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新潟大学から順天堂へ 南野徹が順天堂医院で成し遂げたいこと

Doctor's interview

Minamino
Toru

順天堂大学大学院医学研究科
循環器内科教授

1999年 千葉大学医学部卒業、1997年 医学博士号取得(東京大学)。新潟大学大学院医歯学総合研究科循環器内科教授、副病院長を経て2020年より現職。

新潟大学から順天堂へ
南野徹が順天堂医院で成し遂げたいこと

幕末期にいち早く西洋医学を採り入れた医学塾として天保9年に開設された順天堂医院。
人のために尽くす“仁”の精神を常に重んじ、この基本姿勢は高度先進医療を提供する
特定機能病院の役割を担うようになった現在も変わらない。
昭和43年専門別化編成に伴い北村和夫教授によって開始された歴史ある循環器内科学教室は、昨年より新しい教授として南野 徹を迎えた。

順天堂大学大学院医学研究科循環器内科学教室を主宰することになりました南野 徹と申します。私は金沢出身で、家系は代々開業医だったため、医学を志した幼少の頃の夢は、家庭医となって地域住民の医療を支えることでした。その後、大学病院や関連病院での研修・診療、国内外での医学研究、大学における医学部学生や研修医、大学院生に対する教育など様々な経験を経て、より多くの患者への幅広い医療の実践や、新しい診断・治療法の開発に貢献したいと考えるようになりました。その夢を実現させるために、医学部の学生の能力を最大限に伸ばすことによって多くの優秀な人材を育成し、大学病院を中核とした医療を充実させ、革新的な医学研究を行うことによって、日本そして世界の医療に貢献するとともに、新たな医学の知見を世界に発信したいと考えています。
本講座は内科の専門別化編成に伴い北村和夫教授により昭和43年に開始された古い教室です。その後、冠動脈造影法の草分けである山口洋教授のもと、虚血性心疾患の診断・治療の拠点として発展し、さらに代田浩之教授のもと、幅広い分野の先進的な循環器診療を行う診療科として発展してきました。今後もその伝統を継承しつつ、新しい風を取り入れながら、「人材育成・教育」「順天堂循環器内科から世界へ発信」「国内外への人材派遣」を目指して教室を発展させていきたいと思っています。

Story
南野徹の歩み

はじめに

私はある日見つけた総説の記事を契機にテロメア・テロメラーゼと血管老化について研究しようと決心しました。これが偶然や運命と呼ばれるものなのか、私にはわかりません。
ただし私は、「何事にも偶然はなく、運命にじっと身を任せるよりは、運命を切り開いていきたい」といつも思っています。
そのような私の最近20年の経験をご紹介したいと思います。

基礎研究への入り口—東京大学医学部第三内科

卒業後5年間は循環器内科医として臨床研修を行いました。私も他のヒトたちがそうであるように、循環器内科の臨床のダイナミズムに惹かれてこの道を志しました。しかし、日常臨床の流れに徐々に慣れてくると、個々の疾患の病態生理に興味が移りました。特に印象に残っていたのは、家族性の拡張型心筋症の症例でした。
当時は原因となる遺伝子が存在するかどうかも定かではなかった時代ですが、その遺伝子を同定することによって拡張型心筋症が治療できるのではないかと考えたのです。

そこでその頃、循環器領域の分子生物学研究のメッカであった矢崎義雄先生の研究室の門をたたいたところ、研究生として参加させていただけることになりました。当初は、小室一成先生(現東京大学教授)が率いる心不全グループに所属する予定でしたが、矢崎教授の勧めもあり、栗原裕基先生(現東京大学教授)がチーフをされていた血管グループに配属されました。そこでは、世界的にも研究が盛んとなっていたエンドセリンと動脈硬化についての研究をさせていただくことになりました。

初めて栗原先生の研究室に伺った日に、「南野君、引き出しはどこにする?」と言われたのを覚えています。当時は、矢崎先生の研究室でもそれほど広いスペースはなく、10名ぐらいのヒトたちが6−8帖ぐらいの広さの研究室で、朝から夜中まで必死に研究していました。私は引き出しを一つもらい(3年の間には4つの引き出しを所有することができました)、研究をスタートさせましたが、朝の実験台の取り合いに破れると、遠心機のふたの上で実験していたことも良く覚えています。

3年目にはなんとか学位論文を仕上げる目処がたっていたので、次は自分が一生取り組むことができるテーマを探そうと考えました。ある日、図書館に行くとテロメラーゼに関する面白い総説に目が止まりました。ヒトのがん細胞で簡単にテロメラーゼ活性が測定できる方法が開発されたという記事でした。この頃はまだテロメラーゼは、分子としては同定されていませんでしたが、酵素活性としては検出が可能となっていました。私はこの記事に大変興味を持ち、以来テロメアやテロメラーゼと血管老化について研究しようと決心したのです。

