Doctor's interview
KENGO
TANABE
三井記念病院
循環器内科 部長
「患者さんが自分の家族だったら」
先進性と誠実さで支える循環器医療
三井記念病院循環器内科では、先進的な医療技術を積極的に導入する一方で、その適応や意思決定においては常に「人としての誠実さ」を何よりも大切にしています。高度な専門性と広い視野を兼ね備えた質の高いスタッフによる、厚みのある診療体制を基盤に、地域の先生方との緊密な連携のもと、真に価値ある循環器医療を実践しています。
先進的な治療を、もっと身近な選択肢へ
低侵襲なカテーテル治療の進歩や新規診断方法・薬剤の発展は著しく、現在、循環器内科がカバーする範囲は年々拡大してきています。多くの分野で新しいことを導入することは大変ですが、三井記念病院循環器内科で対応できる分野は多く、都内の病院の中では一二を争うと自負しております。
臨床超音波医学の中心であった初代部長の町井潔先生がエコーを中心に三井・循内を盛り上げ、2代目部長の山口徹先生が小倉記念病院と共に日本で初めて冠動脈ステントの導入をされました。このような歴史的背景・気風から、やる気のある人材が全国から集まり他院で治療困難な患者さんにも何か手がないか日々切磋琢磨し、新しい診断・治療を積極的に導入しています。
心原性ショックの際に循環を補助する補助循環用ポンプカテーテル「インペラ(Impella)」のカテーテルで挿入するタイプImpella2.5については2017年に日本の第一例目を当院で実施しました。
また、今や冠動脈疾患の診断の軸となっているのが冠動脈CTですが、中等度狭窄の場合、患者さんに心臓カテーテル検査まで勧めるべきか悩ましいことがありました。FFR-CTは、スーパーコンピュータを用いて、その中等度狭窄が実際の虚血に関与しているのかを非侵襲的に判定できる技術でカテーテル検査をするかどうかの判断に役立つものですが、2019年に日本での初期導入6施設の一病院として導入いたしました。臨床適応となる前の治験にも積極的に参加しています。
新しい治療の治験を実施するためには、それまでの実績並びに一流のスタッフの存在が不可欠です。例えば、2026年から臨床実施が開始される高血圧のカテーテル治療「腎デナベーション(RDN:Renal Denervation)」については当初の治験から参加していますので、既に当院では臨床経験があります。
2026年初頭には、治験として、新しいタイプの生体吸収性スキャフォールド(3年程度で骨格が溶けてなくなる冠動脈ステント)の世界第一例目の手技を実施しました。この治験はまだ始まったばかりですので臨床適応となるかどうかの判断はまだ先となります。
2026年も、各部門の専門スタッフが、新しい治療を導入して参ります。三尖弁逆流症に対するカテーテル治療であるTriClip™システムや、下肢静脈のカテーテル治療などです。
医師としての誠実さと専門性で患者さんを救う
先進的なデバイスや技術は非常に強力な治療の選択肢です。しかし、私たちはそれを導入すること自体を目的にしてはいけないと考えています。
私が常に心に置いているのは「目の前の患者さんが自分の家族や大切な人だったら、この治療を勧めるか」という問いです。多忙の中にあっても、一度立ち止まって、心の中でそう呟くようにしています。わずかでもレントゲンに違和感があれば、お茶を一服飲んで目を休め、もう一度見直す。そのわずかな「間」と「誠実さ」が、医療の質を決定づけると信じています。
そして何よりも大切にしているのは「循環器内科医である前に内科医であれ。内科医である前に一人の人間としての医師であれ」という信念です。循環器疾患の高度な診断・治療は当然の責務ですが、それ以外の疾患を見逃さない広い視野を常に持ち続けたいと考えています。医療の現場では、ときに原因の特定が難しいケースも存在します。そのようなとき、私たちは自分たちだけで抱え込まず、他診療科の専門医に率直に相談する謙虚さを忘れません。三井記念病院は診療科同士の垣根が低く、熱心な医師が揃っています。このシームレスな連携こそが、患者さんの安心を支える大きな強みです。
そして当科のもう一つの大きな強みは優秀なスタッフです。それぞれが専門性を持ち、各分野で学会活動を牽引する個性豊かなメンバーが揃っています。互いに刺激し合い、高め合える環境があるからこそ、若い医師たちも後期研修医として門を叩き、厳しい選考を経て仲間に加わってくれています。こうした人材の厚みこそが、当科の診療の質を支えています。

挫折と出会いを経て辿り着いた循環器内科という使命と現在の日本
