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複雑化する心不全診断・治療の専門性を追求する

Doctor's interview

Matsue
Yuya

順天堂大学大学院医学
循環器内科学講座 准教授

複雑化する心不全診断・治療の専門性を追求する

国内の心不全による入院患者数は2016年には約26万人に達している。
近年の目覚ましい循環器画像診断や薬物・非薬物治療が進歩したが、それは同時に心不全診療をより複雑なものとし、個々の患者に最適と考えられる治療を行うには高度な専門的知識が求められる。
高い心不全に関する専門知識をもつチームとして「正確な診断と個別化された科学的かつ先進的な治療」をモットーに掲げる順天堂医院における心不全に対する治療アプローチについて聞いた。

個々の患者さんの良好な予後やQOL改善に繋がる最適な選択肢を考え続ける

現在心不全は日本を含む世界各国で大きな問題となっています。問題となっているのはその死亡率と増悪による再入院率の高さなのですが、最近相次いで多くの大規模な臨床研究の結果が発表され、適切な薬物治療を行えばある程度は死亡や入院を要する心不全増悪といったイベントを防げることがわかってきました。しかし、その一方心不全の薬物治療の急速な開発及び進歩により、現在心不全の薬物治療は非常に複雑化しています。現在左室駆出率の低下した心不全(Heart Failure with Reduced Ejection Fraction: HFrEF)に関してはβ遮断薬、アンギオテンシン―ネプリライシン阻害薬、ミネラルコルチコイド阻害薬、そしてSGLT2阻害薬の4剤による治療が基本として位置づけられていますが、患者さんの背景によりどの薬を優先すべきか、また時にはどの薬の使用を控えるべきかが異なります。加えて、この4剤以外にもある特定の状況では推奨される心不全薬もあり、その使い分けは多岐にわたります。
また、心不全患者さんは概して高齢であり、慢性腎臓病や不整脈、肺疾患等多くの合併症をお持ちの事が多いため、その事がさらに心不全患者に対する薬物治療を複雑化させていますし、これに加えてMitraClipなどの心不全患者をも対象とした新しいカテーテル治療技術が出現しており、当院ではこれらの治療を全て行えるため、個々の心不全患者さんの予後やQOLの改善をどの選択肢を選ぶことにより達成できるかについて日々考えながら診療を行っております。
また、治療だけではなく、心不全の診断、特に心不全の原因となりえる心筋症の診断に関する進歩および新しい知見の蓄積もここ数年で著しく進歩しております。例えば、左室駆出率が低下していない心不全(Heart Failure with Preserved Ejection Fraction: HFpEF)のうち、心臓の左室壁厚が12㎜以上ある患者さんの約7-8人に1人は心アミロイドーシスである事が最近の研究でわかってきました。この事は患者さん本人にとって非常に大事で、診断がHFpEFであるか心アミロイドーシスであるかによって治療は180度変わります。
心不全であるHFpEFであればいわゆる心不全治療薬を検討していく事になりますが、心アミロイドーシスであればタファミジスという新規の薬物治療の導入を検討する事となります。それのみならず、心アミロイドーシス患者さんには心不全治療薬であるβ遮断薬やACE阻害薬、ARBは一般的には「使用すべきでない」薬剤であるため、心アミロイドーシスの可能性についての検討を行わずに漫HFpEFだと思って患者さんを治療する事は、逆に患者さんの予後を悪くしている可能性もあります。

このように、現在一口に心不全、と言ってもその診断、治療は非常に複雑化しており、近年その専門性は急速に高まっています。私達順天堂大学心不全・心筋症ユニットは、日々この進歩についていくべく心不全や心筋症に関する知識をアップデートし、しっかりとした診断及びエビデンスに基づく治療を、1人1人の患者様に合わせて提供しています。その主な現場となっているのが、2015年に開設し、現在は週3日行っている心不全・心筋症専門外来です。その需要は年々増え続けており(右図)、今年はおよそ1年で延べ900人以上の患者さんが来院しています。現在の順天堂大学医学部付属病院には心不全および心筋症の診断に必要な最新検査機器、そしてその検査結果を解釈するエキスパートがそろっており、診断できない疾患はないと言えます。
また一部治療を行う際に医師や医療機関が認定される事が必要な治療に関しても、そのほぼすべてを有しております。例えば前述の心アミロイドーシスの生命予後を改善る内服であるタファミジスは、日本循環器学会が新アミロイドーシスに関して高度な知識を有する医師が適切に使用する事を目的に、学会に認定された施設で認定された医師のみにより薬剤導入が可能となっておりますが、順天堂大学医学附属順天堂医院は都内では10の認定施設の1つであり、私はその医師認定を受けております。

<心不全外来年間患者来院数>

心不全外来年間患者来院数

心不全は非常にコモンな疾患ながら、その診断及び治療は急速に個別化医療を目指して進歩しています。患者さんが息切れや足のむくみを感じた時にまず頼るのはその地域に根差すプライマリケアの先生方ですので、ぜひその際には患者さんにベストな治療内容は何か、また心不全の裏に治療をも変える可能性がある心筋症が潜んでいないかを探る為に、一度私達順天堂大学医学部附属順天堂医院の循環器内科外来にご紹介いただければ、適宜心不全・心筋症専門外来にご案内し、必要な検査を行わせていただいた上で必要であれば外来で併診等させていただきます。

順天堂大学医学部附属順天堂医院

順天堂大学医学部附属順天堂医院は、特定機能病院の指定および先進医療・救急指定病院の指定を受けた総合病院です。 28の診療科と1,036床の病床を有し、1日平均899人の入院患者・平均3,515人の外来患者さんの診療を行っています。

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