<東京大学医学部>

東京大学医学部

血管老化研究の開始—ハーバード大学医学部

テロメアは染色体の両端に存在しその安定性に寄与しています。残念ながら私たちのDNA複製は完全ではなく、分裂するごとにテロメアは短縮します。ある一定の長さまでテロメアが短くなると、細胞は短縮したテロメアをDNAダメージと認識してp53依存性の細胞の老化が誘導される訳です。これに対してテロメアを付加する酵素がテロメラーゼですが、がん細胞や幹細胞を除いてはその活性が低いために通常の細胞ではテロメアは分裂とともに短縮してしまいます。私はこのような細胞レベルの老化が血管の老化を引き起こしているのではないかと仮説を立てたのです。

そこで私は新しい研究を始めるために、海外へ留学することを考えました。しかし、その頃のテロメア研究のほとんどが、がん細胞で行われており、血管生物学を専門にしている研究室では、血管の老化研究さえ行われていない状況でした。テロメアで有名な研究室でサポートを得ながら血管の研究をするか、あるいは、サポートのない血管の研究室でテロメアの研究をするか悩みましたが、自分の実力を試すためにも後者を選ぶことにしました。そこで、ハーバード大学で血管を専門に研究室を主宰しているStella Kourembanas先生に面接をお願いして、サブテーマとしてテロメアの研究をさせていただけないかお願いしました。彼女は、低酸素と血管新生や血管リモデリングについて研究されている方でしたが、すぐに快諾していただきました。このようにして私は、「低酸素と血管新生」と「テロメア・テロメラーゼと血管老化」についての研究をスタートさせることができた訳です。

ボストンでの生活は貧乏でしたが、大変楽しいものでした。ポスドクの給料は安く、州政府から卵や牛乳のクーポン券など様々な補助を頂いたほどです。その補助を受ける際のアンケートで、紙や土など食べ物以外のものを口にしたことがあるかと尋ねられ、驚いたことを覚えています。研究室では、臨床のデューティーもないので、朝から夜中まで実験することができました。週末も返上して実験していたので、家族からはよく非難を受けましたが・・・。2年目にはいろいろ結果が出たので、論文を投稿していましたが、非常に厳しい批判を受けました。

あるレビューアーからのコメントで、「どうしてテロメアやテロメラーゼを血管で研究する必要があるのか?」などといった身も蓋もないようなお返事を頂くばかりでした。3年目も終わりに近づいた頃、日本ではバブルの崩壊後の不況が長引いていました。私の父も会社を経営しておりましたが、その煽りをうけ、それを契機に私は帰国することを決意しました。

<私が住んでいたボストン近郊の航空写真>

私が住んでいたボストン近郊の航空写真

帰国後の血管老化研究—千葉大学大学院医学研究院循環病態医科学

帰国当初は、母校である千葉大学の関連病院に勤務しました。数年ぶりのカテーテル治療などはやや緊張しましたが、非常に楽しいものでした。血管の老化研究に関しては、3年間の留学で全く成果が出なかったので、ほぼ断念していました。しかし、毎日のように緊急入院してくる患者さんに血管形成術を行っても、また別の血管病変で狭心症・心筋梗塞を起こして再入院してくる姿をみて、やはり根本的な治療法を開発しなければならないと感じていました。
ちょうどその頃、なかなか受理されなかったテロメア・テロメラーゼと血管老化の論文*1がようやく受理されることが決まり、また血管の老化研究を再開する決意を固めました。カテーテル検査の合間を縫って、週に半日だけ研究を続けました。その後も、留学中の仕事に関する論文を粘り強く投稿し続け、「低酸素と血管新生」と「テロメア・テロメラーゼと血管老化」に関してそれぞれ1報ずつpublicationを得ることができました*2,3。

千葉大学に戻ってからは、当時赴任された小室教授のご許可を頂き、血管老化や血管新生の研究を続けることになりました。この頃には、血管におけるテロメアや細胞老化研究は世界的にも認められつつあり、大学に戻って以来、テロメア依存性の細胞老化が血管老化に重要であること*4,5、テロメア非依存性の細胞老化シグナル(アンジオテンシンIIやインスリンシグナル)も血管老化に重要であることなどを発表することができました*6,7。特に初めてNatureに受理された心不全に関する論文が、留学中に行っていた2つのテーマ(低酸素とp53)を融合させるような内容となったことは、大変感慨深いものがあります*8。その後、テロメアが糖尿病とも関連があるというデータをNat Medに発表することができたことも、大変うれしく感じています*9。