私が医師を志した原点は、祖母のがんでした。小学生のころ、祖母はすでに手術が困難な状態で入院し、わらにもすがる思いで治験に参加しました。見舞いに訪れた病室で、主治医が新しい治療に真摯に向き合う姿を目の当たりにし、幼いながらに「医学」という世界に強く心を引かれたことを今も覚えています。治療に尽力してくださった医師への深い感謝とともに、「人から感謝される仕事の尊さ」を実感した経験が、医師という職業を具体的に意識する契機となりました。
また現状の医療で救えない患者さんに新たな治療を提供する可能性のある治験は重要だと思いました。日本で新たな薬剤・医療機器が開発されることが理想ですが、残念ながら海外で開発されることが多いのが現状です。このため、よいものは素早く日本に導入したいと考えています。
医学への道は決して平坦ではありませんでした。大学生になってからは様々な誘惑があり勉学に集中できない日々が5年生まで続きました。5年の夏くらいに学生の落ちこぼれを集めて勉強会をしてくださる腎臓内科の先生に出会いました。この恩師から受けた「テストのための勉強ではなく、医者になるための基礎体力をつけなさい」という言葉が、私を根底から変えました。勉強が具体的に将来の仕事に結びつく実感がもてると勉学に集中できるようになりました。
一冊の英語の教科書を一か月かけて読み込み、心電図の波形の背後にある生理学を徹底的に学び直した日々。遠回りのように思えたその積み重ねこそが、現在の診療における礎となっています。
「よい医師になるなら、全国から優秀な人材が集まる病院を目指せ」という助言に導かれ、私は三井記念病院の門を叩きました。初めは呼吸器内科を志していましたが、当時の循環器内科部長との出会いは、医師としての進路を決定づけるものでした。「君は循環器に向いている」という一言をきっかけに転科を決意しました。
当初、循環器に入ったのが遅れた焦りがありましたが、ひとつひとつ追いついていこうと決意し、以来この分野で研鑽を重ねてきました。循環器内科は、私にとって一生をかけても尽きることのない魅力を持つ領域です。急性期医療の現場で命をつなぐ緊張感とやりがい、外来診療で薬物治療を緻密に組み立てていく論理性、そして心臓CTやMRI、エコーなどの画像診断の世界。この三つの側面が有機的に結びつくからこそ、常に新たな挑戦と発見があります。
このような魅力的な循環器という領域ですが、勤務の過酷さから、循環器内科・心臓外科を志す若手医師が減少しており、このままでは日本の循環器救急がもたなくなる危機感から、日本循環器学会から国民の皆様へのメッセージが発出されました。
ホームページは、国民の皆様へ:『循環器医不足が深刻な状況です』 | 一般社団法人 日本循環器学会です。お時間があれば、是非御一読ください。
我々も一生懸命従事しておりますが場合によっては至らないこともあるかもしれません。その場合、遠慮なく御指摘いただきつつ、是非、温かい目での御指導を賜れますと幸いです。
地域の先生方とともに、理想的な循環型医療を築く
私たちは、地域の先生方との信頼関係の上に成り立つ循環型医療を何よりも大切にしています。患者さんをご紹介いただくタイミングについて、どうかご遠慮なさらないでください。
「一度、中核病院に相談してみようか」と心に浮かんだその瞬間こそが、適切なタイミングだと考えています。結果として大きな異常が認められなかったとしても、それは患者さんにとって確かな安心につながります。その安心を共有できること自体が、私たちの役割の一つです。はずれでもいいんです。
また、治療や精査を経て病状が安定した後の逆紹介についても、先生方の診療方針や患者さんとの関係性を十分に尊重し、地域での継続的なフォローをお願いするのか、あるいは当院で定期的な精密検査を並行するのか、より良い形を相談のうえ決定していきます。
さらに、人材育成の面でも地域の先生方と手を取り合っていきたいと考えています。もし当科の医師の対応に至らぬ点がございましたら、率直に私へお知らせください。若い世代を「どの病院でも信頼され、リーダーとなれる医師」に育てること、そして先生方と前向きで開かれた関係を築き続けることが、日本の医療を支える確かな土台になると信じています。私にとって耳の痛い話でも構いませんので遠慮なくお知らせ頂けると幸甚でございます。
三井記念病院
地域の医院・病院と相互補完的に協力し合いながら、患者さんにとってより良い医療を提供することをモットーに高度医療を展開。 2016年から国際的な医療機能評価機構であるJCI(Joint Commission International)認定を受けている。
所在地
東京都千代田区神田和泉町1番地
病床数
482床/ICU 7床・CICU6床・HCU21床
URL
https://www.mitsuihosp.or.jp/