています。
医療チームとして、よりよい看護を実践したい
青島看護師
看護は24時間体制で患者さんへ関わっています。。そのため、看護スタッフ全体で取り組まなくてはなりません。私は専門看護師として、スタッフ全員でよりよいケアを実践できるよう、ケアを標準化し、教育体制や支援体制をしっかり構築する使命があると感じています。
下尾看護師
「自分一人が頑張る」という発想ではなく、患者さんとご家族を医療チーム全体で支えることが大切だと考えています。職種や経験年数の違いにとらわれず、誰もが気軽に相談や報告ができる関係性を築き患者さんのわずかな変化にも早く気づきすぐに報告・共有できるチームづくりを目指しています。また、それぞれの専門性を尊重して、お互いにリスペクトして協働できる環境が理想です。多職種が力を合わせることで、患者さんとご家族にとってより良い医療や看護を提供できると考えています。
急性・重症患者看護専門看護師として、多様な患者さんに丁寧なケアを
下尾看護師
私たちは、患者さん一人ひとりの状態や価値観に合わせた専門的なケアを実践しています。例えば、重症患者さんの管理では、以前ほぼ眠った状態で治療を行うことが一般的でしたが、近年では患者さんの意識をできるだけ保ちながら治療を進め、早期からリハビリテーションに取り組むことが増えています。
忘れられない患者さんに、突然、難病を発症された40代の方がいらっしゃいます。その方は、ECMO(体外式膜型人工肺)による治療をしながらリハビリを続けておられました。ある日、患者さんから「最後の希望としてご家族と会う時間を取りたい」とお気持ちを伝えてくださいました。私たちは、ご家族、特にお子さんへの精神的な負担に配慮しながら、お父さんの体にどのような管や医療機器がついているのかを説明しました。また当日は、生命維持装置による視覚的な負担を軽減するためにタオルで機器を覆い、「お父さんは今、一生懸命頑張っている。もし見ていて辛くなったら、いつでも外に出て大丈夫だよ」と伝えました。
ご本人は挿管されていて声を出すことはできませんが、弱々しいながらも筆談で思いを伝えてくださいました。面会は2回実現し、最後の面会ではお子さんが手紙を読み、ご家族で涙を流されていました。患者さんやご家族にとってかけがえのない時間を支えることも私たち専門看護師の大切な役割です。あの時間はご家族だけでなく、私たち医療者にとっても忘れられない時間となりました。
青島看護師
当院には、多数の外国人の患者さんも来院されます。医療に対する価値観は日本と異なる場合があり、女性医師のみの診察や信教上の食事制限といったご要望も少なくありません。私たちはおひとりおひとりのお話を伺い、できることとできないことをお伝えしたうえで、なるべくご希望に沿えるよう努めています。
また、当院は腹膜センターを立ち上げ、腹膜偽粘液腫などの治療に取り組んでいます。腹膜偽粘液腫は希少疾患であり、術後の経過や症状についてはまだ十分に知られていません。私たちは看護の観点から、術後の患者さんが体験する症状や様々な苦痛について調べる研究を始めました。実際に調査をすると、痛みはもちろん、口渇や倦怠感に対するつらさを訴える声が多くありました。症例数が少ない疾患のケアについての報告は、当院以外の患者さんのケア向上にも役立つ可能性があると考えています。
看護師として専門性を高めるため、大学院に進学して資格を取得
青島看護師
私が資格を目指したのは、新人のころに勤めていた救命センターの急性・重症患者看護専門看護師の方がきっかけでした。慣例で行っていたケアを最新のデータと知見でどんどん変えていく姿を見て、強く憧れたのです。経験を積んでいく中で、自分もエビデンスに基づいたしっかりとしたケアを行いたいと思い、資格の取得を志しました。
資格を取るには、所定の年数の臨床経験を積むと同時に、2年間の大学院を修了する必要があります。私は2年間休職して大学院に進学し、取得に専念しました。仕事をしながら3年で取得される方もいますが、実習もあるため、私は短期集中で取り組みました。大学院卒業後もプレCNSとして約1年復職して経験を積み、試験に合格しました。
急性・重症患者看護専門看護師の専門性で社会に貢献したい
下尾看護師
急性・重症患者看護専門看護師は、高度な専門性を持ちながら、患者さんやご家族に最も近い立場で関わることができる仕事です。患者さんにとって何が最善なのか、どのような治療やケアが望ましいのかを多職種とともに考えながら実践できることに大きな魅力を感じています。
また、専門看護師は、患者さんやご家族だけでなく、スタッフや多職種とも関わりながら看護を実践できることが魅力です。学び続けることで自分自身の視野も広がり、その学びを患者さんやご家族への支援に繋げられることにやりがいを感じています。
私たちは、ICUの患者さんが回復された姿を見る機会があまりありません。それだけに、退院や外来フォローで元気になられた患者さんにお会いできたときは、大きな喜びを感じます。働きながら研究を続けることは容易ではありませんが、修士課程で学び専門看護師として活動している以上、臨床で得られた経験や知見を研究として発信し、看護の発展に貢献していきたいと考えています。また、自分の経験やキャリアをお伝えすることで、急性・重症患者看護専門看護師を目指す看護師が一人でも増えれば嬉しく思います。
青島看護師
今後、急性期病院の役割は変わり、重症度が高くても地域に帰っていかれる方が増えていくでしょう。私は急性期における看護だけではなく、重症患者・ご家族の地域での生活を支える橋渡しの役割を担えることを目標にしおり、重症患者さんの退院支援や移行期支援にも関心があります。
ご家族ができれば自宅で看取りたかったけれど、たくさんの管がついている状況では難しいからと、当院で最期を迎える選択をされた患者さんがいらっしゃいました。ご家族は納得されていましたが、やはり「帰りたい」とおっしゃっていた方を自宅にお戻しできなかった心残りが、今も私の中に残っています。
私自身については、専門看護師として経験を積む中で、もっと研究を突き詰めたいです。いずれは博士課程にも挑戦したいと考えています。
専門看護師として、地域医療と連携を深めたい
下尾看護師
私たちの役割は救命や急性期看護が中心ですが、その先の生活を見据えた看護も大切だと考えています。後輩には「患者さんが退院する時のことをイメージしながら関わってほしい」と伝えています。退院時サマリーを通じた情報共有が中心ですが、地域の医療機関や訪問看護師の方々との連携をさらに深め、患者さんが自宅に戻られてから安心して生活を続けられるように支援していきたいと考えています。
青島看護師
これからは、重症患者さんもご希望される場合は地域に帰る時代になります。患者ご本人やご家族が選ばれた療養の場につなげる取り組みをしていきたいと思います。急性・重症患者看護専門看護師は、初期の関わりが中心ですが、地域の先生や訪問看護ステーションの方々との協力体制を整え、連携を深めていきたいと考えています。
当院には専門認定看護師会があり、地域の訪問看護ステーションの方々と年1回、交流会を開いて情報交換をしています。以前は、訪問看護ステーションのスタッフの方々がアクセスできる動画講義を各専門認定看護師が作成し、配信していました。地域の中核病院看護師として、地域の医療従事者の皆様とのよりよい関わりができるように努めていきたいです。
国立国際医療センター
高度急性期医療と先進研究を担う特定機能病院。救急・感染症・がん・国際診療など幅広く強みを持つ。 2025年4月1日、国立国際医療研究センターと国立感染症研究所が統合し、「国立健康危機管理研究機構(JIHS)」が設立。
所在地
東京都新宿区戸山1-21-1
病床数
716床
URL
https://www.hosp.jihs.go.jp/index.html