<当時の千葉大学医学部近郊の航空写真>

当時の千葉大学医学部近郊の航空写真

千葉大学から新潟大学、さらに順天堂大学へ

その後ご縁があり、2012年から新潟大学の循環器内科学講座を主宰させていただくことになりました。千葉大学で大量に飼育していた遺伝子改変マウスや研究設備を新潟大学へ移動させることにかなりの時間を費やしましたが、新潟大学においても「細胞老化研究」をさらに発展させることができました。千葉大学時代に発表したNatureやNat Medでは、加齢やストレスにより、心臓や内臓脂肪に老化細胞が蓄積(臓器老化)すること、そのような心臓や脂肪における老化細胞の蓄積がそれぞれ心不全や糖尿病の発症や進展に関わっていることを明らかにしましたが、新潟大学ではさらにその研究を発展させ、心臓が老化すると内臓脂肪が老化することで代謝が悪化し心不全が増悪すること*10、セマフォリンという分子が脂肪老化と糖尿病を結ぶ鍵分子であること*11、血管が老化すると糖尿病になりやすくなること*12などを明らかにすることができました。

さらに今回、順天堂大学循環器内科学教室で活躍する機会をいただき、それらの研究を発展させ、蓄積した老化細胞を除去(Senolysis)すると健康寿命延伸につながることを明らかにしています。これを機会に改めて、ここまで研究を継続できたのも多くの方々のおかげであると肝に銘じ、さらに意義のある研究を目指して頑張りたいと考えています。

細胞老化研究

おわりに

医学研究の分野は、基礎・臨床ともに無数に存在します。しかし、一つの分野、つまり自分が進むべき道において、自分をしっかり磨くことが大切だと感じています。また、運の巡り合わせを知り、不運にくじけないことも重要だと思います。
上記のボストンへの留学中に始めた研究が、全く評価されることなく帰国した時には、医学研究や医療に対する情熱を一時失いかけていました。しかし、地域の関連病院の臨床の現場に戻って、当時「ステント治療が冠動脈疾患の予後を改善しない」などの現実を実感することによって、根本的な循環器疾患治療の開発に向けた情熱を取り戻すことができました。
現在、日本の医療の現場では、経済的・社会的背景とも相まって、人間関係が希薄で医学研究や医療に対する情熱を失いかけている医師が増加しているように感じます。

そこで、包括的な教育や先進的な医療、革新的な研究を行っていくことによって、多くの学生や研修医、シニア医師が有機的に集う魅力的な循環器内科教室を確立し、地域医療や先進医療、基礎研究などを含めて、自分で進むべき道をしっかり見極め、熱い志を持って邁進できる医師を育成していきたいと考えています。

References

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  • Minamino, T. et al. Targeted expression of heme oxygenase-1 prevents the pulmonary inflammatory and vascular responses to hypoxia. Proc Natl Acad Sci U S A 98, 8798-8803 (2001).
  • Minamino, T. & Kourembanas, S. Mechanisms of telomerase induction during vascular smooth muscle cell proliferation. Circ Res 89, 237-243 (2001).
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  • Minamino, T. & Komuro, I. Vascular aging: insights from studies on cellular senescence, stem cell aging, and progeroid syndromes. Nat Clin Pract Cardiovasc Med 5, 637-648 (2008).
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  • Miyauchi, H. et al. Akt negatively regulates the in vitro lifespan of human endothelial cells via a p53/p21-dependent pathway. Embo J 23, 212-220 (2004).
  • Sano, M. et al. p53-induced inhibition of Hif-1 causes cardiac dysfunction during pressure overload. Nature 446, 444-448 (2007).
  • Minamino, T. et al. A crucial role for adipose tissue p53 in the regulation of insulin resistance. Nat Med 15, 1082-1087 (2009).
  • Shimizu, I. et al. p53-induced adipose tissue inflammation is critically involved in the development of insulin resistance in heart failure. Cell Metab 15, 51-64 (2012).
  • Shimizu, I. et al. Semaphorin3E-induced inflammation contributes to insulin resistance in dietary obesity. Cell Metab 18, 491-504 (2013).
  • Yokoyama, M. et al. Inhibition of endothelial p53 improves metabolic abnormalities related to dietary obesity. Cell Rep 7, 1691-1703 (2014).

順天堂大学医学部附属順天堂医院

順天堂大学医学部附属順天堂医院は、特定機能病院の指定および先進医療・救急指定病院の指定を受けた総合病院です。 28の診療科と1,036床の病床を有し、1日平均899人の入院患者・平均3,515人の外来患者さんの診療を行っています。

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